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壁にかかっているランタンの火が灯る薄暗い階段を
ゆっくり音を立てない様に、俺とサムリスさんが
降りていく。階段は、さっきの大広間にあった
2階に上がる階段のちょうど半分のサイズ。
学校の階段くらいかな。1箇所踊り場で折り返し
降りていくと降り切った所で左に曲がれる。
階段を降り切った所から、左側をそっと覗くと
左右に通路が伸びていた。人の気配は、無さそう。
どっちに行くか。
薄暗く伸びた左右の通路は、右手の方が長く伸び
薄暗くて先が見えない。
左手の方がギリギリ、奥でL字に曲がる通路と
確認出来た。なら、左から行こう。
可能な限り、素早く曲がり角まで行く。
こういう場所、こういう世界観、頭の中に罠の意識も
浮かぶが、俺には判断が取れないから俺が前を行き
何か起きたら対処すると決めた。
一応自宅内だし、罠仕掛ける事も無いよな?
右手に曲がる角まで来て覗く。数メートル行った所に
扉が見えた。前には誰もいない。
扉まで走り寄り、耳を近づける。音は、無し。
ドアノブに鍵穴も無い。ドアノブをそっと回すと
扉が開いた。
扉の開く音を立てない様にゆっくり開ける。
中を覗き込むと、椅子とテーブルが幾つも並ぶ
結構大きめの部屋。壁にあるランタンの光だけが
部屋を薄暗く灯す。
壁のランタンも、全部を灯している訳ではなく
数個おきに1つ灯されている。部屋を何かで
使う時は、全部点けてもっと明るくするのか。
って事は、今は誰も居ないと考えても良さそう。
一応、身を低くしてテーブルの陰に隠れながら
中に入る。
しかし広いな!
天井も高くて小学校の体育館くらいありそう。
中に入り見回すと、ランタンの無い壁側が
鉄格子なのが分かった。これって・・・。
そっと、鉄格子に近づいてみる。
鉄格子と垂れ下がる鎖のカーテン。
その向こう側を見ると、こっちと同じくらいの
大きさの部屋。向こう側はテーブルとかが無いから
余計に広く見える。
同じ様に薄暗くランタンが部屋を照らす。
正面向こう側の壁に扉が2つあるのが見えた。
右の壁は何も無し。左の壁には鉄格子の扉。
背中が少しゾワゾワする。
何か嫌な予感を感じさせる。とりあえず、こちら側の
部屋には他に何も無さそう。サムリスさんと
顔を見合わせて、来た扉から部屋を後にした。
ジュンと別れ、2階に上がったロナールは
幾つもある扉には目もくれず進む。
建物の外側から、ある程度中の作りの見当をつけて
真っ先に調べようと思っていた部屋に向かった。
音もなく滑る様に走るロナール。
ロジーは、音を立てないで走るロナールのペースには
ついて行けないので、後ろを警戒しながら可能な限り
音を立てずに追いかける。
2階の廊下、1番奥にある部屋の扉に、ロナールは
張り付いた。
一瞬中の音を聴き、すぐにドアノブに触れる。
カチャン。
小さく軽快な音を立てて鍵が開いた。
追いついたロジーに
「ここで見張っててくれ。」
と小声で話すと、ロジーが頷くのを見る間も無く
ロナールが扉の中に入る。
ロナールはここに来て少し焦っていた。
想定していたよりも、どうも中の警備が少ない。
嫌な予感がする。
早く見つけてジュン達に合流しないと。
部屋に入り、ザッと部屋を見渡す。中央奥に豪華で
大きな机と椅子がある。
部屋の中も豪華に装飾されている。
これがドイルの部屋なのは間違い無いな。
机に近づき物色する。幾つか書類が出てくるが
決定的な物としては弱い。
これは、囮だな。
おそらくは、警備隊に部屋に踏み込まれた際に
手ぶらで帰させない軽いヤツってとこか。
踏み込んで何も無く終わる訳にいかねぇからな。
こういうもんは、とりあえず見つけると他への意識は
薄くなる。
囮があるって事は、本命もある可能性あんな。
更に部屋をよく観察する。
屋敷の外から見た感じより、部屋が少し小さい。
ロナールはニヤッと笑い、部屋の左の壁に向かい
何かを探す様に壁に触れていく。
カタッ
右手の指先に、壁にしか見えない部分が凹むのを
感じた。
「見つけた。」
そこを押し込むと、丁度指四本が入るサイズで
押し込めた。そこに指をかけ、壁を引く様に
力をかける。
壁にしか見えなかった部分に扉が現れた。
入ると小さめの部屋。
その中には、豪華な宝石類や、大量の金貨が
区分けされて置かれていた。
区分けされた1箇所に書類を見つけ、目を通す。
「すげーなこれ。買い付けた人物とその人物が
かけた金額か。
奴隷として売られた奴の名前も書かれている。
金貨が区分けされてるのは、金出した人物ごとに
分けてるのか。性格こまけーな。ここに積まれてる
金額が多いのが太い客ってこったな。」
ロナールは書類を懐に入れて、早々に隠し部屋を
後にした。