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宛先のない物語  作者: ナナイ/リル
11/27

ナナイ 11

図書室に入った瞬間、黒い尻尾らしき何かが見えた。しかしゆうくんはそれを見ていなかったらしく、いかにも怪しい書類の山に一筋輝く光の下へ疑いもせずまっすぐに進んでいく。マスクステータスと言うものがあるなら、多分今ゆうくんがあの音に反応するグロい黒猫に対して抱かせている敵愾心というのは敵対が100だとしたら0...とまではいかなくとも、10ぐらいのものだろう。つまり、どういう事が言いたいのかというと...。


「おおー、この書類には学校の生徒数の推移が書いてる!...70年前に、一気に減ってるね。世界的には何もなかったはずだけど...。」

ゆうくんが、一個一個書類を見ながら空いているスペースに適当に重ねていく。...いや、よく見ると同じ種類、同じ時期のものに合わせて並べている気がする。


「...なぁんか埃っぽいなー...。よし、掃除しようーっと」

そう言いつつ、壁に隣接していた掃除用具入れから箒とモップ、それにちりとりらしきものを取り出して床を掃き始めた。途中、建てつけの悪い窓が外れたのを直して結構音が鳴ったけど、グロい黒猫は出てくることなくゆうくんのアバターはそのまま掃除を続けた。


しばらく、具体的にいうと現実時間で四十分くらい。その時間を要して、ゆうくんは図書館を綺麗にしていた。散らかっている本もアイテム判定らしく、それらも回収しては名前ごとに並べて書類も『人口推移表』とかいうクリアファイルにまとめたりしていた。ファイルの方は司書さんが貸し出し処理などしていたであろう机の裏側、いわゆる『禁庫』としてその部屋の壁収納に綺麗に封印されて、この部屋だけは(流石に内壁の劣化があるのは如何ともし難く、本も20年ほど前に出たラノベが蔵書で一番新しいけど)新しくできた校舎みたいだ。


その時、ガサゴソという音が聞こえて、奥の方から黒猫が出てきた。しかも、本が中にあると思しき部屋を叩き破るという、ボス級にしか無いはずのムービーまで流れる好演出。

「おおっ、もしかして僕、新しいルート見ちゃってたりするのかな?」

無邪気にボクにそんなことを聞くゆうくんに「ボクは見たことないって言ったでしょ!」と少し慌てて答えたのは、ボクに話し終えた直後にゆうくんが黒猫に向かって「おんどれぁ、どこの組のもんだぁ!?誰に小銭握らされて命張った!?あぁ!?」と今までと明らかに違う口調、声質、音域、そして聞いたものに恐怖を齎す威圧感と恐ろしい顔をして黒猫を脅しつけたからだ。


そして...

「んなぁぁぁぅ」

猫のような鳴き声をあげて、グロ猫は下から灰のようになって消滅した。...ええー?

「ゆうくん、今のってどうやったの?」

驚きつつ顎の下のゆうくんに問うと、「うん?単純に、今の奴はこの図書室に入って一定時間で出てくる奴だっただけだよ?後は、ナナイが言ってたみたいにストレスを掛けない様に音を控えめにして、全部きれいに掃除しただけ。消えたのは分かんないや」という返答が返ってきた。謎が謎を呼ぶ結果となったけど、最後に来る場合だと『七不思議』と呼ばれる黒猫のうちの一体は駆逐完了。この後どうなるかは不明である。


ゆうくんが操るキャラが廊下に出ると、謎にビーカーやらメスシリンダーだっけ?とか、後はスポイトみたいなやつが廊下に散乱していた。

「...これも、なんかのイベントだったりするかな?」

隠す必要がないなー、と思ったボクは、素直に答えることにする。

「うん。ボクがやった時は、鉄蜘蛛を殺しながら廊下に散らばる理科室の道具を集めて、理科室に戻しに行ったなあ。ボクが持っていったのは70パーぐらいだったけど、出てきた奴はそれでも相当遅くなってたよ。多分、全部集めたら消えるんじゃないかな?」

ボクの言葉にゆうくんは、「そっかー...。」と曖昧な返答をした。



しばらく時間は経って、校舎全体からものすごい数の実験道具を持ってきたゆうくんは満を持して理科室に入った。ビーカー、メスシリンダー、後はピペットと言うらしいスポイトみたいなやつ。丸いフラスコに、途中で枝分かれしている枝付きフラスコ?とか言うもの。薬を測るときに使う薬包紙と薬さじ。色んな道具が散乱していた。


「...あれ?知っている奴よりもきれいだ」

ボクはちょっと驚いて理科室を見る。知っていたのは、ぐちゃぐちゃに荒らされた理科室。なんでかなー、と思うと、理由が分かった。この話には、まだ鉄蜘蛛が出てきていない。つまり、荒らされる要因が無いんだ。こっそりゆうくんの方を見ると、ふにゃあとした笑みを浮かべていた。すごくかわいい。ゆうくんはやっぱり天使だ。


ゆうくんは、再び理科室の掃除を始めた。

「さっきの図書館にいた猫さんはね、きっと『図書館は静かにする』って言うのを守らないと襲ってくるんだよ」

「!?」

突然独り言のように考察勢みたいなことを言い出すゆうくんに、しかも実際にそうであるだろうなと思えるような言葉を伴って吐かれたその想いに、ボクはビクッとなる。でも、ゆうくんは何故か遠いところを...何かを懐かしむような顔のまま、続ける。


「ここも、きっとそう。物はしっかり戻す、それさえ徹底していれば何もしてこないんだ」

「...でも、なんで床掃除しているの?」

そう尋ねてみると、ゆうくんは配信上のボクのアバターを見つめて言った。

「そりゃあ、学校・・としての『下校する前には、掃除を行う』っていう事をしているからだね。それ破ったら、多分今すぐにでも...鉄誅だっけ?それが襲ってくるよ。今は結構な数がある教室のフロアボスを倒している段階だから出ないだけで、終わったら教室とトイレと廊下と窓と...とにかく、いっぱいキレイにしなきゃね」

深読みしていても実際にありそうだな、と思えるのは、ゆうくんの視線が遠いところを見ているからではない。少なくとも、ボクはそう思いたい。

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