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4-6.礼羅


「……貴方性格悪いわね」


 取り繕っていたのに素の感情が剥き出しになる。


「帝からは許可は得ているよ」


 だからと言って私が下女として勤めていた屋敷の家主を私の前に出さないで欲しい。

 気分が悪い。


「死罪になるほどなんて何をなさったのです……?」

「この者の罪を告げ口したのは君じゃないか。調べたら下人だけでなく女房も殺めてしまっていたそうだ。都の瘴気はこの者が殺めた者らの恨みが遺体から漏れ出たものだった」


 此の者は折檻を通り越して人を殺めていたのか。

 先ほどから聞こえてくる呻き声を上げていたのは此の者だった。私が最後に会った時は人としての理性はあった。それでも癇癪はあったから物音ひとつでも立てたらすぐに殴られたけど。


「……でも牢に入れられて気が狂ったにしては様子がおかしいですわね」


 縄で口が塞がれているのに唸り声を上げて涎を垂らしている。髪も乱れ、額からは血が流れているが縄で体を縛り付ける前は壁とかに頭突きしたのではないだろうか。

 食べ物を与えられていないのかでっぷりと太っていた身体も今では若干痩せている。


 晴明は竹筒を取り出すと格子の隙間から手を出してはその者に向かって竹筒の中身をかけると、じゅうぅと焼けた石にかけた水のように消えてしまった。


「このように、陽光お手製の聖水でも駄目だ。君もかけられたことがあるだろう?」


 あれただの潔斎の水じゃなかったのか。


「その水を確認してもよろしくて?」

「ほれ」


 晴明は竹筒を私に寄越す。振ればちゃぽちゃぽと音が鳴る。半分くらい残ってるようだ。

 確かにこれは悪魔には効くだろう。竹筒越しでも魔力がじわじわと抜けていくのだ。


「なんてもの作ってるのよ……」

「術師でなくても潔斎が出来ると好評だよ。神祇官府は仕事が減ると一部からは不評だけど」


 それは聞いてない。竹筒を晴明に返す。

 確かにこの水は以前私が立てなくなるくらいには強力なものだった。だけど魔力も穢れに入るなら陽光も魔力が減ってしまわないだろうか。


「ちなみに外側が無理なら内側と思い、無理矢理飲ませたんだけど、こんなものが吐かれた」


 そう言って懐から取り出したのは白い小さな石のようなものだった。よく吐き戻したものを拾えたものだ。


「これは……?」

「人の骨だろう。下人を喰らっていたかもしれないね」

「……私を更に怒らせたいの?」


 睨んでも相手は何処吹く風だ。


「これを人型に見立てて呪力を打っても本人の肉体に効果があったからまだ胃の中には残っているかもしれない」


 本人なりに色々試したようだがそれはその骨の主も痛めつけているようで気分が良くない。


「牢の中に入ってもよろしくて?」

「自分の身を守れるならどうぞ」


 私は(かんぬき)を外して牢屋に入った。するとすぐに相手は私に気付いたのか吠えかかるが縛られているので来ることはない。牢屋にも結界が張られていたようだ。


「お久しゅう御座います。御館様」


 扇を仕舞い、挨拶をしてみてもやはり気付かない。さっさと確認だけしておこう。

 相手の頭に手を当てて(タオ)の流れを確認する。

 だけど妖力を流した途端、妖力ではなく魔力が一気に吸い込まれてしまい私は瞬時に手を離した。


「……」

「どうだい?」


 悪魔はこの国で私しかいないと思っていたけれど、悪魔憑きは複数いるらしい。

 それを祓える相手はこの国ではおそらく一人しかいない。


「陽光を呼んで。これは彼でないと無理よ」

「陽光か。参ったな。彼は今休暇中だ。しかも陛下は初めは七日だったのを十四日に延ばした」


 かなり長い休みだ。ここまで長いと怠け者になりそう。


「ならこの者を封じてください。陽光の休暇が明けたら解けばいいでしょう」


 晴明は少し考える素振りをする。何に悩んでいるのか。


「君にはできないのかい?」

「私がこれをどうにかする場合、殺すことしかできません。だけど貴方は極力殺したくないのでしょう?」

「なぜそう思ったのかな?」


 途端に晴明の目が細くなる。式神越しでもそんな顔をして私のことをじろじろと見ていたのだろうか。


「本来の貴方ならこの者の命を切り捨てることを選ぶでしょう。それをしないのは大方、帝から殺すなと言われたからですか?」

「……大体合ってる。しかし正確に言うなら祓う方法はあるんだ。ただそれは私には使えない方法だっただけだ。その方法が君も使えるならと思ったんだけど無理そうだね」


 天下の安倍晴明もお手上げか。


「わざと相手の身体に私の妖力を流して反発しないか試しましたが、向こうが私の妖力ではなく魔力を吸い取りました。

 妖はその在り方によって依存しますが、西洋の悪魔は総じて他者の魔力に依存しなければ現世での現界はできませんから」

「ほう。通りで力が弾かれるわけだ」


 晴明も似たようなことをして失敗したらしい。


「なら何故、彼が適正だと思った?」

「陽光は私を悪魔として祓う力があります」

「……なるほど」


 晴明は懐から竹筒を四本取り出す。そんなに抱えていたのか。


「せめて今は胃の中のものは吐き出させよう。効果はあるかもしれない」

「わかりました」


 だけどそれを全て私に任せられるとは思わなかった。


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