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裏門の見張りを縛り付け、さるぐつわして
見えない所に押し込んで動き出す。
裏門側は建物までの距離も近い。
ロナールが門影に隠れて周りを見渡し、1人で一気に
建物まで走る。建物の角から、見えない向こう側を
覗き、こっちに合図を送ってきた。
3人で一気にロナールの所まで走る。
ロナールが手で合図、後ろに気を付けてここで
待機しろという事らしい。建物の角から滑る様に
建物際を走るロナール。
俺はふと、こういう時鏡を使って覗いてる漫画やらを
思い出し、剣を抜いて刀身の先だけ出して
ロナールを覗く。何かちょっとスパイっぽい。
高まる緊張感が変な方に高揚しないようにしないと。
5mくらい先の所にある扉に張り付くロナールが
見えた。中の音を聴いてるっぽい。
そのまま、ドアノブの所を触ったかと思えば
あっという間にこっちを見る。こっちに戻ろうとした
ロナールが、俺が剣先で覗いてる事に気付いて
その場から手招きをした。
俺が動き出し、後ろの2人も付いてくる。
近づいた俺らを見て、扉をそっと開き、そのまま中に
入る様に促すロナール。見なくて大丈夫かな?
信じるしかないか。
一気に扉から入り、身を低くして周りを伺う。
その間にロナールが後ろで扉を閉めた。
「この時間の厨房は使われていない。
音も確認したから大丈夫だ。」
小声で話すロナール。
「時間が惜しい。行こう。」
言うと、ロナールは入ってきた扉と反対側にある
扉に音も無く進み、耳を澄ませる。
そのまま扉を開き、顔で行くぞと合図を送ってきた。
扉を出ると大きめの廊下。
ロナールはと見ると、もう既に、反対側の壁にある
1番近くの扉に耳を澄ませている。
行動が本当に速いな!
ロナールの所に行こうとすると、ロナールが来るなと
手で制止してきた。
ずいぶん真剣に中の音を聞いている。耳を澄ますと
俺の所くらいまでも笑い声だけは聞こえてきた。
誰かいるらしい。ロナールが、広めの廊下の反対側の
壁沿いを歩いて来いと、身振りで伝えてくる。
廊下の壁沿いを可能な限り音を立てずに素早く移動。
こちら側の壁にも2つ程扉があるが、ロナールは
そのまま来いと手で合図して、自分はそのまま廊下を
進む。音で判断しているのかな?
ロナール側の壁に、両開きの大きめの扉。
また、ロナールが扉に張り付く。
聞きながら、来いと手で合図を送ってきた。
ロナールの脇まで行く。ロナールが小声で
「この先は、正面入り口に繋がる大広間のはずだ。
ここに入るが、向こう側におそらく5人が大広間の
中央辺りで談笑している。
サムリスは魔法の用意、詠唱が終わると同時に扉を
開いて、寝なかった奴はロジーが弓で狙え。」
その言葉を言い終えるより早く、サムリスさんが
詠唱を始める。すぐ傍にロジーさんが弓を構える。
ロナールがドアノブに手をかけた。開け放つと同時に
「眠りの雲」
息ぴったり!杖から放たれた霧が部屋を充満する。
部屋の中央に5人、ロナールの読み通り!
2人、3人と膝を付き崩れ落ちる。2人残りそう。
けど、1人がフルアーマー!
カァンカァン!
ロジーさんが2連続で矢を放つ、速い!
1本は軽装備の男の肩に刺さるが、もう1本は
フルアーマーに弾かれた。
魔法でふらついているけど堪えそう、マズい!
まだ霧がかかる中、俺はロジーさんの矢筒から矢を
1本抜きつつフルアーマーに向かって走り出した。
発勁は音が目立つから無理、蹴りも金属同士の音が
響く、なら!
倒れるのを堪えたフルアーマーが、俺が走り込んで
きたのを見かけ剣を振り上げる。
見えた!
振り上げた腕の脇の下に向け、低い姿勢で下から上に
剣で払うように矢の鏃で切り傷を入れた。
途端にビクッとして硬直し、前のめりに倒れてくる
フルアーマー。やばいやばい!
これがバタンと倒れたら中々な音量だ!
ガシッと受け止めてゆっくり寝かせた。
事前に聞いていたけれど、すげぇ効果!矢の痺れ薬。
初めに矢が刺さった軽装備も、ピクピクと身体を
痙攣させている。
これ、俺が喰らってたかもしれないんだよな。
山の中の不意打ちで。おっかねー。
魔法の効果が消え霧が消えて、ロナール達が
寄ってきた。
「ジュン、何でお前って魔法平気な訳?
山の中でも光弾、無傷だったし。」
ロナールが小声で聞いてきた。
「説明は後でするから、早く先に進もう。
今のだって音がゼロって訳じゃないし。」
説明を今するのは時間が勿体無い。
ロナールを促した。
「それもそうだな。倒れた連中を物影に。」
この世界って電気がある訳じゃないから、夜は
この部屋の中も廊下も、蝋燭の灯りだけで薄暗い。
月がめちゃくちゃ大きいから、月明かりが入る所は
それなりに明るいけど、物陰に連れていって
しまえば、ぱっと見は分からなくなった。
正面大広間は、2階に繋がる大きめの階段がある。
ロナールはその階段の真下にある扉、何か倉庫とかに
使われそうな扉に聞き耳を立て、ドアノブを
ほんの数秒弄った。
カチャン
小さく軽快な、鍵の開く音。マジで速いな。
「ここで当たりのようだ。」
ん?当たりって、と聞こうとすると、開けた扉の先に
下への階段!俺の表情を読んだのか、小声で
「自分の家の中で鍵かける場所なんて
限られてるだろ?」
ニヤッと笑った。確かにその通り。
「さっき、廊下で人がいた部屋。おそらく応接間に
ドイルと他、3人程の声が聞こえた。
どうやら客が来てるらしい。動くなら今だ。
ここからは二手で行こう。俺らは上に行く。
ジュン達はここから下だ。」
「分かった。お互いくれぐれも慎重に行こう。」
ロナールの技量見たら、こっちの方が心配だろうが。
お互い、拳を相手の胸に軽く当て動き出した。