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「とりあえず、誰が雇ったのか言わないと
警備兵に引き渡すのは間違いないけど?」
正直、どう扱うべきか悩む所だし関わるべきじゃ
無いと思っているのだか・・・でも、このまま
見過ごせば他の人が攫われるんだよなぁ。
「ああ、分かった。
依頼して来たのは、直接本人じゃなくて代理人が
来た。ある方としか聞かされてねーんだよ。」
「それだけ?」
「あ、ああ。それだけしか聞いてねー。」
胡散臭いんだよなー。
「この期に及んで、まだ出し惜しみする様な奴は
信用出来ないから、やっぱりカイダールまで
連れて行く。」
「ま、まま、待てって!嘘は言ってねーよ!
本当にそれしか聞いてねーんだから仕方ねーだろ!
何で俺が隠してるみたいなことを言う!」
「今、あんたは代理人から聞いた話だけを話した。
それは嘘じゃないのかもしれない。
でも自分でも、依頼主のこと調べたんじゃないの?
これだけの人数束ねてるリーダーで、腕の良い
あの弓の人や魔術師だって従ってる。どんな高額の
依頼料か分からないけど、お金の為とはいえ
たったそれだけの情報で、こんな危なそうな
依頼受ける様なリーダーと思えないんだけど?」
リーダーの男の顔が固まる。媚びる様な顔から
真顔に変わった。
「こんな短時間で。よく考えてんなー兄さん。
分かった、俺の完敗だ。洗いざらい話すわ。」
両手を上げるが、表情に余裕を感じる。
まだ、何か手を残した上で折れてくれたのか。
「演技だったか。
でも、話す気になってくれたのなら良かったよ。」
「最後の手段もあったが、それ使っても
兄さん何とかしちまいそうだしなー。
それなら、こっちの事情話した方が聞いてくれる
御仁だと思っただけさ。
まず、さっきは依頼って話したが、依頼じゃない。
脅されている。」
「脅し?」
「ああ。代理で来た男に、俺の妹を攫ったことを
告げられた。」
真剣な目。嘘を言ってなさそうに見える。
「確証は取ってるんだよね。」
「ああ、アジトにしている村から妹が
いなくなったのは確認した。
それに、代理人は妹が付けていた首飾りを
持ってきた。
で、兄さんの予想通り代理人をつけていって
調べたさ。妹を攫った相手はドイルって商人だ。」
「ひっ!」
メイが小さく悲鳴を上げた。
ヤムがメイの肩を引き寄せる。
・・・そのドイルってのが、メイの事を
散々にした奴か。
俺の中で、イライラに近い何かが渦巻いた。
「そのドイルって、どんな奴なの?」
「ドイルはカイダールの有力商人だ。表向き
貿易商で成り上がった様に見せてるが、裏じゃ
奴隷商をやってる。」
「奴隷なんて取引して良いもんなの?」
「そりゃ、表沙汰になれば捕まるさー。
だが、警備隊との繋がりもある奴だからな。
金で見て見ぬふりさ。」
どこにでもそんな連中って居るんだなぁ。
「俺らは仕事を受けると返事をしたが、それは
攫った娘達を連れて行くタイミングでドイルの屋敷に
潜れると踏んだからだ。
攫った娘達には申し訳ないが、身柄はちゃんと
全力で守るつもりだった。」
「なるほどね。事情は分かったよ。」
見た限り、嘘を吐いてる様にも見えない。でも
メイを散々にした奴の所に、みんなを攫わせて
なんて、メイをドイルって奴に近付ける事になる。
絶対にダメだ。やっぱり関わる訳にはいかないな。
「他の手段は無かったの?」
「あれば、こんな事やってないさー。
だけどたった今、他の手段って奴が出来たぜ?」
「たった今?どんな方法?」
リーダーは膝を着き手を地面に着き、頭を下げ
地面に着ける。土下座?!
「兄さんが力になってくれる事だ。」
ロナールさん!と、周りの部下達が声を上げる。
「お前らは黙ってろ。
襲っておいて、こんな事頼めた義理じゃ無いのは
分かってるが、こっちも妹の命がかかってる。
なりふり構ってられねーんだ。もちろん、報酬も
可能な限り出させてもらう。
どうか、頼まれてくれないだろうか。」
地面に額を着けたまま話すロナール。
「ジュン、どうするつもりだい。」
ヤムがメイを抱き寄せながら、不安そうにこっちを
見る。関わればメイの危険もかなり高くなる。
だけど・・・。
「条件が幾つかある。」
「ジュン!」
ヤムが珍しく怒る表情でこっちを見た。
額を地面に着けているロナールが、姿勢そのままに
「何でも言ってくれ。
こっちに出来る事なら何でもする。」
「何をするか、聞いてから決めさせてもらう事。
行動は俺1人だけで、俺の仲間は連れて行かない事。
俺の仲間を安全で、見つからない場所に匿える事。
この3つだよ。」
「分かった。間違いなく、その条件は飲める。
兄さんの仲間は、俺らのアジトで匿う。」
「ロナールさん!いくら何でもアジトバラすのは!」
「うるせえ!黙ってろっつったぞ!
こっちのアジトだから警戒するかもしれんが
アジトにしてる村には、女、子供もいる。1度
来てくれれば安全さは納得してくれるはずだ。」
俺はロナールの、地面に額を着けたまま一切上げずに
頼み込む姿勢に、必死さを感じた。
「分かった。
だけど、まだあんたを信じ切った訳じゃないから
信用に足る行動を見せてほしい。
顔を上げてくれ。」
顔を上げたロナールに、俺は手を差し出した。