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ほんものの

作者: キラ子

このバイト先で働き出してからもう三年になるのか、とレジの日付表示を見て思い出した。初出勤が元々々彼の誕生日で、だからたまたま覚えていたのだ。


新卒で入社したクソクソクソブラック企業は一年経たずにバックレた。

それからは仕事や正社員に伴う責任や義務が怖くてバイトしかしてないし、そのバイトも人間関係とか業務内容とか、その時々の細々した理由が我慢の限界を越えるたびに、一年保たずに辞めていた。


別に長期勤務しなきゃ、などと思っていたわけじゃないが、珍しく長く働けていることが何となく誇らしいような気はする。


店は忙しい。常に色んな客が来て、「ありがとうございました」と「いらっしゃいませ」が重なるのもザラだ。


客は出された肉を


「美味しい!」

「肉ってどうしてこんなに美味しいんだろう」


などと口々に言いながら平らげていく。

まぁいつもの光景だ。


と思ったら夫婦の嫁の方が


「まさか本物の肉が食べられるなんて」


って言ってるの聞いて、ごめんけど流石に笑っちゃった。どうして今まで食べたこともないのに、自分が食べてる肉が本物の肉だって分かるんだろう。看板に「本物」と書いてるのはウチだけど。値段見てよ値段。


「あ、また切れてる」

厨房の、客から絶対見えないとこに配置された、ぺたんこになったパック。ドリップでグロいピンク色になってるのもいい加減見慣れた。


「トシさーん赤身切れちゃいましたー」

うちの「肉」は15㌔のパック3種類をいい塩梅にブレンドしている。


15㌔は女の子には厳しいでしょ、と、勤続年数不明のバイトリーダー・トシさんがいつも持ってきてくれる。

パンパンの袋を3つ抱えて、「万年腰痛マンだよぉ〜」

などと腰をさすっているのもいつものことだ。


私のひいひいおばあちゃんくらいの頃には「本物の肉」があったらしいけど、今はもう食べられない。少なくとも、ウチみたいな時給1350円の店じゃ。


今月はかなり無理めのシフトを入れた。というか入れざるを得なかった。どうしてもどうしても欲しいと思ったピアスが口座残高の余裕とほぼ同額で、気がついたら買っていたから。

だから私も、トシさんじゃないけど今月は万年疲れてる気がする。

心の中で(ン゙ん゙〜〜〜〜)と言いながら腰に手を当てて反り返り、伸びをした。


勤務終了まであと2時間半はある。

ここらへんから急に時計の進みが遅くなるのだ。


がんばろ。


*****


「凄かったわねぇあの店、お肉もだけどあの店員!」


「凄いクオリティだったねぇ」


「やっぱアレね、新機能の『バックボーン』?アレが付いてるだけで、こう、すごく人間っぽい」


「僕らのひいひいおばあちゃんくらいの頃には本物の人間がああいうとこでも働いてたみたいだけどね」


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