12
また院長さんや、孤児院のみなさんの温かい歓迎を
受け1泊させてもらった。
本当に良い所だなぁここ。
長居したくなりそうな気持ちを抑え、いよいよ
帰路に出る。
当初、カイダールでは色々話を聞いてまわろうかとも
思ったけど、聞いて回る事の難しさをシスで知ったし
それよりも思った以上に情報が入ったから
今はいいかな?と思えた。
「母さま、また来るね。」
「いつでもおいで。」
院長さんは優しく笑い、メイに手招きして耳打ちする。
「次は、ジュンさんとの良い話を持って帰ってくるのを
期待してるからね?」
顔を赤くしながらも、頑張る!と返すメイ。
頑張るって何の話してるんだろ?
「本当にお世話になりました。ありがとうございます。」
「また、近くに来たら寄って下さいね。」
俺の言葉に優しく返してくれる院長さん。
「行こうか。」
後ろ髪引かれながらも振り向き、みんなで歩き出した。
メイは何度も振り返り、みんなが見えなくなるまで
手を振った。カイダールの住宅街を歩く。
街が賑やかに活気立っていた。
「そういえば、昼間のカイダール歩くの初めてだ。
来た時は朝で静かだったから。」
孤児院は街の南西の端にあり、そこからそのまま
南西にあるシスに向かったから街中通ってない。
住宅街から商店街に出ると、一層賑やかになった。
人もかなり多い!
「凄いね!賑やかで人多くて!」
「そうなんです!凄く良い所なんですよ!」
メイが嬉しそうに答えた。
「メイラール!今日は早いな!何買ってく?!」
商店のおじさんがメイに話しかけてきた。
「んーん、今日でまたセジアに戻るの!」
「なにぃ、そうなのか!そいつは残念だ!」
周りの喧騒が大きくて声の音量上げないと届かない。
メイが元気な理由が分かる気がするなぁ。
何かおじさんに貰っているメイ。今の話を聞いた
周りのおじさん達も、メイに色々渡してきた。
「ありがとうー!!」
手に一杯の荷物になり、振れない分大きな声で
おじさん達にお礼を言って戻ってきた。
「みんな良い人なんだね。」
「はい!そうなんです!いっぱい貰っちゃいました。」
歩きながらみんなにお裾分けして回るメイ。
そのままカイダールのメインの大通りに出た。
ポロン ポロン
ん?喧騒の中、楽器の音?が聞こえる。
そっちを見ると、人集りの中楽器を弾く人が見えた。
あれってひょっとして、吟遊詩人かな?初めて見た!
歩きながら耳を傾けて聞いてみる。
♪ 強者の集うセジアにして 最強と謳われしその男 セジアに残らず旅立つは かつての友への想いの為。 最強と謳われしその男 旅の先でもその名を広めん 今たどり着くカイダールにても 最強に違わぬ力を示す 迷宮の魔獣ミノタウロス 最強の前に崩れ落ちる カイダールを救しその名は不殺 次は何処でその名を示すか ♪
さぁさぁこれからが良い所!
今1番の噂の男!
最強セジア闘士不殺と、奴隷商ドイルがカイダールの
地下で飼っていたミノタウロスとの一騎打ちの歌だよ!
みんな聴いていかないと噂に乗り遅れるよー!
聴いていく方々は、3ヘイム!3ヘイムを
そこに入れておくれよー!
・・・ちょっと、待って。
え?俺の事?!ロナールがニヤニヤして横に来た。
「ジュン、どうよ?歌われる気分ってのは。」
「ロナール、知ってたの?」
「ああ。あいつら情報早えからなぁ。
街中であんだけ派手な出来事起きたんだ。
見逃しゃしねぇよ。
ジュン達がアジトを早朝に出たその昼間に
カイダールに仕事に出たサムリスが、話聞かせろと
囲まれたらしいぜ?」
サムリスさん・・・あの調子で話したのかなぁ。
内容が、すごく傾いてる気がする。
「私も毎日聴きに来ました!」
メイが自慢げに言う。
「えー!私も聴きたい!」
セフィルが俺の裾を掴んで言う。
お願いやめて?
こんなの自分が聞く事程、恥ずかしい事無いから。
「いやいや!こんな所にいたらなんか
嫌な予感するから、早くカイダール出よう!」
えー、と不満げなセフィルにメイが
「私、覚えたから道すがらに教えてあげるね。」
「やった!ありがとうメイ!」
メイに抱きつくセフィル。
良かった、納得してくれて。メイ、ありがとー。
でも、俺の聞こえない所で話してね?
俺は少し足早になって歩き出した。