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おまけ2 新しい場所

「ソミア!」

「はい」


 喜びと不安を織り混ぜながら駆け寄ってくる殿下は焦っていた。逃げることもないのだから焦る必要はないのに。

 ベッドで横になる私の頬を撫で「大丈夫?」と問う殿下に頷き、大きな掌のあたたかさに心地よくなる。その手に顔を預けると殿下が満足そうに目を細めた。


「もう気が気じゃなかった」

「大げさです」

「そんなことないよ。ソミア命がけでしょ」


 相変わらずなんだからと思いながらベッド側に視線を寄越す。殿下が察して少しだけ身体をかたくした。緊張しているのね。


「見てあげてください」

「……うん」


 ベッド側の小さなゆりかごに殿下にが身体を向ける。今は二人仲良く寝入っていた。


「うわ、小さい」

「ええ」

「わ、すごい」


 こちらに顔を向け「すごいね、ソミア」と何度も同じことを言う。その緩んだ顔にこちらまで緩んでしまい、二人きりでよかったと心底思った。


「一人でも大変なのに二人も産むなんてすごいよ」


 殿下と結婚し、晴れて子供も生まれた。双子の男の子だ。世継ぎが必要だという圧力はまったくなく、暫く子供も作らずのんびりすることができた。


「皆さんのおかげで、安心して臨めました」

「よかった」


 殿下は子供はいなくても構わないとまで言ってくれたし、私が王妃という立場や仕事に慣れて自信がつくまで待ってくれた。

 いざ子供ができたとなった時も殿下を筆頭に周囲には気を遣ってもらい甘え倒しの日々。本当至れり尽くせりですごしてたと思う。


「ソミア、体調は?」

「問題ありません」

「本当?」

「ええ」


 ゆりかごから離れて再び私の隣に戻る。用意されていた椅子に座り、お茶を手ずから淹れてくれた。この人は一緒になってからも私を甘やかし続けている。


「発表されないんですか?」

「んー、ソミアの体調整ってからがいいかなって」


 この国を継ぐ皇太子の元に子が産まれたのなら祝い事として大きく公表するはず。なのに殿下は歯切れが悪い。


「……その、ソミアと産まれてきた子の四人だけの時間が欲しかったんだよ」

「というと?」


 もー、と殿下が少し肩を落とす。少し呆れたようにも見えた。


「ソミアと子供を独占したかったの!」

「ですが、公表されても御披露目までは当分先なのでは?」

「そうじゃないんだよ~! 内緒の時間がほしいわけ!」

「はあ」


 わからない。あの庭で二人すごす時間と同じで、特別な時間がほしいということかしら。


「僕とソミアの二人だけの場所はフラワーガーデンでしょ? 子供ができた時の家族だけの場所が欲しくて。せめて今だけでもと思ったんだよ」

「なら新しく別の庭を作りましょう」

「え?」


 私と殿下と子供たちだけの庭。

 私と殿下が親としていられる場所。

 私と殿下だけのフラワーガーデンは二人だけの場所にしたいから新しく作る選択肢しかなかった。

 きっと殿下も私も人目があれば公の、皇子と皇子妃としての顔を続けるだろう。どこかで家族としてすごすならそういう場所を作った方が早い。


「お時間頂ければ私が作ります」


 庭師のオールトスから助言や指導がないと難しいかもしれないけど、庭いじりは好きだからやれるはずだ。意気込んでいると殿下が目を開いている。そして力なくベッドに突っ伏してしまった。


「殿下?」

「二人きりの時は」

「シレ」


 この人はどんな時でも二人きりの時に名前で呼ぶよう言ってくる。だいぶ名前で呼ぶようになったと思うんけど、うっかり殿下と口にすると訂正が入るこだわりようだ。

 体調を気遣うと大丈夫と返ってきた。これは本当に問題ないやつね。


「あー……ソミアって本当すごい」

「?」

「僕を喜ばせることしかしてない」

「それは……ありがとうございます」


 結婚も出産も。

 そして先程の庭のことも。


「それはこっちの台詞……ねえ、ソミア。一緒に作ろうか」

「なにをですか?」

「家族で過ごす庭。一緒に作ろ?」

「ええ、構いません」


 緩んで微笑んでいた所に殿下が素早く乗り出してきた。

 避ける間もなく唇を奪われる。


「っ!!」

「もーソミア好き。本当好き」

「だからって、こんな急に!」

「ふふ、いいじゃん」


 それにソミア真っ赤と笑みを深くされ恥ずかしさに視線を彷徨わせた。覚悟の上でしようが油断したとこをされようが結局顔は赤くなる。けど、それとこれとは別問題だ。


「もう」

「僕の愛、ちゃんと伝わってる?」

「充分すぎます」

「えへへ」


 その後もやたら髪や顔に触れたりしてきたけど、私の顔は耐えられただろうか。この人は本当私に甘い。

 私が言葉では嗜め遠慮しても、私自身が本当に求めていることをよく分かっていて、その上で行動してくる。


「そうそう、ヴォックス兄上のとこも来月だってさ」

「まあ」


 あちらは三人目だったか。四人目も欲しいと聞いたかしら。


「産まれたらお祝いの品を贈らないと」

「そうだね」


 でもまずはソミアの体調が一番だからね! と念を押される。心配性も出会った頃から全然変わらない。


「シレは子供多い方がいいですか?」

「僕はどちらでも。ソミア似の女の子がほしいなあなんて思うこともあるけど」

「けど?」


 ソミアの身体が一番大事と静かに囁く。


「僕の想像できないぐらい出産って大変でしょ? だからソミアの身体を一番に考えたい」


 遠慮しているのね。私の身体を一番心配してくれているのは本当の気持ちだろうけど。


「シレ」

「うん」

「三人目ほしいです」

「え」

「私も女の子、いいなと思っています」

「ソミア……」

「なので、その」


 最後まで言わせないでよとばかりに濁したけど殿下は理解したらしい。珍しく顔を赤くしていた。


「もー! ソミアのバカ! 好き!」


 なんで馬鹿呼ばわりされるの。

 納得いかないとじっと視線で訴えたら、崩れ切った笑顔を向けられる。


「僕、今すっごく我慢してるんだからね?」

「はあ……」

「でも無理。キスぐらいはさせて」


 私の頬を殿下の手が包み込む。

 そっと瞳を閉じると殿下が喉の奥を鳴らして笑ったのが分かった。


 そして私達の元に双子の女の子が産まれてくるまで時間はかからなかった。

本編でクラスが知らなかったのはこうして公表してなかったからです。子供生まれENDは旦那様以来かな?


さてさて、これにて完全完結です!

最後までお付き合い頂き本当にありがとうございました!

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