8
しばらく泣き続け、少し落ち着きを戻したセフィル。
少し恥ずかしそうに俺から離れた。
「えへへ、ごめんね?
人前でこんなに泣いちゃったの初めて。
ジュンも突然こんな話聞かされても
困っちゃうよね。」
無理に笑顔を作りながら涙を指で拭って取り繕う。
俺はいつも汗拭くタオルを手に取って
「えっと、ちゃんと洗ってるから
臭わないとは思う、から、使って?」
セフィルは笑って
「あはは。ジュンの匂いなら全然良いよ。
ありがとう。借りるね。」
受け取ってくれた。良かった。
「セフィルのお父さんはすごい人なんだね。」
俺は素直に自分の思った感想を言葉にした。
ジュンの言葉にキョトンとするセフィル。
「え?今の話、聞いてた?
・・・私のお父様が・・・その・・・」
俺はニコッと笑って
「だって、怖くて誰も近づけなかった様な物なのに
森の為にって言って、行動してくれたんでしょ?
お父さんは人間って事はきっと、産まれたのも
暮らしてたのも、どこか普通の町とかで
どういう経緯か分からないけど、セフィルのお母さんと
出会ってから、森に住む様になったんじゃないの?」
「え?・・・うん。そう聞いてる。」
「つまり、お父さんにとって森は故郷とかじゃなくて
後から住み始めた場所。
そんな場所の為に身体を張って行動したんだよ。」
「あ・・・。」
俺は、今自分が出せる精一杯の笑顔を出した。
俺の伝えたい事が届く様に。
「よっぽど、好きだったんだろうね。
その場所が。
セフィルや、セフィルのお母さんがいるその場所が。
お父さんにとっては、自分の危険なんて顧みないくらい
守りたい場所だったんだろうね。」
「ジュン・・・。」
ジュンの言葉で、3人ですごく幸せに暮らしていた
日々が頭の中を巡る。
そうだった。
お父様は、お母様を、私を、とても大切に
してくれてた。3人で暮らす、あの森をとっても
大切にしてくれてたよ。
ずっと、厄災になってしまったお父様を思って
思い出さずにいた思い出。
セフィルの目から再び、涙がこぼれ落ちる。
セフィルは久しぶりに思い出す光景に胸が熱くなった。
ジュンを見つめる。
どうして?
どうして、この人はそんな風に想えるの?
私のお父様を、すごい人だなんて想ってくれるの?
誰かにお父様の事を言えば、厄災の娘と謗られたって
仕方ないって、ずっと思ってたのに。
ポロポロと涙を流しながらジュンを見つめる。
胸が締め付けられて、たまらなく苦しくなった。
もう一度、ジュンから借りたタオルで涙を拭き
満面の笑顔で
「私のお父様を、そんな風に想ってもらえて嬉しい。
ありがとう!ジュン。」
とだけ、伝えた。
伝え足りない言葉を胸に残す。
けど、今はこの気持ちがそれなのか、私には
分からないから、ちゃんと分かったら伝えよう。
はにかむ様な表情のセフィルを見て、元気が
戻ってくれたんだって安心した。
ふと、また風がふわりと巻き
グスッ
と音が聞こえた。
「誰かいる?」
林の方に振り向いた。
「え!マジか!」
って声が向こうから聞こえ、バツが悪そうに
ロナールとコッツが出てきた。
「いやー・・・すまん!
こんな大事な話を盗み聴くつもりじゃなかったんだ。
ただ、寝始めてすぐ、2人でコソコソと暗がりに
行ったから、何しに行ったのかなーって
ちょっとだけな?気になっちまってな?
そーっとついて行ったら、コッツさんも一緒になって
見に来ちまって。」
「・・わ!」
自分でも驚くくらい大きい声で出て口を塞ぐコッツ。
「・・・わたし、は・・・メイの為にか、監視・・・
しないとって。」
フードを外してたコッツは慌ててフードを深く被る。
「まー、なんだ。それで話聞こえちまってな。
あー・・・ごめん!セフィルさん!」
ロナールが頭を下げる。それを見て、はわ!と
慌ててコッツも合わせて下げる。
「あはははは」
お腹を抱えて笑うセフィル。
「気にしなくて良いよ、大丈夫。」
セフィルの笑い声に少しホッとしたロナール。
「いや、まさかコッツさんの啜り泣くあの音
聞き取るとか、ジュンまじやべーな。」
「そんな事より、何すると思ってついて来たわけ?」
俺がちょっと呆れた顔で笑って突っ込む。
「い、いや、それは、ほら、な?」
慌てるロナール。セフィルが
「ジュン。
私は初めては、ちゃんとお部屋が良いからね?」
悪戯っぽく笑って言った。