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身体を動かし始めて、2時間くらいは経ったかな?
拓けてるから陽の位置も見える。
まだ天辺ではないな。もう一度、大木に触る。
「打たせてもらっても良いかな?」
何となく聞いてしまった。
こんな大木だと、意思もありそうな気がしてくる。
右腕を伸ばし、構えて
ズドォン!
50パーくらいで打ってみた。
びくともしない!凄いな!よし!
呼吸を整え、ゆっくり構える。まずは元の、しっかり
構えた状態からの全力の発勁。
ちゃんと構えて、何かに打ち込んでみるのは
かなり久しぶり。
ズドォーーン!!!
「きゃっ!!」
「え!痛かった?!ごめん!」
ん?喋った?え、まさかこっちの世界の木って
こんくらい大きくなると喋るの?
なんて思ってたら、木の反対側からローブ着た人が
出てきた。びっくりした、この人かー。
何か凄い勢いでこっち向かって歩いてくる。
「あ、すみません。人がいると思わなくて。
驚かせちゃいましたか。」
ツカツカと思い切り目の前まで来て止まる。
両腕を腰にあて、怒ってる感じ?
背の高さはアシャとほぼ同じくらい。懐かしいな
この高さのフード。
「あなた今、この子に何したの!」
この子?木に手を伸ばして言ってる。
木、に対してだよな?
「あ、ちょっと練習相手になってもらってて。」
「練習?」
「あ、こっちは修練って言ってるか。」
えっ!と、多分俺の腰の剣に目を向けて、急いで
木に近寄った。
「えっと、切ってはいないよ?流石に切るのは
かわいそうだから。」
木に傷が無いのを確認して、こっちに向き直る。
「じゃあ何したの!」
「打ち込み。それもまずかったかな。
だったらごめん。もうやめておくよ。」
この森の管理者とかなのかな?
マズイことしたのかなー。フードの中からこっちを
睨んでるっぽい。
また、木に向き直り木に触れて何か
聞いたことのない言葉を呟いている。と
ふわり
木の中から・・・羽の生えた・・・妖精!!
えー!!とうとう妖精が出てきた!!
うわーなんか感動!!
本当に手のひらサイズだー!
ローブの人がよく分からない言葉を話してる。
と、ええ!っと驚くローブの人。それを気にせず
妖精がフワフワとこっち来て、俺の顔の前。
笑顔で俺を見てる。薄ら光って、綺麗。
ってそうじゃなくって、言わないといけないことが
あるだろ!
「ごめんね。あの、思い切り打っちゃって。
痛かったかな。」
妖精は、小さな顔を横に振り、そっと俺の頬に
触れニコッと笑い、またローブの人の所に戻った。
あれ?何かローブの人、頭下げてる?どういう状況?
妖精はまた木の中に戻って、ローブの人は
こっちに来る。目の前に立ちフードを外した。
「ごめんなさい。あなたはちゃんとお願いしてから
修練したって聞いた。あの子も受け止められると
思ったから何もしなかったんだって。
私の早合点でした。」
下げた頭につられて、恐ろしく綺麗な薄青い髪が
肩から流れ落ちる。その髪から尖った耳が見えた。
エルフの女の子だ。
「あの、顔を上げて?気にしてないから。」
ゆっくり頭を戻して見えた顔は、さっきの妖精の様。
切れ長な目の上に長いまつ毛。目の色も髪と同じく
薄い青。綺麗に整った高い鼻、薄い唇も
バランス良い。凄く不思議な綺麗さ。
本当にさっきの妖精みたい。
「あなた、あの子が居るって分かって話しかけたの?」
「いや、まさか。でも何か、意思がありそうな
大木だなって思ったから。」
「ふーん。人間なのにそういう感性って珍しいね?」
そうなのかな?
