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「ヌフフ、春姫ちゃんさー」


 風呂あがってすぐのこと。千瀬さんによばれて、書斎にきた。

 千瀬さんは部屋の中央にある椅子にすわり、仕事机に頬杖をついている。


「最近、ブリッツとなかよくしているようじゃないかー」

「なかよくだなんて……そんな」


 いや、否定するひつようもないのか……。

「まぁ、なかよくやっています」

「ヌフフ」


 千瀬さんは私の返事をわらうと、頬杖をやめてたちあがる。

 そして、壁の本棚へ視線をむけた。


「……こんなこというのもイヤなんだけどさー。本気にしないほうがいいよ」

 ほ……ほんき?

 千瀬さんがなにをいっているのかが、わからなかった。


「残念ながら今回のイペタムの件がおわったら、私たちとキミの接点はなくなる。そして、もう二度とあうことなく、サヨナラさー」


 ど……「どいうことですか!」


「どいうこともこういうことも、いまキミがここにいる理由は私たちの任務遂行のためさ。キミをイペタムからまもるというね」


 たしかに、そうだが……。


「それがおわったら、必然的にキミはここからでていってもらうことになるし、ここでの記憶はわすれてもらうことになるぞ」

「わ、わすれてもらうって」

「だってそうだろうー。私たちはいわば秘密組織なんだ。本来ならキミのような一般人にしられていいものではない」


 私はおそろしかった。

 千瀬さんがはなしている内容もそうだが、彼女の表情がいつもどおりの――目尻がさがり、口角があがっている――ものだったのがおそろしかった。


「だからさ。いくら私やブリッツとなかよくなっても、けっきょくは水の泡なのさ」

「……」そんなこといわれたって……。


「あら?」

 一瞬だけ、千瀬さんの顔におどろきがうかぶ。

 いつのまにか、私は千瀬さんをにらみつけていたらしい。


「……つよい殺気をかんじたよ」

 声から動揺がかんじられた。


「……そこまで、ブリッツ・ホーホゴットにおもいいれがあるとは」

「そういうわけじゃ……ないです」


 千瀬さんは嘆息をして、本棚から一冊の本をぬきだした。


「もしかして……ブリッツがすきなのか?」

「だから、そういうわけじゃないっていっているでしょう?」

「生半可な覚悟ならやめておいたほうがいいぞー」


 本をひらいて、私の顔のまえにつきだす。


「これって……」

「一〇年まえの『琉球同時多発テロ事件』ってしっているよな?」


 琉球同時多発テロ事件――

 私のうるおぼえの記憶によれば、ドイツ領琉球をテロリストが襲撃した事件。それにより大量の死者や損害がでた。


 テロリストとドイツの交渉がこじれておこった事件であり、その根本的原因は交渉の仲介役だった西日本のずさんな対応だとかなんとか。


「それが……どうしたんですか?」

「ブリッツはその被害者だ」


 千瀬さんが本の一節を指でさす。

 そこには『テロリスト、五〇人以上の子どもを誘拐』とかかれてあった。


「テロリストたちは琉球の子どもを自分たちの兵士にしようとしたんだ。誘拐された子どもたちは毎日、きびしい軍事訓練をさせられていたらしいぞ」

「じゃあ……ブリッツは?」

「誘拐された子どものひとりであり、もとテロリストの戦闘員になるね」


 あぁ、ブリッツ。キミはそんなところにいたんだね。

 ――心がさみしさでやぶれそうになる。

 彼女の特殊な生育環境――それはテロリストだったというわけだ。

 そりゃあ『文字どおり命がけで』『心身をけずって』いきていかなくていけなくなる。


「ついでにそのテロリストはイペタムさ」

「……」


 なんだよそれ。ここでもでてくるのかよイペタムが。

 じゃあ、中部におこったときにいっていた「一〇年前に反省したんじゃないのか!?」ってこのことだったのか。


「というわけでさー春姫ちゃん」

 千瀬さんは本をとじて机のうえにおいて、私の肩をたたく。


「ブリッツのことが本気だったら、それなりの覚悟がひつようだぞ。それこそ、私をきり殺すほどの覚悟が」


「なんどもいますけど……」


 そういうキモチがあるわけじゃありませんから。


 私が台詞をいいおわるまえに、誰かの声がきこえてきた。

「千瀬」

 わっ! いつのまにか、私の背後に木梨田がたっていた。

「お、木梨田どうしたんだー?」

「警視総監からじきじきの任務や」

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