17
住宅街から抜けて、また少し大きめの通りを歩く。
周りの風景も、中心部と比べて少しこじんまり
してきた。メイとヤムが足を止めて前を見る。
結構大きめの建物。と言っても学校の半分くらいの
大きさの建物を、メイとヤムは眺めていた。
「帰ってきたよ、ヤム。」
「ああ、本当にな。」
どうやらここが2人の育った孤児院みたいだ。
2人は開け放たれた門を通り抜ける。
ふと前を見ると、まだ朝早い時間にも関わらず
玄関前を掃除する人がいた。
その人物も、こっちの気配に気付き振り向く。
ご年配の女性、の箒の手が止まった。
「母さま、ただいま。」
「・・・メイ?まさか、メイなのかい?ヤムも!」
「ああ、戻って来れたよ。」
カラン。
箒を落として、手を震わせる女性。
「あぁ、ああ!ああ!」
ご年配の女性、院長さんは涙を流しながら駆け寄り
2人に抱きつく。
「心配、心配したんだよ!ちゃんと逃げられたのか
何処かで生活出来てるのか、ちゃんと無事に
元気にしてるのか!
ああぁ、良かった!良かったぁ!」
両腕で2人を抱え、崩れる様に膝をつく。
メイとヤムも合わせる様に膝をつき
「ごめんなさい!連絡出来なくてごめんなさい!」
メイはボロボロと泣きながら院長さんにしがみつく。
「心配かけてごめん、ちゃんと元気にやってたよ。
来るのが遅くなってごめんな。」
ヤムも涙を流しながら、院長さんの肩を抱く。
院長さんは首を振り
「良いんだよ、元気だったらそれで。
よく来てくれた。来てくれて本当にありがとうね。」
涙ながらに話す。そうだよね。心配だったよね。
本当に会えて良かった。
俺は、元の世界の両親が頭によぎった。
俺もきっと、心配させているだろうな・・・。
俺の表情を読み取ってくれたのか、セフィルが
手を取ってくれて、コッツがそっと、背中に手を
置いてくれた。
2人の顔を見て、ありがとうと笑顔で返す。
「そちらの方達は?」
少し落ち着きを戻した院長さんが、ヤムに聞いた。
「ここにくる道中の仲間達。
真ん中の人がジュンさん。
この人が、私らをここに連れて来てくれたんだよ。
この人が居てくれなかったら、私らはこんなに
堂々と会いには来れなかった。」
ヤムの話を聞くと院長さんは、2人を促す様に
立ち上がり俺の前に来た。
俺の手を取って、俺の目を見て
深く頭を下げて
「ありがとうございます。
まさかまた、2人に会える日が来るなんて
思いませんでした。
本当に、心から感謝します。」
「そんな!顔を上げて下さい。
みんなが居てくれたから、俺もここまで
来れたんです。
院長さんと再会出来て、本当に良かった。」
セフィルがふふっと微笑みながら
「ジュン、照れてる?」
茶化す様に聞いてきた。
「昨日もそうだったけど、こんなに心から
感謝された事なんて無いから、どう反応したら良いか
分からないんだよ。」
俺が照れ笑いしながら話すと、その場の全員が
笑った。
しばらく談話が続く中、ヤムがコッツに
顔を見せたらと声をかけた。
後から話を聞いて知ったけど、コッツも冒険者時代に
ヤムとここによく来ていたらしく、遅ればせながら
フードを外して、恥ずかしそうに院長さんに
顔を見せると
「おや!コッツだったのかい!
もっと早くに顔をお見せなさいよ!」
ものすごく小声で
「・・・いえ。
・・・覚えてていただけてたか、不安で・・・」
「忘れるなんて事あるもんかい。」
と、笑顔でコッツを抱きしめる。
院長さんの言葉に、コッツは嬉しそうに
笑顔を見せた。
「3人は、これからどうするの?」
俺の問いに、院長さんも3人を見つめ
「帰ってくるのなら、うちは大歓迎だよ。」
と、嬉しそうに話す。
その表情を見て、メイもヤムも少し寂しそうにした。
メイが
「母さま、ありがとう。
でも、今も私たちすごく幸せに暮らしてるんだ。
今は、セジアの大河亭が私たちのお家。
だから、ちゃんと帰らないと。」
メイの言葉を聞いた院長さんは
優しく、とても優しく微笑んで
「うん。幸せに暮らせてて良かった。
メイが、そんな風に言える場所があるんだね。」
「うん、そうだね。」
ヤムが返事をした。
「だから、ジュン様と一緒に帰りたいです。
帰りもご一緒して良いですか?」
「もちろんだよ。
そしたら、ちょっと提案なんだけどさ。
俺がここから、シスに行って用事を済ませて
戻るまで、みんなここに滞在させてもらうのは
どうかな?積もる話もあるだろうし。」
メイとヤムは顔を見合わせて、ヤムが
「それは嬉しいけど、ジュン1人で良いの?」
少し申し訳無さそうな顔。
「ヤム、平気よ?私もジュンと一緒に行くし。」
ニコニコとセフィルが言った。
「え!?2人きりで?それは・・・」
うー、でも母さまとも一緒に居たい。
せっかくジュン様が作ってくれようとしてる
時間なのに。
「・・・メイ、私も、ジュンと、行く。
・・・大丈夫。」
コッツ!良いの?!
メイラールの表情が明るくなった。俺も
「コッツが来てくれるのは凄くありがたい!
魔力感知が必要になるかもしれないから。
・・・何だけど、良いの?院長さんとの時間が
短くなっちゃうけど。」
コッツは頷いて
「・・・私、は
・・2人ほど、親子、ではない、よ。」
少し寂しそうな笑顔を見せた。
でも、院長さんはきっとそう思ってないよなぁ。
「じゃあこうしようか。
今夜一晩、カイダールに泊まって行こう。
コッツも院長さんの所に泊まらせてもらって
話してきたらどう?」
コッツは表情を明るくして、コクコクと頷いた。
「ジュンさん、色々ご配慮ありがとうございます。
ジュンさん達も泊まっていって下さい。
高い宿みたいに綺麗ではないですが、部屋は
いっぱいありますので。」
院長さんは優しく微笑んでくれた。
「じゃあご厚意に甘えさせてもらいます。」
「やったぁー!」
メイがはしゃぐ様に喜んだ。
それを見て、みんな笑った。
とりあえず中へと案内され、みんなが建物の中に
移動する中、院長がメイラールに小声で
「あの方、メイの想い人?」
「へ?!え?!」
メイラールは顔が真っ赤に染まっていく。
院長さんは優しく微笑み
「頑張りなさい。
あの様な方、なかなかいるものではないよ。
あとで、その話もゆっくり聞くわね。」
優しく、微笑んだ。