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「勝つ……ぜったいに勝つ」


 西日本中学剣道大会の選手控室にて。

 私、仁禮春姫(にれはるき)は、決勝戦がせまるなか、緊張にふるえていた。


「おいおい、大丈夫か?」

「ん?」


 彼女の姿を見あげた瞬間、心がおおきくゆれる。

 キレイな女性がたっていたのだ。


 さわやかな雰囲気と鼻のたかい顔が特徴的なクールビズ。

 彼女は私の師匠にして剣道部の顧問、上曽洋(うえそよう)だ。


「すき……」

 おもわず、口にした自分のおもい。


「うん、なんだ?」

 首をかしげる師匠にたいし、「いや、なんでもありませんッ!」と私は頭をふる。


「あんまりきおうなよ。自分らしくだ」

 バンッと背中をたたかれる。

 その衝撃で、体にきあいがはいった。


「ありがとうございます」

 そうだ。師匠のまえでよわい自分をみせるわけにはいかない。 

 絶対、勝利して『自分のおもい』をつたえなきゃ。

 そう意気こんで、私は扉へとむかった。



 大会の閉会式。十字架と日の丸をあしらった国旗がかかげられた。出席者たちは、一様にその国旗にむかって敬礼をしている。


「優勝おめでとう」

 この瞬間、私はまちがいなく人生のなかで一番かがやいているだろう。

 手に優勝のトロフィーがわたされる。


「ありがとうございます」

 私への祝福とともに、複数のカメラのフラッシュがたかれる。

 おもわず目をとじてしまった。


 まわりから盛大な拍手の音と「さすが天才剣道少女!」という賛美がきこえてくる。

んもう、天才剣道少女ははずかしいからやめてといったのに……。


 ふたたび目をひらいたとき、真正面には満面の笑みをうかべた女性がいた。


「春姫、よくやった」

 ――師匠だ。


「師匠のおかげです」

 彼女からの祝福に、私は笑顔でこたえた。


「俺はなにもしてねぇよ」

 師匠の手が私の頭をなでて、髪をくしゃくしゃとする。


 彼女の手を頭にかんじたとき、まるで心臓に電気がながれたみたいに私の体はビクッとうごいた。

 師匠の手と私の頭がふれあっているのだとおもうと、顔があつくなる。


「あの、師匠……あとでおはなしがあります」

「ん?どうした?」


 しどろもどろになる私にたいして、彼女はやさしいえみをうかべた。

 そして、手でゆっくり私の頭をなでつづける。


 ――今日こそは覚悟をきめるんだ!

 ――今日こそは!


 私はうちなるおもいをひそめて、師匠をみすえる。

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