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セフィルの声が届いてお父さんが抵抗している。
今がチャンス!
一気に射程まで走り込み、剣を抜き様に鎖を
断ち斬りにいく!
が、その周りの影が蠢き剣の走る先に重なり合う。
俺の剣は影を斬る形になり、剣を止められた。
弾かれるでもなく、硬い何かにぶつかるでもない。
例えるなら泥の中に剣を振り込んで重さで
止まる、そんな感触。
蠢く影が、剣を伝って上がってくる!
背筋にゾクっと悪寒が走った。
「その影に触れちゃダメだ!」
クッ!
カルソさんの叫ぶ声と同時に、俺は剣で影を
振り払う様に斬り、後ろに飛んで大きく離れた。
「その影に触れると生気を吸い取られるぞ!」
生気を吸い取る?何かのゲームでもあった!
エナジードレインってやつだ。
触れる訳にいかない、って事は発勁も打てないのか。
どうする?って迷っている暇は無い!
今がチャンスなのは間違い無いんだ!
とにかく斬り込んでみる!
素早く前進、距離のある位置から流星のかけらに
向けて、ランガースさんのロングステップの突き!
影が反応する。切先が少し影に埋まった瞬間に
シアのステップに変え、脇腹に斬り込む!
セフィルのお父さんを斬ってしまうかもしれない、けど
ごめん!今は止める事が優先!
しかし、影が剣を捉えて止める。伝ってくる影。
振り払いつつ、袈裟斬り!これもダメ!
ずしりと影が剣にのしかかった、マズい!
くぅ!
無理やり引き抜き急いで離れた。
このままじゃ届かない。どうする?
あの影は威力を殺す様に止める。なら、それ以上の
威力で入れば届く、か?
何にしても試さない事には何も生まれない。
「カルソさん!武器に魔力付与出来る方いませんか!」
「それならちょうど今!うちの魔術師を癒した所だ!
レイナル、彼の武器に魔力付与を。」
「分かりました!こちらまでお願いします!」
俺は全速でカルソさん達の所まで走る。
その間に魔術師の人が詠唱を始めた。俺は辿り着き
「この武器にお願いします!」
ダガーを差し出す。
「ロングソードじゃないのか?!」
「考えがあります。急いで!」
「魔力付与 短剣」
ダガーが光り輝く。
「ありがとうございます!引き続き治療を!」
また急ぎ戻り、流浪の魔術師と距離を取って
向かい合った。
セフィルが必死に叫んでいる、けど、少しずつ
流星のかけらの意思が勝ち始めている様に見える。
時間が無い!俺は走り出しながらセフィルに
「セフィル!ごめん!お父さんの身体を斬る!」
「ジュン!構わない!止めてあげて!
お父様を救ってあげて!!」
俺は頷き、距離を見定める。よし、この距離なら!
ダガーを流浪の魔術師に向けて放つ。
脇腹の位置に刺さる様に影に止められた!
ここだ!
ランガースさんのロングステップを踏み込みの
速度に変え、踏み込む!
ダガーの柄に向けて、発勁!
ドスゥン!!
踏み込みの音だけが辺りに響く。
ダガーの柄を押し込んだだけで、手に来る感触は
ほぼ無いに近い。
けど、発勁で押し込まれたダガーは影を貫き
セフィルのお父さんの脇腹を穿った!
グガァーーー!!
吠える様に叫ぶ流星のかけらの意思。
「届いた!」
思った瞬間、影が俺の手に巻きついた!
しまった!近くなりすぎた!
ズォ・・・・・。
身体の中から、引きずり抜かれる。
水分を、血液を一気に引きずり出される様な感覚・・・
「ジュン!!」
セフィルが体当たりして、俺を影から引き剥がした。
引きずり抜かれる感覚が止まる。
「ジュン!聞こえる?!ジュン!」
朦朧として意識が落ち倒れたジュンに、必死に
声をかけるセフィル。
グガァァ・・・
流浪の魔術師が苦しそうに悶え、ジュンに近づく。
セフィルはジュンを庇う様に間に入り、片膝をつき
両手を広げて
「この人には、絶対に触れさせない!!」
強く、流浪の魔術師を睨んだ。
流浪の魔術師が前進する足を止め、再び苦しみ始める。
グ・・・ガ・・・グ・・・
「お父様!!」
ゴァーーー!!!
叫ぶ様に雄叫びを上げ
フッ
流浪の魔術師は姿を消した。