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「今日はここで夜営になります。」

カイノさんが、馬車の中に声を掛けてくれて

慣れた手つきで準備を始めてる。

馬車の周りを見回すと、何組かの馬車が同じように

夜営準備を始めてた。

「いつの間にかこんなに馬車が増えてたんですね。」

声をかけた俺に、作業の手を止めずにカイノさんは

答えてくれた。

「ここは街と街の中継点なんです。

街道を移動する人や馬車は、街道の途中にある

幾つか、比較的安全な場所に集まるんです。

こうして集まれば、護衛の人数も増えますからね。」

なるほどー。確かに他の馬車見ても護衛がいるし

これだけ人数がいれば、夜とはいえ簡単には

襲って来れない。セジアから次の街まで

馬車で2日、徒歩だと5日の距離。

1人で歩いてたら、こういう場所があるって

知らずにいたな。

「不殺様!食事の準備出来てますよ!」

冒険者リーダー、さっき名乗ってくれたエリュンに

すっかり呼び方を変えられてしまった。

ジュンで良いよって言ってるのになぁ。

何にしても、旅の出始めの時の剣呑とした雰囲気は

無くなり、全員で談話が出来るようになっていた。

エリュンは積極的に俺に話しかけてきて

話してみると、意外と真面目で仲間の前で

リーダーとしての威厳を持っていたかったって

感じだな。

食事も終わり、見張りを立てて睡眠を取る。

俺は練習したかったので、見張り役をかって出て

少し離れた距離で、練習しながら見張りをしていた。

流石に、発勁の踏み込み音は響くよな。

発勁は小さく打つ練習にしよう。

とりあえず筋トレから始めていると

「ジュン、修練してる時にごめんね。ちょっとだけ

話いいかな。」

ヤムが話しかけてきた。

「構わないよ。どうしたの?」

「うん。メイのことで、ちょっと話しておかないと

いけない事があって。」

「メイのこと?」

真剣な面持ちのヤム。俺も筋トレをやめて

ヤムに向き直った。お互い向き合って地面に

座る。

「メイがカイダールにいた頃の話なんだけどね。

カイダールは、商人が凄く力を持ってる国ってのは

知ってるよね。」

知らないけど、きっと普通に知ってる事なのだろうと

思って、相槌をうった。

「そのカイダールに居る、有力商人の内の1人に

目を付けられて、かなり危ない目に遭わされたことが

あるんだ。」

「危ない目に?」

頷くヤム。

「あたしとメイは孤児院育ちでね。

メイが言ってた母は、あたし達を育ててくれた

院長なんだ。メイが14の時、孤児院の前を

通りかかった商人に見初められてね。

周りは喜んだんだけど、メイは乗り気じゃなくて

断ったのよ。それから、その商人の異常な執着が

始まったんだ。

メイの近くに必ず誰かを監視付けて、1日何度も

メイの前に現れては連れて行こうとする。

初めのうちは、断れば引き下がっていた商人も

数日後には、半ば強引に連れて行こうとするから

周りも連れて行かせまいと必死に抵抗したんだ。」

「・・・かなりヤバい奴だな・・・。」

地面を見つめながら頷くヤム。

「だけど、ある日夜中に孤児院に忍び込まれて

無理矢理攫われてしまってね。」

ヤムは、グッと絞り出すように声を出した。

「次に、メイを見たのは5日後の夜。

隙を見て抜け出してきたって言って、家に現れた

メイは・・・顔も、身体中も痣だらけで

腫れ上がって、髪も強引に引き抜かれたように

一部無くなってて・・・ボロボロだったよ。」

俺は息を飲み、言葉を出せなかった。

「このままじゃ危険だと思って、当時冒険者だった

あたしがメイを連れ出して、カイダールを出て

冒険者時代によくお世話になってた、大河亭の

ミランさんを頼って、あそこで働く様に

なったんだよ。」

そんなことがあったんだ・・・。今の明るい

メイからは想像も出来ない。頑張って

乗り越えたんだろうなって想うと、胸の奥が

たまらなく苦しくなる。

「あ!でもジュン!あの子の名誉の為に

これだけは言っておくよ?

何度も何度も、無理矢理犯されそうになったけど

必死に、噛みついてでも抵抗して、最後までは

許さなかったんだって言ってた。

あんな奴の子を身籠りたくない、その一心で

あんなにボロボロになるまで抵抗して」

俺の顔を見て話していたヤムがハッとする。

笑って

「何でジュンが泣いてるのさ。」

「え?あ!」

いつの間にか涙が出ていた。

「あはは、ごめん。

何か、辛かっただろうなって思ってたら

いつの間にか。

俺なんて、メイやヤムの痛みや辛さなんて

カケラも理解出来てないだろうに。

ごめん、話に水を差したね。」

ヤムは首を振って

「ジュン、あんたは本当に優しいね。

こっちの気持ちを素直に汲み取ってくれる。

うちらは良いリーダーを持ったよ。」

ヤムは笑って言ってくれた。

「メイは、大丈夫なの?そんなことのあった

カイダールに行くなんて。」

ヤムはこっちをジッと見て

「母に無事を伝えたくて、会いたいのも本当だけど

どうしても、そんな昔の出来事なんて乗り越えてでもやりたいことがあるんだってさ。」

「そんなに?どんなことなの?」

「それはあたしの口からは言えないよ。」

「そっか。分かった。

メイにとって辛い思い出の場所だろうから、俺も

頑張って支えるよ。

あと、ミランさんに言われたカイダールまでの

道程の護衛。やっと意味が分かった。

絶対に守ってあげないとね。メイのこと。」

ヤムは優しく笑い、お邪魔したねと馬車に

戻っていった。

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