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お茶を終えて。
いよいよ、パシムの家に向かう。
・・・正直、緊張してる。これから、辛い報告を
伝えないといけない。
みんなには事の流れを話したから、家の近くで
待っててもらおうと思ったんだけど
「ジュン1人で、辛い事抱えないで良いんだよ?」
と、セフィルが言ってくれた。
パシムもコッツもジッとこっちを見る。
「ありがとう。なら、一緒に来てくれると心強い。」
良い仲間を持ったな。
俺は一歩ずつ、パシムの家に近づいた。
外に、洗濯物を取り込んでる人がいる。俺が近づくと
その女性がこっちに気付いた。
俺が会釈すると、向こうも訝しむ顔で会釈してくれた。
「ここは、パシムさんの家ですか?」
俺は、ゆっくり言葉を出す。
女性は、ハッとした顔をして
「はい!そうです!
もしかして、うちの人のお知り合いですか?」
「はい・・・そうです。オキタ ジュンといいます。
パシムさんの、奥様ですか?」
俺の表情を読み取ったのか、女性に緊張が走るのが
見て取れた。
「はい。」
「パシムさんとは、セジアの闘技場で知り合いました。
たまたま部屋が隣だっただけの俺に、とても、とても
良くしてくれて・・・。」
くっ、胸がいっぱいで涙が溢れそうになる。堪えろ。
俺の表情に、奥さんも表情が固まる。
俺は、首からパシムのネックレスを外して
「これ、パシムの・・・遺品、です。」
俺の差し出したネックレスを、手を震わせて伸ばして
受け取り、ぎゅっと握りしめる。
目を瞑り、堪える様に身体を震わす。
歯を食いしばるのが見えた。きっと、涙を流すのを
堪えてくれたのだろう、目を開けてこっちを見て
「ここまで・・・セジアからわざわざここまで・・・
届けて下さったのですね。
ありがとう、ございます。」
深く、頭を下げてくれた。
堪え切れなかった涙を落としながら。
「パシムには、こんな事では返し切れないくらい
いっぱい、いっぱい助けてもらいました。
こんな形で、お伝えする事になってすみません。」
奥さんは首を振り、こっちを見て
「もし!・・・もし、お時間があれば、あの人の事
話していって下さいませんか?」
俺は、歯を食いしばって、食いしばって
笑顔を作った。
「もちろんです。俺がパシムと話した事、助けられた事
お話させて下さい。」
俺は後ろのみんなに顔を向けた。
みんな、頷いてくれた。ありがとう。
奥さんは狭いですが、と家の中に案内してくれた。
俺とパシムの奥さん、どのくらい話しただろう。
ずいぶん長く話した様に感じる。
俺は闘技場での事、奥さんは普段のパシムの事
お互い記憶からゆっくり思い出す様に話す。
お互い、言葉を選び気を遣い、それでも、話し続けた。
話が終われば、現実に襲われるからだ。
気が付けば外は、夕刻の色に変わってきていた。
「長居してしまい、すみませんでした。」
「こちらこそ、引き留めて話してしまって
ごめんなさい。本当に、届けて下さって
ありがとうございます。」
それでは失礼します、と頭を下げる。
振り返り、みんなに精一杯に笑顔を作った。
パシムの奥さんは、ずっと、俺達が見えなくなるまで
ずっと、頭を下げていてくれた。
ロナールが、俺の肩に手を置く。
「お疲れさん。良い奴だったんだな。パシムって人。」
「うん。ありがとうね、付き合ってくれて。
セフィルもコッツも、待ってくれてありがとう。」
2人はフードを浅く被り、優しく微笑む表情を
見せてくれた。
「ジュン、どうする?流石に疲れたろ。
ダーウィって人のとこ行くの明日にすっか?」
「いや、大丈夫。ここから近いなら行こう。
何かこのまま宿行ったら泣き崩れそうな気もするし。」
俺が笑って言ったら
「その時は私が慰めてあげるよ?」
セフィルが悪戯っぽく笑って言った。
慰めるって、色んな意味含まれてないよね?
俺はありがとうって笑って答えて、ロナールに向き直り
話を聞きに行こう、と声をかけた。
セフィルは誰にも聞こえない様に小声で
「本当に甘えて欲しかったのにな。」
と、ちょっと口を尖らせた。