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巨乳の彼女を恥ずかしがらせるだけの話  作者: りむ


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17/21

#17 装備するだけの話

土曜日の午後、駅前のショッピングモールはにぎわっていた。人混みを避けるように、ひよりは姉のしずくちゃん後ろをちょこちょこと歩いていた。


「緊張してるの?」

「うん……なんか、変な感じ……。」

「大丈夫だよ。誰でも通る道なんだから。」


にっこり笑って、ひよりの手をそっと引いた。向かったのは、女性向けの下着や服を扱う明るい雰囲気のショップだった。店内は落ち着いた音楽が流れ、ふわっと柔らかい香りが漂っていた。

早熟なひよりは、大人用のブラジャーを必要としていた。そして、5年生にして中二病を発症している。


「わあ……! これ全部、下着……! うわっ、カラフルー!」


目を輝かせて下着売り場に飛び込んだひより。まだ子ども用コーナーにいそうな年齢で、妙にハイテンションなのが浮いている。しずくちゃんは、ひよりの背中を追いながら、そっと周囲の視線を確認する。


(……子どもなのに、下着売り場ではしゃがないでよ、もう……)


「お姉ちゃんっ! これ、どう!? こういうの“持ってる者”っぽくない?」


振り向けば、ひよりが手にしていたのは──

やたらゴージャスなレース、控えめに言ってお色気全開なブラジャー。


「やめなさい。今のひよりが着たら“持ってる”ってより、“持て余してる”になるから!」


しずくちゃんがブラの棚を見ていると、ひよりが戻ってきて、耳打ちしてきた。


「ねぇ……お姉ちゃん……“サイズ、測ってもらうやつ”……って、どうしたらいいの……?」

その声は、いつものひよりよりずっと小さくて、少しだけ震えていた。


(中二病こじらせてても、やっぱり緊張するよね……)


「スタッフさんに声かけて、一緒に行く? 一人じゃ不安でしょ」

「……うん」


しずくちゃんが店員さんに声をかけ、ひよりはカーテンの奥に案内される。 


「少し緊張するかもしれませんが、大丈夫ですよ。成長してる証拠ですからね。」


店員さんの声に、ひよりは少しだけ安心した顔になった。

しばらくして、カーテンのすき間からちらりと顔を出した。


「……お姉ちゃん……」

「なに?」

「……この儀式、思ってたより“本物(ガチ)”なんだけど……!」

「だから“儀式”って言わないで」


店員さんは慣れた手つきで、ひよりのバストの位置、アンダーのラインを測る。


「はーい、ちょっと腕を下ろして楽にしてくださいね~」


(あっ、あっ、なんか……なんか恥ずかしい……!)

(これが、“持ってる者”の通過儀礼……!?)

(──今、聖なる数字(バストサイズ)が告げられる。私の“真の姿”が明らかになる……!)


「はい、トップ82cm、アンダー65cmで……うん、ではこちらのサイズが合いそうですね~」

「……っ!」


カーテンの奥で小さく震えるひより。


(このサイズ……! 私、今……“ステージを超えた”……!!)


しばらくして、採寸を終えたひよりが出てくる。しずくちゃんと一緒に選んだ淡いラベンダー色のブラジャーを試着して、ひよりは鏡の前に立った。


「……どう?」

「うん、すごく似合ってる。」


鏡に映る自分の姿を、ひよりはじっと見つめた。いつもより少しだけ大人びたように見える。まだ慣れないけれど、それでも、なんだかうれしかった。

その直後、しずくちゃんにドヤ顔を決める。


「……お姉ちゃん……」

「うん?」

「私さ、やっぱり……“選ばれた側”だったよ……」

「えっ……?」

「これ、Dカップだって……!!」

「はいはい、もうちょっと静かに“選ばれて”くれると助かるんだけど……」

「えー!? でも、これってさ、選ばれし者の運命さだめって感じしない?」


(……は、始まった……)


