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宛先のない物語  作者: ナナイ/リル
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ナナイ 1

ナナイには、あんまり覚えていることがない。

誰かから『ナナイ』と呼ばれているのを覚えているから、ナナイはナナイって言うんだろうなって思うくらいだ。


ナナイの事を知っているのは、多分特別な誰かなんだろうと思う。

良く、空の色の人がナナイの近くに来るけどナナイって言うのしか分からなくて、口が動いているのもなんて言っているんだろう、って感じだ。


ナナイがナナイを知ってる誰かを探し始めて、ずぅっとたった。

ナナイは砂とか土とかがいっぱいあるところで良く歩いているから、同じくらいの白い子とか桃の子とかによく何か言われる。ナナイをナナイって言われるとちょっと嬉しい。


ナナイがナナイを知っている人を探し始めて、すごく時間が経った。

ナナイはボロボロで、砂まみれで、ぐちゃぐちゃで、汚れて、体中痛くて、たまに転んで、でも他にやれることが無くて。

だから、すごい音がしても暗いのに急に眩しくなっても飛ばされても何も感じない。


何も何もなにも何もなにも何もなにも何もなにも何も何もなにも何もなにも何もなにも何もなにも何もなにも何もなにも何もナニモなにも


ーーー


『ふぅー、今日も人間の動き見よーっと』

人が宇宙を観測できるようになって数百年。それでもなお観測されない豆粒の様な人の様な物体が、今日も電離圏から人を観察していた。

彼は概念的な存在であるため性別は無いのだが、この次元帯では一般的に『愚神』または『戯神』と呼ばれ男として描かれることが多いので男の形を成していた。

彼の名はロキ。少なくとも、この次元帯ではそう呼称されるものである。


彼に限らず一般的に『神』と呼称されるものには、次元帯に関わらず特定分野において自らの力...『神威』を増す。その分野に込められる感情や量が増えれば増えるほどに神威が増大するのは、全ての神において知られている事である。


そして、ロキと呼ばれる彼が司る特定分野は『行動・思考』。この世のありとあらゆるものに於いて行われるすべての行為が、彼にとっては力の源となるのである。そして特に、いまだ思考が稚拙で学習意欲の高い幼児は彼にとって最も神威を増すことのできる存在だ。彼はこっそりと生命と死を司る神に働きかけて、生命と死を増やすように促した。彼の神にも生命と死は神威を増すものであったため、生命と死の神は双方を増やすために技術の神に働きかけた。


技術の神はロキの司る行動思考とはやや違うものの、何かを創造すると言う行為は彼の神威を増すことにつながる。生命すらもその枠組みであるため、彼の神は勇んで人に身をやつした。

火、金属、武器、電気、兵器。彼が生み出していったものは、3神の神威をすべからく増した。...だが。


相次ぐ争い。さらなる技術革新。繰り返される人の策謀。神々が想像するよりももっと恐ろしく浅ましい行いが続いた。それでも神は、自らの神威を増すために過ちを繰り返した。そして、そんな時だった。ロキが、「この話を降ろさせてほしい」と言ったのは。


「これ以上進むようなら、彼等は神をも殺すようになる。そうすれば世界の均衡は崩れ、神という存在すらなくなる。巻き込まれないために、ぼくはここ等で降りさせてもらうね」

「許されると言うのか、そのような行いが?」

「ああ、許されるさ。まあ、滅びたいなら勝手に滅んでればいい。ぼくはそんなの御免だからね。それに...すべては、何かを行って生き、考えることによって何かが生まれる。ぼくがいなくなればこの計画は全て破綻するよ。それでもなお続けると言うなら...まあ、その時は知らないさ」

