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シスからの帰路。
無事にコッツは、ラルさんからもらった石に
流浪の魔術師の魔力を感応させてくれた。
やっぱりコッツにも来てもらって良かった。
俺だけだと、もし感応してくれなかった時どうしたら
良いか分からずにまた、カイダールに戻る、なんて
事態も想定出来ちゃうし。
そのままコッツに掛けてもらう事にした。
俺だとアーマーの内側入れちゃうから
光ってても分からないもんなぁ。
コッツに首飾り掛けててもらっても良いかな?と
聞いたら
「・・・ジュン・・・かけて。」
と言われてしまった。
え、女の子にネックレス描けるなんて
やった事無いんだけど?と思ったんだけど
ローブを外して軽く頭を下げてくれたので、そっと
コッツの首にかけた。
コッツの首細!めちゃくちゃ緊張したー!
コッツすぐフード被っちゃったから、表情全然
分からなかったし。
俺なんかが掛けて良かったのかな?
まぁともかく、コッツに掛けてもらってる
首飾りの石から、弱く細い光が、どちらとも言えない
方向を指している。
コッツの話では、光は対象に近くなるほど強くなり
明確に方向を示すらしい。
つまり今は、遠過ぎて何処だか分からないって事だ。
まぁ、今近くにいられても心の準備整って無いけど。
何にせよ、シスでの目的は無事に全て達成出来た。
来た道で眺めた町を同じ場所で振り返り、もう一度
この綺麗な町を眺めておく。
パシム。ありがとうな。一緒に帰れたか?
ちゃんと奥さんに渡したからな。
無事に帰っていて欲しいと想いを込めて眺め、踵を返し
歩き出す。
今回のシスの用事、この短い時間で終わったのは
コッツとロナールのお陰だよな。仲間って良いなぁ。
ふと、隣を歩くセフィルの元気の無い様子が
気になった。
2人はちゃんと2人の仕事をしてくれた。
俺もパーティのリーダーとして、ちゃんとしないとな。
夜。今日は中継地で休む。
食事後、各々が焚き火を前に休みだす。同様に
休もうとするセフィルに、俺は声をかけた。
「セフィル、休もうとしてる所にごめん。
ちょっと良いかな?」
「うん。大丈夫だよ。」
一緒に、少しだけ離れた所にある林の所まで行った。
程よい丸太を見つけて、並んで座る。
「どうしたの?ジュン。」
「うん。昨日のシスでの事から、セフィルがちょっと
元気無いなって思ってね。どうしたのかなって。」
「気にしてくれてたんだ?」
「もちろんだよ。俺に何か出来る事があるのか
分からないけど、俺で良かったら話してくれると
嬉しいな。」
セフィルは、深く被っていたローブを浅めに被り直し
少し嬉しそうな表情を見せた。
「ありがとう。
誰にも話した事ない話だから、聞いてもらえるのって
ちょっと嬉しい様な抵抗がある様な感じ。」
「もし、話しづらい事なら無理しなくていいからね?
話せる範囲で構わないから。」
ジュンの気遣いが伝わる。優しい人だな、本当に。
「うん。ジュンに聞いて欲しい。
私が流浪の魔術師を探してるのは、もう
分かってるよね。」
「うん。それは気付いてた。」
セフィルはニコッと笑い、続ける。
「少し、話が長くなるけど良いかな?
私は、ハイエルフのお母様と人間のお父様の間に
産まれたんだ。
私が産まれてから20年くらいは、ずっと
シスタンカナで幸せに暮らしてた。
私は320年くらい生きてるから、300年くらい
前の話だね。」
すごいなぁ。300年前っていうと、1725年?
年号覚えてるので近いのが1716年の享保の改革か。
って事は江戸時代だ!エルフの長寿を実感する。
「ある日、大きな流れ星が光ってね。
夜なのに空を一面明るく照らすくらいに光って消えた。
だけど、空で全部消えてしまったと思っていた流星は
1つのかけらをシスタンカナに落として行ったの。
凄い音だったよ!
周りの森も少し焼けて、すぐにウンディーネに
お願いして消してもらったんだけど、そこだけ綺麗に
丸く焼け野原になっちゃった。」
当時を思い出す様に語っていたセフィルの言葉が
止まり、口元をきゅっと締めるのが見えた。
「お父様がね、その落ちた流星のかけらを
拾いに行ったの。
落ちてからひと月程、そのままだったんだけど
妖しい魔力をずっと発してるからエルフ達は怖くて
近づなけなくて。
魔術師だったお父様が、自分なら大丈夫だから、と
名乗り出たんだ。」
セフィルは目を瞑り、再び口をきゅっと閉じる。
辛そうな、表情。目を開き話を進めた。
「お母様と私も、心配だったから焼け野原まで
一緒に行ったんだ。
お父様は、危ないかもしれないから、2人はここで
待ってなさいって焼け野原の脇で私達を待たせて
行ってくるって笑顔で、私達を見て焼け野原の中心に
向かった。
・・・お父様の笑顔は、それが最後になったよ。
中心で、それを見つけたお父様は
手に取って見つめた。
次の瞬間、爆発する様に石から黒い影が開いて・・・
イサの花で綺麗に染めた、薄紫色のお父様のローブも
シスタンカナに太古からある世界樹から取り出した
お父様の木の杖も・・・全て、黒く染まって・・・。」
すごく辛そうなセフィルの表情。止めようとしたけど
セフィルは、唇を震わす様に声を出し始めた。
「苦しそうにするお父様を見て、お母様と私は
すぐに駆け出した。
お父様から、あの石を離す為に。
あと数歩、数歩だったの。
そこまで来て、お父様は、私達の目の前で
姿を消したわ。」
セフィルは、歯を食い縛る様に口を閉じ、震える。
少し経ってセフィルは、こちらに向き目を合わせた。
涙を流しながら。
「私ね?ずっと後悔してるの。
・・・あの時、お父様が行くのを
止められなかったのかなって。
私、お父様が行くの、嫌だなって思ってたのに。
森の為にもあのままにしておけないって、お父様や
みんなの言葉に流されちゃって。
ずっと、ずっと、言えば良かったなって・・・
あの時、行くのやめてって言ってたら、こんな事には
ならなかったのかなって・・・。」
俺の隣で辛そうに涙を流すセフィル。
そっと抱き寄せた。
セフィルは俺にしがみつく様に抱きつき
「あぁ、うあぁぁ・・・。」
声を出して泣き始めた。
「ずっと、何年も何十年もずっと
1人で抱えてたんだね。辛かったよね。」
「・・・うん、うん!」
俺の胸で涙を流しながら何度も頷くセフィル。
流浪の魔術師はセフィルのお父さん。
セフィルは、どんな想いでずっと
探し続けていたのだろう。
厄災とまで謳われてしまっているお父さんを。