しずくちゃんは、頭を抱えたくなるのを必死に堪えた。


「だってさ、普通のサイズはSMLとかじゃん。でもこっちは“ABCD”だよ!? これってもう……ステージが違うってことじゃん!?」

「……あーはいはい、じゃあDは“第4形態”ってこと?」

「いや、むしろ“D=Destiny”の“D”でしょ」

「えっ、じゃあAは?」

「“Apprentice”」

「Bは?」

「“Beginner”」

「Cは?」

「“Candidate”」

「全部ちゃんと考えてるの!?」

「もちろん! だってこの“カップ階級”は、進化の証だから!」


しずくちゃんは、頭を抱えそうになりながらも、なんとなく笑ってしまった。こういうところ、ひよりは全力だ。ある意味で、迷いがない。


「……うん、たしかに。ひよりは、自分にしかないものを見つけたって感じなんだね」

「そうそう! これって、もう“与えられた使命”っていうか……私に課せられた運命だと思うの」

「……使命ね。でもさ、使命って言うなら……ちゃんと大事にしなきゃだめだよ?」

「うん。だから私、“守るべきもの”のために生きるって決めたの」

「……なら、キャミソールも買ったほうがいいよね」

「え、なんで? お姉ちゃん、いっぱい持ってるでしょ?」

「うん。でも……ちゃんと“守る”ために、ね」

「守るって……なにを?」


首をかしげるひよりに対して、しずくちゃんはちょっとだけ口元をゆるめて、冗談めかして言った。


「だって、“選ばれし者”が持ってる大切なものだから。ちゃんと包んで、支えて、守ってあげないと。ひよりも必要でしょ?」


ひよりの目がぱあっと輝いた。


「わかってるー! そうそう! 胸ってね、“守るべき使命”があるんだよ! だから私、ちゃんと率先して大人用のブラジャーしてるんだから!」

「実際に、シャツの下に何も着てないと、ブラの形が透けたり、動いたときにズレたりしやすくなるの。そうなると、余計に目立っちゃったりして、恥ずかしいでしょ?」

「……うん、たしかに……」

「キャミソールを着ておけば、そういうのを防げるし、ブラも長持ちするし、肌も守ってくれる。汗も吸ってくれるから、夏場は特に大事なんだよ」


ひよりは、しずくちゃんの手元をじっと見つめながら、小さくうなずく。


「……そうなんだ……。私、ただの“かわいいインナー”って思ってた」

「それでもいいけどね。かわいいのを選ぶのも、気分が上がるし。でも、それだけじゃないって知ってると、自分の体をもっと大切にできると思うよ」


ひよりは手に取っていたキャミソールを胸元に当てながら、真剣な目で鏡を見つめた。

「……じゃあ、ちゃんと選ばなきゃだね。“持ってる者”として」


「そうだね。“選ばれし者”なら、そういうとこからちゃんと始めないとね」

しずくちゃんの口元には、少し照れたような、それでいて優しい笑みが浮かんでいた。


「そうなのっ! お姉ちゃん、分かってきたじゃん!」


嬉しそうに頷くひより。その無邪気な自信に、しずくちゃんは思わず笑ってしまった。

しずくちゃんは小さく笑ってキャミソールの棚に移動すると、ひよりもついてくる。


「ひよりも、自分に合うの探してね」


ひよりがキャミソールの棚を探っているしている間に、しずくちゃんはちらりとスマホを見た。私も、これから行うべき“使命ミッション”がある。

(……いや、ひよりの言い回しがうつったかも)


ショップの奥にあるカウンターには、名前を呼ばれるのを待っている取り置きの袋がひとつ。しずくちゃんは、数週間前に、こっそり店で採寸して注文していたのだった。


(……そろそろ、受け取りに行こうかな)


誰にも見られないように、さりげなく足早にカウンターへ向かう。もちろん、ひよりにも気づかれないように。できれば、キャミソールに夢中になっている間に終わらせたい。

落ち着いたネイビーに繊細なレースがあしらわれたブラジャーとショーツのセット。普通の売り場には並んでいない、特注サイズ。


「すみません、予約していた商品……届いてますか?」

「あ、園宮しずくさんですね。お待ちしておりました。こちらです。」


店員さんがそっと袋を差し出す。目立たないように、紙袋に入れてくれているのはありがたい。受け取った瞬間、しずくちゃんは反射的に辺りを見回した。


(よし……ひより、まだキャミソールに夢中みたい……)


そう思った、まさにそのとき。


「お姉ちゃーん! これとこれ、どっちが“持ってる者”感あると思う!?」

「~~~~っっっ!!」


思いっきり振り返ると、そこにはキャミソールを両手にぶんぶん振ってるひよりの姿。……だけじゃなかった。しっかり目が合ってる。しかも、その視線は、紙袋のほうに吸い寄せられていた。


