15
リナルドのメイン通りをしばらく歩き、裏路地に
入ってから右に左にと曲がる。ずいぶんと
奥まった所にあるけど、商売成り立つのかな?
「ここです。」
カイノさんが立ち止まり、声をかけてくれた。
「魔具屋 ラル」
と書かれた、小っちゃい看板が壁にぶら下がっている
だけで、普通の家にしか見えない。
コンコン、とノックをしてカイノさんが扉を開け
中に進む。失礼します。と、声をかけて俺と
セフィルも続いた。
中は、10畳程の部屋に、物凄い量の物!
紙を巻いた物が壁の棚に山になり、薬?小瓶も
大量にテーブルに置かれて、本、宝石、杖とにかく
凄い量。
「おや、カイノじゃないか。
ちゃんと持って来れたのかい。」
正面のカウンターから、ひょこっと顔を上げて
こちらを見るお婆さん。
「ええ、頼まれてた物、持ってきましたよ。」
袋に入ったそれを、カイノさんがカウンターに置くと
お婆さんは、おそらく少し高めの椅子に
座ったのだろう、上半身までがカウンターの上に
出てきた。中身を確認する。
「ふむ、問題無いね。街道はここのところ妖魔が
頻出するって聞いていたが、大丈夫だったのかい?」
引き出しを開けゴソゴソと何かを取り出し、小袋を
カイノさんに渡す。
「いえ、遭遇しましたけど、こちらの方に
同行していただいて難を逃れました。」
ふむ、と俺に目線を移すお婆さん。
「初めまして。オキタ ジュンといいます。」
お婆さんはニコリと笑い
「ラルだよ。冒険者かい?」
「いえ、ジュンさんはセジア闘士で、今は
カイダールまで旅をしている所です。」
カイノさんが代わりに紹介してくれた。
「ほぉ、セジア闘士。
では、あんたが噂に聴く不殺かい。」
え、何で知ってるの?表情に出たのか
「そんな驚くことでもないよ。セジア闘士の
名前なんてあっという間に広まるもんさ。」
・・・噂って本当に怖い。
「それでですね。ジュンさんは魔術師を探している
とのことで、ここにお連れした次第です。」
「ふーん。何て魔術師だい?」
俺は少し訂正して
「あ、いえ、個人というよりも、凄く高位の
魔術師とか、凄く魔術に詳しい方を探してます。」
「どういった理由で?内容によっては
紹介しづらいことかもしれないからね。」
ごもっとも。ちゃんと話すべき、かな。
俺は今までの経緯を簡潔に話した。
「違う世界からの転移、とはまた
突拍子も無い話だね。」
俺の話を聞き、驚く顔のラルさんとカイノさん。
後ろで俺の服を掴むセフィルからも、小さく
驚きの声が聞こえてきた。
「そうですよね。でも事実なんです。それで
セジアで知り合ったセスさんに、その転移は
魔術の可能性が高いと伺って、転移のことを詳しく
知る魔術師さんは居ないか探しています。」
ラルはピクッと反応して
「セスさん?それはセス=エファス司祭かい?」
「あ、はい。ご存知なんですか?」
「ご存知も何も、あんたが探してる高位の魔術師。
世界で指折り5人に入る人物さね。」
「え!そうなんですか?!」
ラルは呆気に取られた顔で
「知らなかったのかい。今ここアリアシスじゃ
ラスティアの皇女、エレンハナムの宮廷魔術師
シスタンカナ大森林の魔女、それにセジアの賢者が
最高位の魔術師と謳われているよ。」
「その、セジアの賢者がセスさんなんですか。
何も言ってくれなかったなぁ。
あれ?でも今のだと4人ですよね?」
ラルはニヤッと笑い
「よく聴いてるね。そういうのを聞き逃さないのは
生きてくのに大事だよ。あと1人。
流浪の魔術師って呼ばれてるのがいるよ。」
この言葉を聞いて、俺の背後で服を掴むセフィルが
ピクッと反応した。
「どうして、4人と分けたのですか?」
「この魔術師はね、厄災と呼ばれてるからさ。」
「厄災?」
「ああ、その魔術師はある時突然街に現れる。
そして、隕石の雨を街に振り落とすんだよ。
街は甚大な被害を被るのさ。昔、200年近く前には
完全に潰されて消滅した大都市もあったらしい。」
俺は息を呑む。厄災、か。ん?200年?
てことは人間じゃないってことかな?
俺が聞こうとすると、セフィルが前に出てきて
「その流浪の魔術師は今どこにいるか分からない?」
ラルさんに聞いた。そうか、エルフかもしれないか。
「残念ながら、それは分からないよ。ただま
最後に見かけられた場所の情報はあるがね。」
「どこ!教えて!」
「これは情報だからね。こっちも慈善事業
じゃあない。対価を頂けんと答えられんよ。」
あー、それはそうね。商売だもんね。
「何が必要?ヘイム?今手持ちにはそんなに
無いけど、宿に戻れば少しはあるわ!」
「ヘイムでもいいけどね。それなりの値になるよ。」
「いくら?」
「1200」
1200って、宿代が一泊30ヘイムだから40倍。
仮に日本で1泊1万円の宿だとしたら40万円!
