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宛先のない物語  作者: ナナイ/リル
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ナナイ 25

僕が小さいころから、親と言うものはいなかった。その代わりに、周りにあったものは紙とペンと、保護者らしき男。確か、高田とか何とか云った、遠縁の親戚だった筈だ。今となってはあまり思い返せないが、どんなことをやっていたかという事は非常に思い起こすのが容易である。


「これが、お前の生きる価値だ。ただ、無くなったら買ってきてやる。朝から昼と、昼から夜の二回、一枚ずつ絵を描け。出来によって、飯の量と質を変える。落書き程度だったら、米ぐらいはやる。だが...毎日それじゃあ、そのうち大根の皮にするからな。ああ、朝は人並みにはやる。人並みにやれるなら、人並みにはやる。だが、さっき言ったのと同じで成長しなけりゃ飯はやらん。分かったら、早く描け」


高田に言われたのがそんな言葉で、僕は毎日必死に絵を描いた。絵をとてもうまく描いた時には高田に褒められて、少し撫でられては「もっと頑張れよ」とステーキを焼いてくれた。

絵を上手く描けなかったときは、「こんな時もあるさ。そういう時は、ゆっくり休むのがいい。早く飯食って風呂入って、何も考えずに寝ろ。そうすりゃ気も晴れて頭もすっきりするってもんだ」とあったかい緑茶と塩鮭を焼いたものと米と味噌汁と言う、いつもの朝ごはんと同じものをくれた。


小学校には在籍こそしていたけど病弱設定で一回も学校に行った事は無く、高田も何も言ってこなかった。

小学校2年生に上がる頃には、高田は「流石に量と質を変えるやり方だと毎日最高に上げなきゃならない。だから、どのくらい原稿を上げられるようになるかという所でがんばれ。俺が期限を切るから、此処までには絶対終わらせろ」といって今の活動に大幅にかかわってきていることを言ってきていた。思えば、これも一種の親離れなのだろう。


小学校も3年生に入ると、僕に「仕事」が入る様になって一気に忙しくなった。でも、高田が用意している現行の量は減るどころか増えるので、今のクオリティのまま最高のものを出し続けることの耐性が出来てきていた。それでも少し前までの半分くらいなのだから、そんな練習が無かったら...それ以前に、高田が僕を引き取っていなかったら、そんな事にはならずに野垂れ死にだっただろう。


「...まあ、調整はこのくらいで良いかな?」

声の高さも、堅さすらも大幅に変わった口調で高田は姿を変えた。それが、今のロキだ。

「今まで、やってほしいことがあって君を鍛えていたんだ。と言っても、今までと違って報酬は出すよ。...それに、君自身イラストレーターとしての仕事が楽しいでしょ?」

そんな事を言われて、僕はさらに忙しくなった。


小学校5年生の秋ごろ、僕はロキによってDrag-Althに呼ばれた。ロキが色々隠しているのは知っていたので、この程度の事では驚きもしなかった。

そして、初めて会った女の子に一目ぼれした。名前は、ナナイと答えていた。その時に口を吐いた「僕はこの子のイラストだけ描く」という言葉は、そんな思いや仕事を増やされてはたまったもんじゃないという思い、そして一番に...こんないい素材の子を、僕より技量が数段劣るだろうそこらの絵師に任せられないという思いだった。


オルカ余月という名前で活動している僕は、そのまましばらくしてロキの家に引き取られた。途中、ナナイが僕が描いた仮想の姿で動いたりそれに合わせて次の週に急いで仕上げた僕も仮想の姿で動いたりしていたが、細かい所だ。

...それなのに、中学校3年生の時には僕より小さかったナナイは急に僕を越してしまった。守るべき妹みたいな存在、そして本人には言えないけど恋人...と思っているのが、弟扱いされるようになってちょっと悲しかった。


リルは、かっこいい。それにかわいいから、男女ともに告白されて僕はいつか誰かに盗られるんじゃないかって心配だった。

だから、リルが僕の事を起った時、失望されたと思った。そして、昔のことを思い起こしてしまった。


「...はぁ。こんだけしか描けないのか。これは、流石に3日は飯抜きだ。さっさと寝ろ、カスが」

それは、今までずっと連続で良いのを描いていた時に調子が出なくて落書きみたいなのしか描けなかったときの、高田の顔。しばらくはなにも食べさせられなくて、水も少しだけ。もうやだ、あんな思い亜Hしたくない。捨てられたら、今度こそ全部が終わる。そんな強迫観念に駆られながらリルに縋った。

だから、リルに縋った時にすぐ許されて、おもったんだ。リルに縋っていれば、きっとなにも大丈夫なんだって。リルに嫌われなければ、僕はきっと幸せなんだって。


...でも。最近、リルの様子が変だ。まるで、僕が縋るのを気持ち悪がるような...。

もしかして、嫌われたのだろうか?そう考えるだけで、僕の身体により強く改竄された偽りの記憶が浮かぶ。リルに縋りたいと言う感情が強くなるが、どこかでここでリルに縋ればもう二度と見てもらえないと言っている自分もいる。僕は、そんな混乱の極みの中で最後の歌を紡ぎ始めた。

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