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「店長。お話があります。」
この日の閉店後、メイラールが店長のミランに
真剣な面持ちで話しかけた。
「どうしたんだい?改まって。」
テーブルを拭く手を止めず、返事を返すミラン。
「3ヶ月程、休暇を頂けないでしょうか?」
「・・・理由は?」
「カイダールに行こうと思います。」
ミランはテーブルを拭く手を止めた。
メイラールに向き直り
「正気かい?あんた、あそこで自分がどんな目に
あったか、忘れた訳でもないだろう?」
メイラールは無言で頷く。
「なら何故さね。」
メイラールは、ゆっくり話し出した。
「ジュン様が、初めてここに来た日に、7日後に
カイダールに向けて出るって聞きました。
それから、7日しか一緒に居られないことを
ずっと悩んでました。」
一息、間を取り
「昨日、すごくかわいい子が、ジュン様を
訪ねてきて・・・ジュン様とすごく親しそうに
してて・・・。
きっとあの子は、闘技場でジュン様とずっと一緒に
いたんじゃないかなって思えて。
このままじゃ、あの子に敵わない。
私はもっと、ジュン様の近くに居たい!
傍でジュン様を支えられる様になりたい!
それには、もっとジュン様との時間が必要なの!
私が一緒に行動なんて、ジュン様の迷惑に
なってしまうかもしれないけど・・・。」
「頭から決めつけないで、迷惑にならない努力を
するもんだよ。」
ミランは言いながら、大きく溜め息をついた。
自分がこの街に来て、この店の名で商売を始めた
経緯を想い返す。
一途な想い、か。
何を言っても聞かなさそうだね。
店内奥に向かって歩き出し、通用口の扉を開けた。
「ヤム!コッツ!降りといで!」
隣の建物の2階にいるであろう2人に声をかけた。
メイラールに向き直り、微笑む。
「女ってのはね、本当にどうしようもない生き物さ。
時には惚れた男の為に、迷惑になるんじゃないかと
思っても行動しちまうし、危険と分かってても
平気で身体も張れちまう。
止めても無駄みたいだね。無理に止めても
勝手に1人で行動しかねないからね、あんたは。」
メイラールの表情が、パッと明るくなる。
ヤムとコッツが降りてきた。
「2人とも、メイラールと一緒にカイダールまで
行っといで。」
「は?!」
「・・・。」
驚くヤムとコッツ。
「メイ!あんたまさか、ジュンさんに
ついて行く気なの?」
メイラールは無言で頷いた。
「あんた、カイダールだよ?!分かってるの?!」
「もちろんだよ。」
決意の強い眼差しでヤムを見るメイラール。
ヤムはミランを見る。ミランも同様に、強い眼差しで
ヤムを見据える。ヤムは頭を掻き首を振り
「・・・はぁ。わかったよ。
全く信じ難いよ2人とも。本当に。」
「・・・。」
「コッツも納得してるから、メイと一緒に行くよ。」
「ヤム!コッツ!ありがとう!」
いつも思うんだけど、ヤムってどうしてコッツの
考えてること分かるんだろ?
「メイラール。どんなことがあっても、あんたの家は
ここだからね。ここに帰ってくる、それを
忘れないんだよ。」
ミランが厳しい表情で話した。
「ありがとう。店長。
絶対、ちゃんと帰ってくるね。」
ミランは笑顔に戻り、メイラールを抱きしめた。