1
「勝つ……ぜったいに勝つ」
西日本中学剣道大会の選手控室にて。
私、仁禮春姫は、決勝戦がせまるなか、緊張にふるえていた。
「おいおい、大丈夫か?」
「ん?」
彼女の姿を見あげた瞬間、心がおおきくゆれる。
キレイな女性がたっていたのだ。
さわやかな雰囲気と鼻のたかい顔が特徴的なクールビズ。
彼女は私の師匠にして剣道部の顧問、上曽洋だ。
「すき……」
おもわず、口にした自分のおもい。
「うん、なんだ?」
首をかしげる師匠にたいし、「いや、なんでもありませんッ!」と私は頭をふる。
「あんまりきおうなよ。自分らしくだ」
バンッと背中をたたかれる。
その衝撃で、体にきあいがはいった。
「ありがとうございます」
そうだ。師匠のまえでよわい自分をみせるわけにはいかない。
絶対、勝利して『自分のおもい』をつたえなきゃ。
そう意気こんで、私は扉へとむかった。
◇
大会の閉会式。十字架と日の丸をあしらった国旗がかかげられた。出席者たちは、一様にその国旗にむかって敬礼をしている。
「優勝おめでとう」
この瞬間、私はまちがいなく人生のなかで一番かがやいているだろう。
手に優勝のトロフィーがわたされる。
「ありがとうございます」
私への祝福とともに、複数のカメラのフラッシュがたかれる。
おもわず目をとじてしまった。
まわりから盛大な拍手の音と「さすが天才剣道少女!」という賛美がきこえてくる。
んもう、天才剣道少女ははずかしいからやめてといったのに……。
ふたたび目をひらいたとき、真正面には満面の笑みをうかべた女性がいた。
「春姫、よくやった」
――師匠だ。
「師匠のおかげです」
彼女からの祝福に、私は笑顔でこたえた。
「俺はなにもしてねぇよ」
師匠の手が私の頭をなでて、髪をくしゃくしゃとする。
彼女の手を頭にかんじたとき、まるで心臓に電気がながれたみたいに私の体はビクッとうごいた。
師匠の手と私の頭がふれあっているのだとおもうと、顔があつくなる。
「あの、師匠……あとでおはなしがあります」
「ん?どうした?」
しどろもどろになる私にたいして、彼女はやさしいえみをうかべた。
そして、手でゆっくり私の頭をなでつづける。
――今日こそは覚悟をきめるんだ!
――今日こそは!
私はうちなるおもいをひそめて、師匠をみすえる。