「ん? それなに?」

「え、え、いや、これは、その、ただの……予約してたやつで……」

「ふーん……どれどれ……?」


ひよりが、猫のように静かに、そして意外と素早く近づいてくる。


「ちょ、ちょっと待って、それは――」

「……見えたっ!」


しずくちゃんが隠そうとしたその一瞬の隙をついて、袋の中をのぞき込んだひよりの目が、点になる。


「…………L?」


店内に、ふわっと時間が止まったような沈黙が訪れる。


「……えっ、お姉ちゃん、まだSとかMとかのサイズだったの!? 子ども〜?」

「ちがっ……っ、ちがうの! これ、そういうLじゃないから!」

「え、え、だって服ってSMLでしょ!? じゃあLって……子ども用の大きめサイズじゃん!?」

「もう! ちがうの!! それ、“バストのカップサイズ”のLなのっ!!」

「…………え?」


ひよりが硬直した。


「え、え? え? ええええっ!? カップって……Lまであるの!?」

「そうだよっ……あるんだよ……」

「ABCDEFGHIJKL……」

「数えないの!」


耳まで真っ赤にして、しずくちゃんは小声で答えた。


「じゃあ……私のDカップって、全然じゃん……。『立派なお胸ですねー』とか言ってたけど、さっきの店員さんが小さかっただけ?」

「そういうこと言わないの!」


しずくちゃんは、ひよりの耳元で、平均的な成人女性のバストサイズについて説明した。

そして、しずくちゃん自身が、そこからどの程度逸脱しているのかを説明した。

当然、顔は真っ赤で、もはや表情は涙目に近い。


「……Lカップってさ……さすがにデカすぎでは?」

「言わないでってば……!」


しずくちゃんは顔を真っ赤にしながら、紙袋を身体の後ろに回した。けれど、完全に隠しきれるわけもなく、ひよりはジト目で姉を見上げる。


「Lって、もはや“服”っていうか“収納”じゃん……。そうやって手を後ろにまわして強調されると、改めて凄いサイズだと思うよ……」

「ほんと、やめて……! そんなつもりもないし、お店でそういうこと言わないの! ……恥ずかしいでしょ?」

「え、なんで? すごいことじゃん。ドドンと構えてさ、私は選ばれた女ですけど? って顔すればいいのに。“Legend”なんだし」


しずくちゃんは深くため息をついた。


「……ねえ、ひより。逆にさ、あなたが今お店で『Dカップです!』って声に出されたら、どう思う?」

「……え?」

「スタッフさんに、『Dですね〜♪』って大きめの声で言われたら、恥ずかしくない? 友達とかクラスメイトとか近くにいたらどう思う?」

「いや、でも私は……選ばれし者だから」

「は?」

「私がDなのは偶然じゃなくて、選ばれし者の宿命(さだめ)だから……。これはもう、運命に刻まれた血の契約……!」

「なに言ってんの……」

「しかも、私には、高貴なる義務ノブリスオブリージュがある」


しずくちゃんは、ぐらりとよろめいた。話が通じない。


「……はあ?」

「だって私のクラス、たぶん胸のない子が大半なのに……私だけDとかさ、これはもう……啓蒙すべきじゃない?」

「……啓蒙?」

「“この先、こうなるんだよ”って、示してあげるの。ちょっと気まずそうにしてる子には、私が希望を届けるの。私の成長は、後進の道標ロードマップだから……」


(……なんで、こんなに自信あるんだろ。私なんて……ずっと、“周りの目が気になる”ばっかりだったのに)


それが、羨ましいと思った。ひよりは、しずくちゃんの視線に気づかず、ひとり満足げに頷いている。


「……はいはい」

そう言いながらもしずくちゃんは、ふっと笑っていた。妹のその根拠のない自信と、どこか突き抜けた明るさが、ほんの少しだけ、まぶしく感じたのだった。


(……なんだかんだで、こういうところ、ひよりには学ぶこと多いのかも)


「でも、ひよりもきっとなるよ。……私くらいには、ね」

「へ?」


キャミソールを手にしていたひよりが、不意に顔を上げた。


「なにが?」

「なにがって……大きさの話」


しずくちゃんは、少しだけ視線をそらして、バツが悪そうに笑う。


「……ああ、胸の?」

ひよりはまったく気にする様子もなく、ぽんっと自分の胸を叩いた。


「ふふん。やっぱり私、選ばれし者だからねー!」

「はいはい……でもね、大きければいいってものでもないんだよ」


しずくちゃんはそう言いながら、近くに並んだスポーツブラの棚に目をやった。


「走ると揺れるし、肩もこるし、寝るときも邪魔になるし……。あと、水着とか制服とか、合うサイズがなかったりするの。体育のときも、目立ったり、いろいろ工夫しないといけなくて……結構、大変なんだから」