結構なお値段だね。
セフィルは高い!もう少し安くして!
と交渉している。
「最後の目撃場所ってことは、そこにいる訳じゃ
ないですよね。それなのにその値なのは、それなりの
理由があるのですか?」
俺の問いに、ラルさんはニヤッと笑う。
「良いところ気付いてくるね。頭の良い子は
嫌いじゃないよ。そこに行けば分かる可能性が
あるのさ。次に現れる場所が。」
「それはどうやって?」
ラルさんは口を閉じた。
これ以上は喋らないよって顔だ。
「では、それ以外に流浪の魔術師に関して
得られそうな情報は、その目撃場所で
ありそうですか?」
ラルさんが、楽しそうにこっちを見ながら
「あるよ。滅多にない、直接それを見たという者を
紹介するから聞くといい。」
「その、見たと言う人が何を見たのか、いう事は?」
また、ラルさんは笑顔で口を紡ぐ。
「なるほど、その聞ける話の内容はこの値に
釣り合う内容という事なのですね。」
「その値が釣り合うかどうかは、何を
探しているかにもよるがね。」
ん?
「つまり、それだけの値を付けた理由は
流浪の魔術師本人だけではないって事ですか?」
ラルさんは俺をジッと見て
「良いね、よく気付く。
うちで店番させたいくらいだよ。」
俺はニコッと笑い
「ラルさんが、気付く様にヒントをくれたからです。
分かりました。」
俺はバックパックから、お財布にしてる小袋を
出して、最初にセジア国王から頂いた金貨を
1枚出した。
セフィルが驚いた顔でこっちを振り向く。
「おや、金貨とは。こっちが釣りを返すようだね。」
「いえ、残ったヘイムでラルさんが俺に必要だろうと
思う道具を売ってもらえませんか?
かなり危ない相手みたいですから。」
ラルはニコリと笑い
「気前の良い子も嫌いじゃないよ。
まずは情報だね。
場所はカイダールから南西に行った所にある
シスって小さい町だよ。」
「え!シス!」
「知ってるのかい?」
「あ、はい。そこに用事があってカイダールに
向かってました。」
「そうなのかい。ならちょうど良かったね。
その町にダーウィって男がいるから、話はそいつから
聞くといい。うちの紹介と言えば話してくれるよ。
それと、これから行く先が分かる可能性。
これを持ってお行き。」
背後の棚から、小箱を出して中身を出すと
クリスタル?に細いチェーンが付いた物が出てきた。
「これは?」
「厄災の居た場所には、しばらくの間黒く焼けた跡が
地面に残ってるんだよ。
恐らくはそれの魔力跡もあるとみてる。
この石をその場所に置いて、その魔力に
反応させれば、この石が方向を示してくれる。」
更に棚からまた小箱を出して中身を出すと
赤い石の付いた指輪が出てきた。
「これは残りのヘイム分だね。
抗魔の指輪。
対魔術への抵抗力が上がる。闘士のお前さんは
持っていればかなり役に立つはずだよ。」
会話を静観していたカイノさんが、え!と驚く。
何だろ。
「ありがとうございます。
有り難く使わせていただきます。」
ラルさんがジッとコッチを見て
「これの値を知ってる訳ではなかろう?
金貨の釣りはそれなりに高額だが、素直に
これだけで良いのかい?」
「ラルさんが俺に必要な物として、考えて
出してくれた物ですから。」
「そうかい。」
ラルさんは優しい笑顔で返してくれた。
「さ、話は以上だよ。仕事するから
用事が終わったなら行っとくれ。」
ラルさんは椅子から降りて、また姿がカウンターに
消えた。ありがとうございます。と
俺らはお店から出た。
「ジュン!
ヘイム、私1200も持ってなくて・・・。」
「ん?いいよ?気にしないで。」
「そんな訳にいかないよ!」
「良いんだよ。話聞いてて俺も、流浪の魔術師に
会う必要あるかもしれないと思ったから。」
「え?どうして?」
「さっき、ラルさんは魔術師は突然街に現れるって
言ってた。もしかしたら転移の魔法かもしれない。」
「あ!そっか。」
「うん。聞いた限り、話をしてくれる人かは
怪しいけど、話せるなら話を聞いてみたい。」
「分かった。じゃあ半分だけでも私が払うよ。」
「それならヘイムじゃなくて、違うことで
お願いしてもいいかな?」
「え?・・・違うことって?」
フードの中でちょっと顔が赤くなるセフィル。
「それはまた後で話すよ。」
うん、とセフィルは頷き、急に大人しくなって
しまった。
「それにしても、ジュンさん!さっきラルさんから
購入した指輪!良い買い物でしたね!」
「そうなんですか?」
「抗魔の指輪は私の見立てでは、金貨の残貨では
全然足りないと踏んでます。」
そんな良い物売ってくれたんだ。マジか。
左手の中指に付けた指輪を眺める。
「ラルさんに気に入られたみたいですね。
ジュンさん。」
「また、この街に来たらお店に顔出しに行きます。」
俺は笑顔で答えた。