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19-1.礼羅


「悪い。お前の面を忘れた」


 牛車に乗り、二日ぶりに顔を合わせた(それでも黒い覆面はしているのだけれど)陽光の第一声はそれだった。

 陽光も深紫の直衣が少々濡れている。晴明と二人そろって濡れてきたらしい。


「こちらに半分の面がありますから問題ありません」


 その場にいるのは晴明だけなのにお互い他人行儀になってしまう。


「なんで二人はよくもまあそう喧嘩するのかな?」

「喧嘩してません」

「晴明には関係ないわよ」


 私と陽光で声が被る。はたと互いに目が合いすぐに目をそらすとぐらりと揺れる。牛車が動き出した。


「まあ僕はどうでもいいけど、陽光は大丈夫かな。かつては宿下がり先だったとはいえ、行先は橘邸だ。右大臣が来てもおかしくない」


 晴明は気にかけるような素振りを見せるが顔はそうには見えなかった。


「別に、俺はどうもしませんよ。礼羅に直接文を投げたんだ、俺はおまけよろしく車宿で待ってる」

「陽光」


 また消極的になる陽光を咎める。招待されてないとはいえ、皇子(みこ)を牛車で放置させる家主がどこにいるのか。

 晴明も「流石に君を持て成さないことはないだろう?」と同様に呆れた顔をする。


「まさか」


 大内裏の横を通り、雨で人気のない道をがらがらと音を立てながら進んでいた。

 雨避けの傘を被った牛飼を小窓の御簾越しに眺めながら私は懐から完成している式札を陽光に渡す。


「陽光。とりあえずこれだけは渡しておくわ。私の妖力でも呪力にできるなんて知らなかった。まだ半分にも満たないけれど使えるんでしょう?」


 私が都に来てからというもの似たり寄ったりな出来事が多い。陽光も式札ありきの技が多いから持たせるに越したことはない。


「……ありがとう」


 陽光は式札を確認し、印を結ぶと複数の濁った水晶の色をした小さな玉に変わる。それらを腕にある白銀色の十字架が通してある紐に数珠に通していく。そうやってその数珠が作られていたことに驚いた。


「もし貴方が追い出されても私がいるもの。念話で伝えることは出来るわ」


 もしそうでなくても晴明が先に霧の宮の容体の原因が呪いであるならすぐに察することが出来るだろうが。


「確かに、私では霧の宮の容態を見ることは出来ないだろうね」

「それはなぜ」

「一術師である僕が内親王のお体を見ることは出来ないだろう。帝が私を寄こしたのは雨避けの儀を行う内親王が霧の宮だからだよ。私がするのはあくまで祈祷だけだ」


 一瞬陽光が目を見張るが晴明が一瞬その糸目を歪ませたのが見えたがどういうことだろう。


「まぁ、そういうことだから夜半の君が見たものを客観的に捉えてそれを陽光に伝えることだね。君らは視界の共有までは出来ていないようだし」


 じっと扇越しに陽光を覗く。陽光はすいっと視線を逸らした。


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