「……そっか。大きいのも、ラクじゃないんだね」

「うん。あとね、学校の水着も特注になるの」

「えっ、そうなの?」

「うん。普通のスクール水着、胸のあたりが合わなくて……。ちょっと動くだけでズレたり、縫い目が引っ張られたりするんだよ」

「うわ……それ、めっちゃ大変そう」

「そう。だから、ちゃんとサイズを測って作ってもらわなきゃいけないの。今日も、実はその水着の受け取りに来てたんだ」

「えっ、そうだったの!? ブラじゃなくて、水着も!?」

「そうだよ……。お店で取り寄せてもらったの」


しずくちゃんは、少し照れくさそうに笑ってから、小さく息を吐いた。


「ほんとは、ひよりがキャミソール選んでるうちに、こっそり受け取ってこようと思ってたんだけどね……。ま、もう隠しても仕方ないか」

「いいよ、一緒に行こっ!」


ひよりがにこっと笑って言う。その無邪気な顔に、しずくちゃんはつい苦笑いを返した。


「……わかった。でも、あんまり大きな声出さないでね? 店員さんが困っちゃうから」

「わかってるって~。“Legend”の受け取りなんでしょ?」

「……その呼び方やめなさい」


2人は軽く笑い合いながら、ショッピングモールの端にある、小さなインポート専門のランジェリーショップに向かう。ガラス張りの静かな店内の奥、受け取りカウンターへ向かう。ショッピングモールの喧騒が少し遠ざかり、控えめな音楽と、柔らかな香りがふたりを包み込む。


店員が笑顔で迎える。

「園宮しずく様ですね。ご予約のお品、こちらになります」


白い紙袋がそっと差し出される。袋の中には、落ち着いた紺色のスクール水着。見た目は普通の学校用だけれど、生地の厚みもサポート力も、既製品とはまったく違う。タグには「Lカップ対応・特注」と控えめに印字されていた。

ひよりがちらりと袋をのぞき込み、興味津々に尋ねる。


「これが……特注の水着?」

「そう。動いてもズレないように補強してあるんだって。普通のより生地が厚くて、形もきれいに出るみたい」

「なんか、凄そうだねっ」

「……これも、選ばれし者の大切なものを守るための……“神器アーティファクト”ってやつ、かな……」


しずくちゃんは手に取った柔らかなキャミソールを眺めながら、ぽつりとつぶやいた。

その言葉に、隣のひよりがぴたりと動きを止めた。じっとしずくちゃんを見上げて、目をまんまるにする。


「……え、なにそれ」

「え、いや、その……ほら……」

「お姉ちゃん、それはちょっとクサすぎない?」

「~~っっ!!」

「ひよりの設定にあわせたんだよ?」


しずくちゃんは顔を真っ赤にして、慌てて水着を戻そうとする。けれどひよりはニヤニヤしながら、その手を止めた。


「えー、いいじゃんいいじゃん。お姉ちゃん、こういうの言うとき可愛いよ?」

「か、かわ……やめてよ、そういうこと言わないの!」


ひよりはけらけらと笑った。でもその笑顔のあと、少しだけ真面目な声で言った。


「でも、なんか分かったかも。大きいって、ただ目立つだけじゃなくて、ちゃんと支えたり守ったりしなきゃいけないんだね」


しずくちゃんは、ふっと目を細めた。


「……うん。そう。だから“守るためのもの”を選ぶの、大事なんだよ」

「そっか……。じゃあ私も、今日選んだキャミソール、大切にするね」

「うん。それがいちばんいいと思う」


夕方の光が、店のガラス越しに差し込む。二人の影が並んで伸びる。袋を抱えるしずくの横で、ひよりが楽しそうに歩いていた。


「……ねえ、ひより」

「うん?」

「次、プールの授業、あるんだけど。私、ちょっとだけ怖かったんだ」

「……うん」

「でも、着るよ。これ。ちゃんと、自分で選んだやつだから」

「うん。すごく、いいと思う」


その言葉には、嘘がなかった。ひよりは、子どもっぽいところもあるけど、今日の彼女は、間違いなく、少しだけ“お姉さん”に近づいていた。なんだかんだで、ひよりを連れてきてよかった。

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