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 そうしてつれてこられたのは、ゲームセンターだった。


「……これはなんだ?」

 ブリッツはおおきな四角い箱を指さす。

 それはあきらかに『プリクラ』だった。


「プリクラだけど……しらないの?」

「あぁ、初耳だ」

「もしかして、ゲーセンはじめて」

「ふふっ、よくきがついたな」


 じゃあ、なんでつれてきたんだ……。


「で、これってなんなのだ?」

「じゃあ、ついてきて。お金はもっているよね」

 そういいながら、私はブリッツといっしょに箱のなかにはいった。

 ブリッツにお金をいれてもらうと、プリクラの画面がつく。


「ほら、背景とかえらんで」

「はいけい?」

 画面には、さまざまな背景がならんでいた。

 ブリッツはどれをえらんでいいかわからずにあたふたしている。


「じゃあ、これとか」

 私がえらんだ背景をおしてもらうと、撮影がはじまった。


「は、春姫、我はどうすればいい?」

「と、とりあえず、ポーズを!」


 パシャ! パシャ!

 とっさのことで、私とブリッツはへんなポーズをとってしまう。


 箱からでて、私たちはプリントアウトされた写真をみた。

「ぷっ、あはは……」

「く、くっ……はははは!」


 ゲーセン中に、わらい声がこだまする。

 なんだか、写真がおかしくて、おかしくて、たまらなかった。


「もう、ブリッツぼうだちじゃん!」

「春姫こそ、なにガニ股になっているんだ?」


 はははははっ!

 しばらく、爆笑はとまりそうになかった。


「ははは、じゃあ、つぎいこ! つぎいこ!」

「じゃあ、つぎは……あれはなんだ?」


「両替機だよ! それよりもあっちにおもしろいものが……」

 私はクレーンゲームのほうへはしっていった。ブリッツもそのあとをおう。

 しばらく、たのしい時間がつづいたのだった。



「今日はありがとう」


 夕ぐれのなか、私とブリッツはあるいていた。

 ブリッツがぎゅっと私の片手をにぎってくれている。


「我こそ礼をいう。春姫との時間、まことに愉快だった」


 ほほえむブリッツの顔は夕日にてらされ、とてもきれいだった。

 かわいい……おもちかえりしたい。


「さすがに千瀬はご立腹だろうな」

 あぁ……そういえば。


 自分が党首官邸からにげだしたことをおもいだす。

 うわぁ、あれ大丈夫かな……というか、ほぼアウトじゃないか。

 すくなくとも、私とブリッツにはなにかしらの罰がくだされるだろう。


「うーん、なんか罰をうけるのもいやだな」

 私はつぶやく。


「いっそのこと、ふたりでにげない?」

「にげるって、どこに?」

「どこかとおいところ、日本でもドイツでもソ連でもない場所」

「我は……」

 ブリッツは一歩、二歩、三歩とまえへでて、ふりかえる。その表情は赤くなっており、恥じらいをふくんでいることがわかる。

「我は春姫となら、いっしょにいってもいいぞ」


「……!」

 ――ドクンッ!

 ……なんだか、胸がはげしくゆれはじめる。

 いまのブリッツの表情が過去一番かわいかったのだ。


 それに……「いまなんと?」


「我はずっと春姫といっしょにいてたのしかった。だから、春姫がのぞむのであれば……」


 ――ドクン、ドクンッ!

 胎児に内側からけられたときのように、心臓が鼓動をはなつ。


『いっしょにいたい』――そういわれて、ようやく自分のおもいにきがつく。

「ブリッツ……」

「どうしたんだ」

「私もブリッツといっしょにいたい」


「へっ」


「私はブリッツがすき……いや、だいだい……だいすきッ!」


 唐突な告白に、ブリッツは茫然自失というかんじで瞼をぱちくりさせていた。やがて、その意味を理解したらしく、目をまるくして口に手をあてた。


「春姫……」

 彼女は顔をさらに、紅潮させる。

「本当に、ブリッツはかわいいな」


 さきほどの突発的な感情が、ふたたび全身にうずまいた。

 いがいがする感情にたえきれなくなり、また彼女にせまってしまう。


「キスしたい」

「な、なにをほざいている?」

「私はブリッツとキスがしたい」

「からかうのも大概に……」

「私は本気だよ」

 そういいながら、自分の顔をちかづけた。


「……やッ!」

 するどい声が耳につきささる。私はあまりのことに唖然としてしまう。

 一呼吸いれて、彼女は私の耳元でささやいた。

「人がいるとことじゃ、やだ……」



 公園のトイレ。


「ここだと誰もいないよ」

 そういって、私はブリッツとともに個室にはいっていった。

 個室は意外にせまく、ふたりもはいるとぎゅうぎゅうだった。


「ねぇ、ブリッツ。もう、いいでしょ?」

「ま、まって……我にも心の準備が」

「……もう、ムリ」


 プルンッとやわらかい感触が私の唇を侵蝕する。

 キスというにはあまりにつたない、ふれるだけのキス。

 それだけで幸せが、全身を駆けめぐった。


「はぁ……はぁ……」

 しばらくして唇と唇がはなれると、彼女は恥ずかしそうに眼をそらした。


「ブリッツ……すき、だいすき」

「……我も」

「えっ?」

「我も……春姫のことが……だいすきだ」


 彼女はてれたように、顔をそむけながらいった。

 その瞬間、私の頭のなかでなにかがはじけるのをかんじる。


「ねぇ、ブリッツ……」――視線が彼女の顔を捉える。


「私はブリッツにすべてをあげる。だから、ブリッツも私にすべてをちょうだい」

「もちろんだ。わ、我も春姫がほしい」


 彼女の暖かさに包まれながら、私は愛へ堕ちていった。

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