ナナイ 10
「...で、この後どこに進めばいいの?」
軽く滑り落ちそうになったボクを支えながら、ゆうくんは続けた。
「だってさ、どこに行けばいいのかよくわかんないからさ?ルート分岐があるとか言ってたけど、本当にあるのー?」
またもやずり落ちそうになったのを持ち直して、ボクは何とか軽い説明を始めようとして。
「あ、あるよ。でも、北は危ないから最後にした方がーーー」
「分かった!北に行くね!」
既に動き始めたゆうくんを止める術はボクには無かった。
「ほえ?なんか村についたんだけど...ぼろっちくね?」
「...そう言うものなんだよ。ほら、村人に聞き込み調査して。あと、此処のストーリー終わらせないと他のところにいけないからね?」
「そうなんだー...。まあ、僕にすれば余裕だけど!」
「...寝ている間に全身拘束して耳元で呪詛囁かれ続けるのと、全身攣った状態にして氷風呂にぶち込まれるのと、どっちがいい?」
「ぴぅっ」などと言う鳴き声を上げて、ゆうくんは集中して聞き込みを始めた。
「集まったのは...このくらいかな?」
・この先には学校があって、学校にはボロボロで吹けばなくなりそうなこの村に居たくないと願った子供たちや大人が共同生活をしている
・しかし、学校の近くには『蜘蛛の社』と呼ばれるものがあって、それを開放してしまうと鉄蜘蛛によって世界は覆われてしまう
・鉄蜘蛛の主である『黒鉄の蜘蛛』は、全ての鉄蜘蛛を操っているので黒鉄の蜘蛛を消すことができるのならば鉄蜘蛛は人を助けるものとなる
...普通のルートで最後に来ると、最初のものしか聞くことができない。何故ならば、この村は最後に攻略に来ると既に鉄蜘蛛が跳梁跋扈しているからだ。こんな特殊ルートがあったなんてなあ...。
因みに、最後に来るまでに他の方向の黒い生物を倒してきていると、西でアサルトライフルが、東でグレネードが手に入るので鉄蜘蛛の処理は楽だったりする。ただ、両方を手に入れるためには友達以外の全員を犠牲にする必要があって、しかも鉄蜘蛛を一定以上(24体だったはず)殺すと黒鉄の蜘蛛が強制的に学校を破壊してプレイヤーを追ってきて、良い感じにダムに突き落としてそれでクリア、最後の場所が解放される、という感じだったけど...初見でここに来るって、やっぱりゆうくんは大物?
「とりあえず、学校に行けばいいのかな?」
「うん、まあそうなるかな?...ってアレ?新しい村人がいるんだけど」
ボクが目ざとく見つけたのは、なんか薄い村人。服装はボロボロで、巫女服と思しき着物も血に塗れている。しかも青い血。これ、何かしらの特殊ストーリーかなんかなのかな?
『...黒鉄の蜘蛛、名は鉄誅。左前に記しし布の前、その名を記さば蜘蛛は散る...。』
「ほぇ?どういう意味?」
『...蜘蛛の血浴びらば肉腐り、蜘蛛止めるらば朽ち果てる。記すは彼の者出ずるのみ...。』
「あ、消えた」
言いたい事だけ言って消えた巫女服の女性。それにしても、あのSF多脚機甲兵器、鉄誅って言うんだ。グレネードでも上に書いてあった体力ゲージ減らないし、アサルト撃っても数ミリ入ったかどうか位だからなあ...。元スペックがヤバいだけに、普通の手段じゃ殺せないって言う伏線をしっかり回収してくれている。
「...じゃあ、取り敢えず学校に入ればいいのかな?」
「まあ、そうなるね。ただ、学校でもあぶないかもしれないからきをつけてね?」
「勿論!...短剣と血と翼を我に...。」
「いやいや別ゲー混じってる」
因みに、ゆうくんがいま言っていた言葉は今年の8月に販売予定、『Cardinal Online』の世界に入る為の言葉の案の一つであったりする。まあ、今の所はどうなるのかは分からないけどソフトの構築が得意な葵ちゃんとかが何とかしてくれるだろうから、問題なし。...多分。
学校についた。学校はツタが張ったりしてボロボロ、結構ひどい状態になっていた。
これでもまださっきの村よりましなのだから、ここら辺の管理はどうなってるんだと言いたくなるけど、多分そう言ったところも含めての『北の廃村』フィールドなんだろう。
「おじゃましまーす...。...って誰もいないし」
入ったはいいものの、結構広い学校内で向かう先はなさそう。ということで...
「ヤダ!絶対この先なんかいるよね!?」
「大丈夫大丈夫、普通に動けば死なないしなない。ちょっとでかいのが襲ってくるだけだから」
「襲ってくるんじゃんかー!」
図書室に来ていた。木製の扉は立て付けが悪く、分岐で『蹴り壊す』と『叩いてレールに嵌める』の二種類が表示された。
「...これ、音に反応して集まってくるとかある?」
「さあ?ボクはこのルート視るのは初めてだからよくわかんないけど、多分音ならしたら内臓でろでろの大黒猫模型が追ってくると思うよ?」
「ひゅぁっ」
謎の声を上げたゆうくんだったけど、ボクがすこし頬をムニると復活した。
「じゃあ、大人しく「蹴り壊してやらぁ!」ファッ!?」
安全策と思われる『叩いてレールに嵌める』を奨めようとした瞬間、ゆうくんの手によって『蹴り壊す』が選択された。冷や冷やしながらクリックを待つと...
ばたん、と意外に小さな音がして倒れた。
「...もしかして、叩いて嵌めるルートだったらこの薄い板を突き破ってバリィッ!!って鳴ってたってこと?」
「多分ね。ふふ、流石は僕。此処まで読めるなんて、やっぱり僕は天才だなー」
否定したくても否定できるわけもなく、ボクはモニターの向こうに映る生意気な顔をしたゆうくんのライバーとしての姿を、憎らしく睨み続けた。...悔しい、なんて思ってないもんね!




