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4-4.礼羅


 私が目を覚ましてから三日後。安倍晴明の屋敷に来て六日目のこと。

 陽光と同様に私は安倍晴明の屋敷で物忌という名の軟禁を受けていたはずの私は牛車の中でゆらゆらと乗せられていた。


「それで、わざわざ北の方に化けてまで私を連れ出した理由を教えてくれるんでしょうね?」

「いやぁさすが我が()()の目は鋭い」


 私は北の方に呼ばれて部屋の外に出た。名目は私の衣装合わせだったけど、女房らの手によって裾を上げた萌黄色の壺装束(つぼしょうぞく)の格好をさせられたと思ったら外に連れ出されたのだ。

 椿さんは頷くだけであっさりと私を御簾の向こう側に出したし、周りも北の方の振る舞いに疑うことは無かったのに。


「あなた、安倍晴明でしょ。あんな結界から私を出せる人は結界を張った本人しか居ないもの」


 昨晩、陽光と月見をした後屋敷の敷地から出られないか試みた。

 そしたら椿さんの結界よりも頑丈な結界で行く手を阻まれたのだ。少し穴を開けようとしたら察した陽光に全力で止められたけど。


「ご名答。さすが椿に気付かれずに結界を無効化しただけのことはある」

「あんな頑丈なモノを作っておいてよくおっしゃりますこと」

「椿の結界は特殊だ。隠したり誤魔化すことに長けている。でも隠すことに長けすぎて脆い」


 遠回しに椿さんのことを侮辱してるように聞こえる。


「君が昨晩西の対を抜け出して陽光と逢瀬していたことは知ってるよ。人の目は誤魔化せても月の光まで誤魔化すことは出来ないからね」


 口角を上げているけど目は笑ってない。にしても逢瀬なんて。


「陽光の式神の気配がしたからいるんじゃないかって思って探していただけよ」


 それに逢瀬じゃないと釘を刺す。あくまで陽光とは主従だ。

 どちらかの恋人の家に夜這いすることは平民も貴族もよくあることだとお婆が言っていたけど、そう見えるのだろうか。

 「初だねぇ」と北の方の顔でそんな狐のような糸目されると気持ち悪い。


「もうその化け術をさっさと解いてくださらない?北の方の顔でそんな態度を取られたら背中がぞわぞわするのです」

「どうして皆似たようなことを言うんだろうね?妻のことはよく見てるつもりなんだけど」


 見ていたとしても演技が再現出来なければ意味が無い。

 相手は擬態を解くと、服装は淡い()色の狩衣に変わり顔立ちも男らしくなる。それと同時に金色の瞳に頭からは白い耳、背中からは四本の尾が出てきた。

 四尾の狐。お婆が言っていたのは本当だった。


「……同胞って言った理由はそういうこと」

「この姿では初めまして。私は安倍晴明。陰陽寮では天文博士の役を任されている。陽光にとっては天文学や呪術の師であり、陰陽寮での後ろ盾かな」


 陰陽寮の長ではないのか。陰陽頭も半妖なのだろうか。それともお婆が謝って認識していたのか。

 自己紹介をすると晴明の狐の耳と尻尾は消え、瞳も黒くなった。私は今まで擬態で瞳の色を変えるなんて考えたことはなかったから少し驚く。

 にしても顔は……北の方より少し若く見える気がする。半妖だからそうなってもおかしくないのだろう。


「礼羅よ……半妖らしいけど半魔の方がしっくりくるわ」

「陽光からは聞いてるよ。天竺よりも西の魔物の血が混じっているとか」

「……」


 なんだろう、この観察しているような視線は。


「いやぁ、改めて見ると君も似た気配を感じるね。でも君のは元からか」

「そろそろ私を何処に連れて行くのか教えてくださらない?」

「君私に対して早々に当たり強くない?これでも君の主の師匠だよ?」


 尻尾の数もあって私より圧倒的に強いのは明らかだけど、尊敬したいとは思えない。

 なんていうか、こう、楽しそうに遊女に化けた時の話をする時のお婆に似ている。


 そんな晴明は持っていた扇子をひらりと仰ぐとポンと煙と共に私の膝に扇と透ける麻布の付いた笠を出した。

 こんな大きいものを仕舞うなんて結界術の応用だろうか。それとも妖術か。


「これから行くのは西獄だ。右京にあるから右獄とも呼ばれる。罪人を閉じ込める牢屋だよ」

「とうとう私を検非違使に引き渡すのかしら?」

「正直、君を貴人への不敬で引き渡しても良いんだけどねえ、その前に試してもらいたいことがある。

 外ではその笠で顔を隠すといい。もちろん耳と尻尾もね。一部の検非違使は君の顔を知ってるだろう」


 その扇は開くと梅の花が広がっていた。少しあおげばふわりと梅の香りもする。北の方の扇だ。


「妻はいつも自分の女房に梅の扇を下げ渡す。君は最近入った梅の君の女房として振る舞いなさい」

「……その見返りは?」

「陽光に頼むといい」


 こいつなんて狐だ。


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