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ロナールに案内してもらい、一軒の家の前に来た。
そういえば、この世界に来て初めて人様の家を
尋ねてるな。
パシムの家は、奥さんが表に居てくれたから
良かったけど・・・入り口周りを見たけどやっぱり
インターホンなんて無いよな?
俺は、その家の扉にノックする。
「はい、・・・どちら様?」
無造作に扉を開けた人に、俺は
「ダーウィさんを尋ねて伺い来ました。
ダーウィさんはいらっしゃいますか?」
「ダーウィは俺だが?」
訝しむ様に俺を見る。そりゃそうだ。
「リナルドのラルさんの紹介で来ました。」
この言葉に、ダーウィは表情を和らげ
「おお!ラルさんから聞いてきたのか!
遠路はるばるご苦労さんだね。」
ここじゃ何だから、と家の中に案内してくれた。
食卓の椅子に座らせてもらい
「さぁ、何でも聞いてくれ。」
と構えられた。
うーん、話出してくれると思ってたから
考えてなかったな。
「それじゃ、ダーウィさんが見た、という流浪の魔術師
ですが、どういう状況で見かけたのですか?」
「ああ、この海岸線を歩き、町中に向かう最中だった。
遠くに黒い影が見えた。
人、というよりも影と言った方が合ってる。
少しモヤのかかった様に見える黒い塊。
時刻が夕刻だったのもあって、何かの影が変に
見えてるだけかと、俺は何も考えずに歩いて
近づいちまった。
その黒い塊が人の形をして立っている、という事に
気付いたのはかなり近づいてからだ。
気付いた瞬間、俺はその場から動けなかった。
少しでも動いたら殺される、そんな気がしたからだ。」
ダーウィさんは、飲み物を一口飲み、続けた。
「子供の頃から聞かされていた。
おそらくは、誰もが子供の頃に寝かし付ける為に
聞かされたであろう話。
その出立はまさに聞いていたまま。
真っ黒で裾がボロボロのローブ、手には色が変色して
黒くなった木の杖。ローブの内側は暗黒で、顔すらも
真っ黒の影で見えない。
そして、ローブの上からかけている
首飾りについた岩石。」
「岩石?を首飾りに?」
「そう、岩石だったよ。
伝えられてる話では、赤い宝石だったりするけどな。
岩石が、赤く光っていた。」
「石が・・・赤く光るんだ。」
「んーまぁ、正確には、岩石の隙間から赤い光が
漏れてる、そんな感じだったな。
まーその見てくれで、こいつが謳われる流浪の魔術師
だってのがすぐに分かった。
・・・厄災が、この町に現れたんだ。
間も無くこの町に隕石が降り注ぐ、早くみんなに
知らせないと、そう思っても身体が動かない。
ただひたすらに恐怖に震えて。だが目は離せずにいた。
しかし、厄災は・・・ただジッとしていた。
何の音も無く、身動き1つ取らずに。
ただ一点を見つめて。」
またダーウィは飲み物を一口飲み
「まー、見つめてって言っても顔は真っ黒で
何も見えなかったんだがな。」
ガッハッハと笑って言った。
「俺からはそう見えたって印象だな。」
「それは、どこを見ていたんですか?」
「どこ、という感じは無かったな。
ただ、町を眺めてる、そんな感じだった。」
セフィルがポツリと
「シスは、思い出話に出てきてた・・・。」
俺はセフィルに、何の事か聞き直そうとしたけど
ダーウィさんが話を続ける。
「そのまま、何をするでもなく、厄災は姿を消した。
俺はな、子供の頃からずっと思ってたんだ。
ここは何で黒いのだろうってな。
子供の頃から、もちろん今もずっと、地面が黒い場所が
あるんだ。そこだけが綺麗な円を描いて黒いんだ。
そこに厄災がいた。
厄災は、俺らが知らぬ間にきっと何度も
来ていた証、俺はそう思っている。」
セフィルを見ると俯いたまま。これって。
「ダーウィさん。今からその場所って
案内してもらえませんか?」
「ああ、もちろん構わんよ。」
快く受けてくれたダーウィさんに着いて行き
海沿いを歩く。
しばらくすると、遠くに円状に黒くなっている地面が
見えてきた。セフィルは無言で黒い地面を見つめる。
俺はダーウィさんに
「どの方向を向いていたか、分かりますか?」
と尋ねた。ダーウィさんが指を刺す。
上り坂の、町が綺麗に一望出来る、そんな場所だった。
セフィルはそこから町を眺めながら、グスッと
フードの中から音を立てた。
「ダーウィさん。ありがとうございます。
すごく貴重な話を頂けました。」
言った俺に、ダーウィさんは満足そうな笑顔で
家に戻っていった。
俺は、きっと想いに耽っているだろうセフィルに
聞こえない様に、コッツに
「あの黒い所の魔力感知お願い出来る?
もし、魔力があったら、この石に感応させて
ほしいんだけど。」
ラルさんの所で貰った、流浪の魔術師のいるであろう
方向を示す石を渡した。
コッツはそれを見て、使い方を把握してくれた
みたいで、コクリと頷いてくれた。