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「そんな事になってましたか。」
色白で長髪の男性が、白いローブを着た人物と
会話をしている。
長髪で端正な顔立ちの人物は、セス=エファス司祭。
セスは報告に来た自身の部下の話を、微笑みながら
聞いていた。
「ありがとう。引き続き、次の街からの報告を
お願いします。」
そう言うと、修道士は失礼しますと会釈をして
部屋から出た。
ここは、セジア城の隣、セジア寺院の中にある
セスの自室。セジア城の自室と違い、こちらの部屋は
物も多くなく、常に綺麗に整理されている。
自身の来客の折りは、こちらの部屋に招く為である。
修道士が部屋から退出して、セスはまた
フフッと笑った。
村をダークエルフから奪還とは、ジュン殿は
苦労を背負い込まれる星の様ですね。
ご自身の事だけを考えたら、わざわざそんな事に
巻き込まれる必要も無いのですがね。
セスは掛けてあったローブを羽織り自室を出た。
そのままセジア城に向かい歩き出す。
それにしても、良い行いをする事で
ジュン殿の評価が上がるのは、これから先
シンシア様との関係を結んで行くのには
とても望ましいのですが・・・
今のジュン殿ですと、大きな問題にも関わり
それも解決しかねない。
あまり、大成を果たして皇女様に目を付けられないと
良いのですが・・・。
それにもう一つ、今ジュン殿に同行しているのが
セジアでジュン殿と噂になっていた娘とは。
報告では、大河亭の主人がジュン殿に同行を
依頼したとか。ですが、流れていた噂から
判断するに、渦中の女性がジュン殿に想う所が
あり、ついていったと考えるべきでしょうね。
これは・・・シンシア様が聞いたら、何を
言い出す事やら。
ハァとついた深いため息とは裏腹な、穏やかな
少し楽しそうな表情を浮かべ、セスはセジア城へと
繋がる連絡通路を歩いた。
「はぁ・・・」
シンシアは深いため息を1つついた。
お気に入りのこの部屋で本を読んでいても、全然
気が晴れない。
ジュン、今頃どうしてるかな。
何か辛い目にあったりしてないといいけど。
ジュンが旅に出た後も、シンシアは毎日
ラディアと修練を続けている。
ジュンが戻ってきた時の為に、もっと技量を
上げないと。
きっとジュンは強くなって帰ってくるから。
一緒に旅に出る時に、ジュンの隣に居られる様に。
でも、3ヶ月・・・
3ヶ月ってこんなに長かったっけ?
早く帰って来ないかなぁ。
コンコン。
部屋の扉がノックされ、上の空だった意識が
ハッと戻った。
「はい?」
「シンシア様、お部屋に失礼致します。」
リシェか。どうしたのかな?
部屋に入ってきたリシェの脇に、アシャがいた。
「アシャ!どうしたの?」
シンシアの表情が明るく変わる。
「シア様?あれ?私はセス様に呼ばれまして
てっきりセス様の所に行くのかと。」
「セスが?何だろ?」
コンコン。
再び扉がノックされ
「シンシア様、失礼しますね。」
セスも部屋に入ってきた。
「もうアシャも来てましたか。」
「セス、どうしたの?アシャまで呼んで。」
セスは微笑み
「いえ、ジュン殿の近況報告が入りましたので
一緒に聞きたいのではないかと思い呼びました。」
2人はパッと表情が明るくなり
「え!ジュンの!」
「聞きたいです!セス様、ありがとうございます!」
2人は目を輝かせ、セスの言葉を待った。
「ジュン殿は今の所、無事にリナルドに
着いたそうです。」
「良かった!」
「もうリナルドですか!やっぱり馬車だと
早いですね!このままなら予定よりお早く
帰られるかもしれませんね!」
「本当?!そうなら嬉しいなー。」
嬉しそうな笑顔を見せる2人。
「ですが、その間も色々あったようです。
今、街道は妖魔が頻出して少し危険ですからね。
道中、襲われる事もあった様です。」
え、と少し不安気な表情に変わる2人。
セスはクスッと笑い
「問題無かった様ですよ。」
「脅かさないでよ、セス。」
安堵の表情に変わる2人。コロコロと変わる表情を
セスとリシェは微笑ましく眺める。
「それと、リナルドに入る直前の出来事なのですが
ゴブリンを引き連れたダークエルフに占拠
されていた村があった様なのですが、そこの
解放にも携わったようです。」
「え!ダークエルフ?!大丈夫だったの?!」
「ええ。」
優しい笑顔で返すセス。
「さすがジュン様ですね!」
シンシアとアシャは、顔を見合わせて喜ぶ。
アシャがふと
「でも、まさかジュン様お一人でそれを
なされたのですか?
いくらなんでも無茶が過ぎます。」
このアシャの言葉に、セスが一瞬、本当に一瞬
固まる。それをリシェは見逃さなかった。
「同行者がいらっしゃるのですか?ジュン様。」
セスには珍しく、少しだけ眉を動かす。だが
にこやかな笑顔は崩さず
「ええ、そう報告されています。」
セスの、いつもよりほんの少しだけ固い笑顔を見て
今度はシンシアが
「・・・もしかして、女の子も一緒なの?」
どうしてこういう事ばかり鋭いのでしょうね。
女性というのは。
「駆け出しの冒険者3人が、馬車の護衛として
雇われた様です。そのパーティの中に女性が
1人いるみたいですね。」
嘘は付いていない。聞かれる可能性を踏まえ
用意していた答えを話すセス。
「ああ、そういう事か。びっくりしちゃったよ。
メイラールが追いかけて行っちゃったとかだったら
どうしようかと思った。」
再び、今度は明確に表情を固めるセス。
その表情を見たアシャが
「・・・そういえば、最近、街でメイラールさんを
見かけなくなったって噂を聞きました。」
アシャとシンシアが、顔を見合わせる。
セスは音も無く扉まで寄り
「近況は以上です。私も仕事がありますので
失礼しますね。」
そう言い残し、セスは捕まる前に扉から出た。
扉を閉めて、素早く小さな声で詠唱を始める。
「隠者」
「セス!まだ話は終わってない!」
勢いよく扉を開けたシンシア。そこに居るはずの
セスの姿は無かった。
「もー!
こういう時は本当に逃げ足速いんだからー!」
セスの姿が見えない廊下に向かって、シンシアは
悪態をついた。
これで第2章は終わりになります。ここまで読んでいただき、ありがとうございます。楽しんでいただけていたでしょうか?話は序盤から中盤に入り始めた所なのですが、大変申し訳ありません。ここで一度休載させていただきたいと思います。リアルの仕事が想像以上に忙しく、話を書き続けられずにいます。書き溜めはまだ少し残ってはいるのですが、ここでの休載がキリが良いのでここまでで、一度失礼します。再開の予定はまだ分かりません。もし、楽しみにされている方がいらしたら、本当に申し訳ありません。また再開出来るように頑張ります。