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「ジュン。なんだってこんな連中の頼みなんて
聞いたのさ。」
ロナール達のアジトの村に行く道中。
ヤムが訝しげに俺を見ている。そうだよな。
「同情したからじゃないよ?
他の商人だったら、受けなかったと思う。」
「なら、ドイルだったからって事?!
余計に何でだか分からないよ。ジュンは
知らなかったかもしれないけど、ドイルはメイの」
俺はヤムの前に手を軽く前に出して、ヤムの言葉を
制した。メイの方を見る。メイはフードを深く被り
俯いていた。
「ジュン、分かってたの?なら何故?」
「ロナールの作戦ってのが、もしドイルって奴を
捕まえられる様な作戦だったら、メイはもう
こんな怖い思いしなくても、いつでも堂々と
院長さんに会いに来れるでしょ?なら
話を聞くくらいの価値はあるって思ったんだ。」
ヤムの隣で、俯き歩いていたメイが反応して
「え!ジュン様、私の為に?!
だけど、ジュン様が危ない目にあうのは!」
フードを被るメイに向かって笑顔を向けた。
「何年も会えてないんでしょ?
メイが会いたいと思ってるのと一緒で、院長さんも
きっと会いたいって思ってる。
心配してると思うよ。」
「ジュン様・・・。」
メイの瞳が潤む。
本当に優しいよ。どうしよう、たまらない。
メイラールは、胸がきゅっと締め付けられる様な
気持ちになった。
前を歩くロナールが、後ろ足でヤムに近づき小声で
「頼んでる俺が言うのも何だが、あんたらの
リーダーは、とんでもなくお人好しだな。」
ヤムがジロリとロナールを見て
「ジュンの優しさにつけ込んだら
タダじゃおかないよ。」
ロナールを睨みつける。
「分かってるよー。
俺だって兄さんの恨み買う様な真似、したいと
思わねーよ。命が幾つあっても足りねーわ。」
笑って返した。
「ところで、お姉さんの名前聞いても良いかい?」
あぁ?と、ヤムが睨む様にロナールを見る。
「い、いやほら、誰かしら1人くらい名前で
呼べないとさ?困る事もあるだろ?」
ヤムは訝しむ様にロナールを見ながら
「ヤムだ。」
「ヤムさんか!俺はロナールってんだ!
ヤムさん達はパーティ組んで長いのかい?」
「セジアからカイダールに行くまでの、即席の
パーティだよ。」
「そうなのか!じゃあヤムさんはカイダールまで
行けばフリーって事か?」
目を輝かせるロナール。ヤムは訝しげに
ロナールを見た。
「何が言いたいんだい?」
「え?あ、いや、ちょっと聞きたかっただけだ。」
ロナールは顔をニヤつかせてヤムの隣を歩く。
一行は街道から逸れて、道っぽくない山道を
進んでいく。そのまま林の中を歩いて小一時間。
拓けた所に村があった。
村の人達はロナールを見つけて安心する顔
ジュン達を見て不安そうな顔、それぞれ見せている。
初老の女性が声をかけてきた。
「ロナール、そちらの方々は?」
「大事な客人だ。丁重にな。
オリビア、こちらの女性達はしばらくここに
滞在してもらうから、部屋に案内してあげてくれ。」
ロナールはヤムに
「何か困った事あれば、俺かこのオリビアを
頼ってくれ。オリビア、こちらヤムさんだ。
くれぐれもよろしく頼むぞ。」
オリビアは今のやり取りを聞き、何かピンと来たのか
ロナールの顔を見てニヤッと笑う。
「なになに?ロナール。そういう感じなわけ?」
「あ?何がだよ。」
「だって珍しいじゃないの。あなたが女の子に
自分を頼ってくれ、なんて。」
「ば、ばっか!うるせーな!
いいから早く案内してあげてくれ!」
顔を赤くするロナール。え?何?どういう事?
はいはい、分かったよとニコニコとヤム達を
案内するのに連れて行った。
「え、あんたもしかして?」
「にーさんはこっち来てくれ!作戦説明するから!」
顔を赤らめたまま、慌てて歩き出すロナール。
うーん、何か、本当に悪い奴に見えてこなくなって
きた。俺は頭を掻きながら、前を歩いていく
ロナールを眺める。
「そんなとこ突っ立ってないで、入んなって!」
「はいはい。分かったよ。」
俺は口元を綻ばせながら建物の中に入った。