そう言って、彼は話を降りた。


その後、彼は自らに代わってロキと同じ権能を持つ神を生み出したようだが...遠くから観察していて分かっている通りに、そして彼が忠告した様にかの神々は滅びた。自らが破滅へと導いて。ロキは、滅び行く次元の中にいる全ての者の怒りも絶望も、一部歪んだものの喜びでさえ等しく神威へと変換した。神々が消えたことによって、残ったロキに全ての権能が譲渡され...そして、彼は自らが次元帯の中心となって次元の『特異点』へと成った。


だが、結局やることがないと言うのは人でいう所のニート...言い方を良くすれば自宅警護者と全く変わらない。ニートの方々はインターネットという技術の神によってもたらされた物があるが、ロキにはそう言ったものは存在しない。せいぜいが、人を観察する程度であった。...そう、あった・・・


いつもと変わらず人間の観察を行っていたロキは、不自然なものを見つけた。ロキが生み出した世界においてすべての生物は、幼き頃に知識を得て成熟しかけのころに何かを慕い、成熟しては醜く自らが生み出したもののリソースを取り合うと言う摂理において動くのだが、その存在...恐らく人であるそれは、知識を殆ど得ていなかった。人の基準で言うならば、3歳程度の理解能力である。しかも、それは吸収能力が著しく低い状態でまるで今の自分を見ているかのような錯覚にすら陥ってしまっていた。


或る日、今日も今日とてロキがその少年...自らを『ナナイ』と呼称するその人物の行動を観察していると、自らではない神の影響を受けたのか意識が朦朧としていた。しかし、ロキのいる場所からではあまりにも遠すぎる。人が生み出した車に轢かれ、彼の内腑は骨に貫かれて生命活動に必要な酸素は得られず、血を流して少しづつ死にゆくだけの存在。いや、生命活動そのものは当の昔に停止していた。


だがロキは、本来なら生命活動が停止した瞬間から、いや、脳に酸素が行き届かなくなる瞬間から薄れていくはずの魂の輝き...知識と思考の結晶体がその少年から一切薄れていないことに気付いてしまった。自らの行いと反するその輝きが欲しい、そんな自らの想いすらも神威へと変化してしまうロキはもはや魂のみとなっているナナイを換び出した。


ーーー


ナナイが目を開けると、そこは真っ白い所だった。

『     』

何かを言っているのが聞こえてそっちを見ると、いろんな色の人がいた。ナナイが知らない色もいっぱいあった。更に何かを言ったけど、何を言っているのか分からない。すると、頭の中に何かが聞こえた。


〈あー、えっと。口が動いていると思うけど、聞こえていないなら指を一つ上げて。分かっているなら、じぶんの名前を言ってね〉

勿論分からない。指を一つ上げた。


『...ん-と、多分これで聞こえるようになったかな?聞こえているなら、何ですか?って言ってくれよ』

今回は聞こえた。ナナイは、「なんですか?」と言ってみた。


『名前を教えてくれるかな?名前が分からないと、できることもできないからさ』

名前を聞かれたので、ナナイは迷いなく「ナナイ!」と答えた。だって、ナナイはナナイだもの。


『ナナイ、か...。ナナイは、なにかしたいこととかあるのかな?』

ナナイがしたいこと...あ。

「ナナイの本当の名前が知りたい!」


『...そっか。じゃあ、VTuberっていうのになればいいと思うよ。一番最初にそれになれれば、きっとたくさんの人が見てくれるから』

「ほんと!?なる!...あ、でもどうやってなるんだろ...。ナナイ、色ぐらいしかわかんないよ...。」


ナナイを見て、色々な色の人は驚いていた。

『...マジ?ちょっとそれは僕にも想定外だな...。あ、僕が教育すればいいか』

きょーいく?


『...じゃあ、改めて。僕はロキだ。君の記憶力は正直すごく悪いから、新しい肉体を構築させてもらうけどいいかな?』

「...?うん。ナナイがナナイだって分かるならいいよ」

こうして、ナナイはVTuberとしての第一歩を歩き始めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 本当に最近V系ハマってるよな、貴様は。……俺のせいじゃないよな?
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