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8話 枯れない薔薇

「ソミア」

「……人に、よるかと」

「まーそうなんだけどね」


 先を促される。仕方ない。


「花や茶葉が当たり障りなくてよろしいのではないでしょうか」

「まーそーだよねー」


 なら先に言えばいいのに。敢えて私にきいたのね。


「ユラレ伯爵令嬢は好きな茶葉ありますか?」

「なさそうだな。食事は栄養補給程度にしか考えていないようだった」

「ということは花もかあ」

「食べ物より好きそうではある」

「それなら花が」

「しかし、あまり日が持たないのも困る」


 そしたら生花はだめか。叙任式の日取りを把握してても、そこからどの程度王国に滞在して騎士学院に戻るかは分からない。

 花は切ってしまうとどうしても短い期間で枯れてしまう。かといって鉢植えのものを贈り物にするのも仰々しい。騎士学院に持っていく間、ユラレ伯爵令嬢が戻るまでの間、花がそのまま綺麗に咲いていれば初めての贈り物としては丁度良さそうだけど。


「……枯れなければいいのに」

「ん?」

「あ……失礼しました」


 心の声が出てた。丁寧な言葉すらない。

 見ると気にしていない第二皇子と瞠目した殿下がこちらを見ていた。殿下の瞳が輝く。驚きの中に喜びが見えた。


「それだよ、ソミア」

「え?」

「シレ?」

「枯れない花! 僕が魔法を使えば枯れない花を作れます」


 殿下は元々魔法の才があり、普段の教育の時間でも学んでいる。その中で生花をそのままの状態で保存できるものがあるようだった。


「ならまず花を用意しましょう?」


 殿下の専用の庭に出る。種類も多く時間をかけて選べるし、下手にどこかの花屋を介すことで第三者に知られて噂になることもない。私たちだけの中で済む。皇子のお相手の話は政治が絡むからあまり大事にしない方がいいだろう。


「立派だな」

「今は庭師とソミアが世話してくれてるんです」

「君はなんでもできるんだな」


 何気なく私の名前を出してくるけど庭いじりは仕事としてやっていない。けどここは黙っていようと何も言わずに庭の花々を目の前にする。


「贈ってはいけない花はあるのだろうか?」


 ついには第二皇子が私に質問してきた。悩み相談が始まった時から思っていたけど本当この二人は皇族なのに変わっている。私は下働きで二人は皇族なのに。気軽に話す立場じゃない。


「ソミア」


 殿下が促す。もうここまできたら仕方ない。三人しかいないと自分に言い聞かせて話をすることにした。


「……ありますが、今ここに見える範囲で注意すべき花はありません」

「成程」

「第二皇子殿下の好みになるかと。後、差し出がましいようですが……」

「?」

「花によっては結婚を申し込む、愛を告白する意味のものも御座います」


 ユラレ伯爵令嬢が花言葉に興味があるか分からない。けど始めての贈り物で結婚してくださいの意味合いのある花を贈るのは早すぎると思った。せめて告白からだろう。


「えー逆にそっちがいいんじゃない?」

「殿下……」

「愛を直接伝えてない兄上には丁度いいと思います」


 第二皇子を見ると顎に手を当て考えている。そして真剣に応えてきた。


「多少は込めてもいいだろう」


 いいんだ。ユラレ伯爵令嬢が知っているかは分からないけど、反応を見て今後のアプローチを考える方向になった。考えているのかそうでないのかよく分からない。


「では、過度なものはお声がけします」

「頼む」


 そして花々を物色して決めたのは王道の薔薇だった。しかも赤。

 どうやらユラレ伯爵令嬢は華やかな印象があるらしく似合うだろうとのことだった。


「本数によって意味が変わります」

「そうなのか」


 説明をすると再び悩む。さすがに百を越えたところを選ばないとは思うけど。


「十一本にしよう」


 中々攻めてくる。


「兄上、別で一つ髪飾りに加工しましょうよ」


 殿下も攻めてきた。十一本でも十二本でも、どちらの意味でとっても愛を語っている。


「成程……そうしよう」


 第二皇子の選んだ薔薇は私が刈った。そして殿下の私室に戻りすぐさま魔法をかける。

 テーブルの上に薔薇を起き、殿下が軽く手を翳した。小さく何かを囁くと薔薇を囲むように淡く光り、薔薇に光が馴染んで消えていく。


「出来ましたよ、兄上」

「……触り心地は生花と変わらないな」

「ええ」


 殿下が一つ薔薇を差し出した。


「ねえソミア、これ髪飾りに加工できる?」


 実家で内職がてら似たようなものを扱ったことがあるからできなくはないけど、下働きがするのではなくきちんとした職人がやるべきでは、と思いはたと気づく。

 皇子の色恋はあまり多くに知られてはいけない。となるとこの中では私しか担える人間がいないことになる。


「……畏まりました」

「時間がかかるか?」

「いえ、ユラレ伯爵令嬢の叙任式までには」

「ありがとう」

「勿体ない御言葉」

「ソーミーアー」

「殿下?」


 もーと軽い調子で咎められる。


「今は僕たち身分関係なくでいいじゃん」


 友だち的な、と笑う。殿下のこういう言葉はいつものことだ。なにかと理由をつけてこちら側に踏み込んでくる。


「殿下、」

「いいな」

「兄上!」


 なんと第二皇子が殿下に味方した。どうして? 兄として注意すべきところではないの?


「俺にとっては君は先生になるが」

「先生?」

「これからユツィに贈る花の指導を賜りたい」


 やめて。

 ああ、けどユラレ伯爵令嬢のことを想って瞳を輝かせる第二皇子の恋の応援はしたい。


「ソミア、お願い」

「俺からも今後ともお願いしたい」


 逃れられなかった。


「……分かりました」


 二人の殿下と侍女の私。対等にはなれないけど、少しばかり砕けた関係になるきっかけだった。

薔薇の花言葉は前回外伝をご覧下さい。

そしてお願いするふりしてさりげなく一輪の薔薇をソミアに渡すシレ。疑似贈り物を体現(落ち着け)。薔薇一輪の意味を御存知でウマー(´ρ`)

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