「ちなみにどういうことしたのか
見せてもらってもいい?」
「うん。構わないよ。」
木の無い方に向けて構える。
「ん?当てて大丈夫って言ってるよ。
ドーンと来いだって。」
「え?そうなの?」
確かに、びくともしなかったな。よし。
木に向かい直し構え、呼吸を整える。
ゆっくり腹まで吸った息を、フッと小さく鋭く
吐きながら踏み込む。
ズドォーーーン!!!
うん、やっぱり!
ずっと呼吸止めて打ってたけど、一瞬切る様に
吐く方が力が入る。
さっき、久しぶりにゆっくり呼吸を整えて
全力で打ったら気付けた。
っていけね、自分の世界に入っちまった。
「こんな感じの技だよ。」
エルフの女の子が驚いた表情で
「これって、もしかしてバッツ村のホブを倒した技?」
「あれ?なんで知ってるの?」
この人か!今の威力なら納得出来る。
「ん?この子が、さっき打った時よりも強かったって
言ってるよ。」
「本当!やっぱりか!さっき打たせてもらって
ちょっと得るものあったんだ。
ありがとうって言ってもらって良い?」
エルフの女の子は、クスッと笑って
「話せばちゃんと聞いてるよ。」
「あ、そっか。」
「ごめんなさい。自己紹介まだだったね。
私はシィアリーク・ラ・エク・セフィル。
セフィルでいいよ。
あなたの名前を聞いても良い?」
手を向けてくれるセフィル。
「あ、ごめん!俺はオキタ ジュン。」
俺は手の汗を服の端でササッと拭く。
「じゃあジュンって呼んで良いかな?」
「もちろん。」
2人、笑顔で握手した。
「ジュンはセジアの闘士なんだね。」
スッと距離を詰めてネックレスに触れる。
距離感近いな!
「う、うん。そうだけど?」
「さっきの動き見ても凄く強そうなの分かった。
でも意外。私は、何人もセジア闘士って人と
会ったことあるけど、皆んな横柄で、私の事を見たら
距離詰めて言い寄ってくる人ばかりだった。」
「そんなにセジア闘士に会ったの?」
「うん。ここ50年だと、かれこれ10人は
会ったかな?聖剣士になった人に会えなかったのは
残念だったけど。」
50年!あ、そっかエルフだからかー。
「でも、ジュンは違うね。何か、空気が違う。
この子もジュンに触れてたしね。
あれ、びっくりしちゃったよ!ジュンは見た限り
精霊術師ではないでしょ?それなのに、この子が
自分から触れに行くんだもん。」
そうなんだ?何かちょっと嬉しいな。
「ジュンはセジア闘士なのに冒険者なの?」
「いや、冒険者じゃないよ。ちょっとカイダールに
用事があって、旅してる。セフィルは?」
「ふーん。用事ってどんな?」
あれ、俺の質問流された。ま、いっか。
「友人の遺品を届けにね。」
「そうなんだ。私はね、探してる物があって
同じく旅人。もし、良かったらなんだけど・・・
そのカイダールまでの道程、同行しても良いかな?」
「俺は一人旅じゃないから、他の仲間にも聞かないと
分からないけど、俺は構わないよ。」
「本当!良かった!」
また、ずいっと寄られて手を握られる。
何か、距離感近い子だー。握った俺の手を見てから
俺の目を見直し
「ジュンは本当に不思議ね。
エルフの私見てもさして驚かないし、あの子が
触れたくなった気持ち、凄く分かる。
なんだか安心する。
精霊術師に向いてるんじゃない?」
距離近いまま、綺麗な笑顔を向ける。近いよー。
「じゃあとりあえず街に戻って、みんなに
紹介するよ。」
距離に耐えられなくなり、スッとセフィルの手を
離して木に触れる。
「ありがとう。お陰でまた少し強くなれたよ。」
「また来てねって言ってるよ。」
俺は分かったと木に笑顔を向けて、行こうかと
セフィルに声をかけて、街に向かって歩き出した。