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37話 一緒に寝るでしょ

 殿下の気遣いなのか、あちらの気遣いなのか、国王への面会はティータイムとなった。メイン晩餐は明日らしい。今日の夜は国の宰相である重要人物、マーロン侯爵邸へ呼ばれた。

 ここでも気遣い頂いて食事量が明らかに少なくされている。こうした会食では迎える側の体裁があるから豪華にするのが常だ。それを敢えて質素にしてくれたのは殿下が予め申し出たのか私のお腹事情を鑑みてくれているとしか思えない。


「ソミア様はこちらの言語にも堪能なんですね。驚きました」

「そんな……日常会話程度しかできませんし」


 実家領地に来た他国の商人が暫く滞在してた時に教えてもらった程度だ。加えて家にある他国の言語に関する本ぐらいでしか学んでいない。最低限だけだ。

 ちらりと様子を窺うと、殿下がにこにこした。大丈夫そうだ、よしとしよう。


「ソミア様、日常会話でもここまで堪能な方は中々いらっしゃいませんよ」

「侯爵夫人……」

「もしや他の言語も?」

「ええ……」

「まあどちらの国の?」


 大陸は帝国の影響でほぼ統一言語になっているけど、武力併合を免れた大陸の端側は独自の文化を残しているし、併合されても母国語が残っている国もある。同じ大陸圏内だからか言語も似たような部分があり覚えやすかった。南の連合国と合わせれば今分かる言語は五つというところだろう。


「素晴らしいわ! わたくしも見習わないと」

「そんな」

「ソミア、すごいでしょう」

「殿下!」


 うちの子できるんですよみたいな自慢はやめてほしい。幸い侯爵夫妻は気にしてなく微笑ましい場になっているのが幸いだった。


* * *


「殿下、自慢話に伺ったわけではないんです」

「えー? ソミアすごいんだからいいじゃない」


 侯爵夫妻の元を去り、滞在先の上等な宿泊地へ戻る。とは言っても王国城内の賓客用の別棟だ。周囲に聞かれない程度の音量にしないと。

 互いにリラックスできる室内服に着替えているけど本来はこの姿で殿下に会わない方がいいのは分かっていた。段々緩んできてる。よくないわね。


「すごいなんて」

「すごいことだよ? 僕は家庭教師をつけて学んだけど、ソミアは教育の場がなかったんだから」


 殿下の元に来る前に学んだことだ。あくまで触りだけで浅いものなのに。


「まあ僕の勉強聞いてたとは思うけど」

「それは……」


 近くにいられるのをいいことに聞き耳立てて一緒に勉強してました、なんて許されることではない。殿下が何も言わなかったから甘えていた。殿下が学んでいる内容が興味深かったのが悪い、なんて言えない。盗み聞きして勉強だなんてお行儀悪いにもほどがある。


「気にしないでいいよ。丁度いいし」

「丁度いいとは?」

「今、役に立ってる」


 歴史から政治経済は連合国家の内容についての把握になる。言語はこうして現場で話す時に役に立つ。この外遊の場で失礼にあたらないから許してもらえたというところだろう。


「上々な反応だったし、今日のマーロン侯爵夫妻の会食大成功だよ」

「あんなにも御気遣い頂いたのに私は何も……」

「できてるでしょ」


 喜ばれてるんだからいいんだよ、と眉を下げて微笑む。困らせてしまったかしら。


「……はい」


 私が肯定の返事をしたら少し目を丸くした。


「ふふ、素直に頷くソミア可愛い」

「殿下!」


 事あるごとに可愛いと言われるのはやめてほしい。いつも通りの顔が崩れかねないもの。


「明日も早いから寝ようか」


 明日は国王への面会と本当の視察が入っている。他国の人間も受け入れる大規模な収容所へマーロン侯爵と共に伺う。第一皇子が福祉活動に従事している本拠だ。


「殿下は大丈夫ですか?」

「うん。ソミアがいるから」

「私はなにも」

「だめそうになったら側にいて支えてね」


 そんな風に言われると断れない。


「はい」


 私が頷くと殿下が嬉しそうに笑う。いくら覚悟してても耐え難いこともあるだろう。


「じゃ寝よ」

「はい。では失礼を」

「なに言ってるの?」

「え?」


 立ち上がり去ろうとする手をとられる。

 引き留められる理由がないので首を傾げると殿下が眉を八の字にした。困っている。


「ソミアは僕と一緒に寝るでしょ」


 とんでもないことを言ってきた。


「何を仰っているのです」

「そういう体で案内されたはずなんだけど」


 確かに案内された賓客用の部屋は明らかに夫婦用だと分かる。けど結婚してないからか配慮もあった。


「別室があります」

「あるけどさあ」


 手を離してくれない。どうしても近くで寝て欲しいということなら最悪ソファで寝る形か寝ずの番をするかだろうか。そうすれば護衛は兼ねられる。


「分かってないなあ」

「殿下」


 殿下が立ち上がる。と、同時に浮遊感が襲った。


「よっと」

「殿下!」


 またしてもやられた。抱き抱えあげられ、そのままベッドへ連れ込まれる。


「お止めください」

「嫌だよ」


 優しくベッドに置かれ、そのまま隣に潜り込む殿下。

 ベッドから降りようと動くと腕を掴まれ引き寄せられる。


「殿下!」

「残念、逃がさないもんね」


 子供みたいなこと言って。

 かたく抱き締められて逃げられない。ここにきてなんてことを。


「醜聞になります」

「そんなことにはならないよー」

「自覚をお持ちください!」


 もがいてもびくともしない。

 暫く抵抗を続けた後、諦めることになった。


「ふふ」

「……もう知りません」

「ふふふふ」


 そうして結局寝てしまう私も相当危機感がないと思う。本来なら絶対あってはならないことだもの。私がたとえ殿下とそういう仲であっても今この時に一緒に寝るなんて選択はない。

 もう本当頭が痛い思いだ。殿下のばか。

本当に外遊しにきてないよね!ぶっちゃけシレは一緒に寝てることが明るみになってソミアが逃げられなくなればいいのにぐらいに思ってる。結構ひどい男ですよ(笑)。

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