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34話 外遊

 殿下が外遊を始める。


「うん、いいね」

「殿下、この格好は」

「すごく似合ってるよ」

「そうではなく……」


 随行するとはきいていたものの、本当に令嬢の格好をしていくとは思わなかった。侍女レベルのものではない。そこそこの爵位のある人間が着てもおかしくないものだった。


「ソミアは気軽に旅行に行くぐらいに思ってていいんだよ?」

「そんなわけにはいきません」

「思い出作りに出かけるとか」

「ますますそんなわけにはいきません」


 この外遊は国家連合設立にあたり各国との友好を示す。現皇帝の宥和政策ゆうわせいさくを表に出し、後継者は殿下であると対外的に見せていくと共に、ここでの功績を元に殿下は筆頭宰相になる予定だ。つまり失敗は許されない。


「じゃあ逢引だと思って」

「論点が違います」

「ちぇー」


 私を連れて行くことが揺るがない。側付きとしてではなくパートナーとして連れて行くこともだ。


「んー、ネックレス変えようか?」


 もう少し大きな宝石がいいんじゃないと言い出すので止めた。手伝ってくれたメルがまだ側にいて新たな箱を用意しようとするのを目だけでお断りする。メルはとても楽しそうに笑った。

 なんで私の味方になってくれないの。助けての視線も無視される。


「うふふ、叫びたい」

「メルやめて」

「だってソミア可愛いんだもの」

「うん、可愛いよね~」


 ねーと喜びあってる場合じゃない。なんなのこの二人。三人して昔馴染みだからってここまで砕ける必要もないと思う。


「でもよかった。ソミアのこと心配だったのよ」


 メルがこう言うのは、数年後彼女がここを出ていくからだ。アチェンディーテ公爵に引き抜かれるらしい。公爵の新しく建てる屋敷の侍女をするとか。建築に至ってないからまだまだ先になりそうだけど、その先の、私のことを気にかけてくれている。優しい。


「僕がいるから大丈夫」

「(´ρ`)」

「え、なに今の。どういう意味?」

「え~教えな~い。あ、縦書きなら: F」

「ええ……」


 サクに教えてもらったのよと笑うメルの謎の台詞が気になるところだけど追及しても仕方なさそう。

 今後自分が仕える相手を愛称呼びなのもいっそ聞かなかったことにしておこう。


「ほらほらいっておいで。こっちはうまくやっておくから」

「……」


 第一皇太子が継承権を失い皇子になり、第一皇太子妃からただの皇子妃になった今、かつての第一皇太子派は力を失った。今は第一皇子は海を渡った南の国へ身柄を預け福祉活動に従事し、第一皇子妃は後宮から一切出られない。一見丸くおさまったように思えるけど、あの二人が、特に第一皇子妃がこのまま黙っているとも思えなかった。

 だからこそ殿下は早くに動いて皇太子として認知を高めるのだろう。


「メル、何もないと思うけど怪しい動きがあったらすぐ連絡して」

「はい」

「指示はヴォックス兄上に」

「はあい」


 議会をしめていた一派も大方退き、今では帝都で民の中から選ばれた人間が議会に参加するようになってきている。騎士団の遠征も減った為、殿下が外遊をする間、第二皇子は皇帝の護衛を務めるという。安全に安全を重ねているから私たちは外に出られるわけだ。


「ソミア、逢引楽しんできてね~」

「外遊です!」

「えー? 逢引するよ?」

「はい?!」


 誘いでもなくて決定事項とは何事だろう。


「折角、帝国の外で二人の時間が取れるんだから甘やかす時間ぐらいないとね」


 もちろんソミアを甘やかす時間だよと機嫌良さそうに目じりを下げる。嬉しそうだ。


「甘やかす……ふふふふふ」


 メルはメルで妄想が捗っているのか満面の笑みで少し引く。


「折角だから楽しんでくればいいのに」

「メル」

「はいはーい」

「返事は一度、のばさなくていいのよ」

「もうソミア真面目すぎ」


 ほらいってらっしゃいと送り出された。外遊中、メルはポームムと共に城の警戒に当たる。私には一人同僚が侍女でつくというよく分からない事態になっているけど、そこは飲み込んだ。貴族の服でどうしても一人でできない部分を手伝ってもらうだけで基本は自分でやるつもりだし。


「どうにかなって帰って来てね~楽しみにしてるわ~」

「もうメルったら」


 ぎりぎりまで声をかけてくれて嬉しいけど明らかに楽しんでるわね。

 どうにかなんてならない。

 今回私が飲み込んだのだって、正直殿下の言う思い出作りに限りなく近いもの。

 この外遊で殿下への想いを断ち切って、殿下を好きになった思い出を抱えて最後は殿下の元を去る。

 この考えで結論を出したから外遊随伴に首を縦に振った。

 でもこの想いは深くしまっておいて、建前は視察にしよう。そもそも殿下の将来がかかっている大事な仕事だ。私の私情は深く隠す。

 これは視察、視察だ。


「視察じゃないからね」

「……」


 深い部分の想いは悟られずについて安心するも、言い聞かせてた建前が否定された。

 外遊用の馬車を目の前にして覚悟を決める。


「……それでも視察でお願いします」

「ソミアってば頑固」

「外遊です。遊びに行くわけではないんです」

「ふふ、相変わらずだねえ」


 ほら、手を差し出される。引く気のない殿下の笑顔に負けて手を預けた。


「こういうのにも慣れてってね」

「……善処します」


 これからの外遊では令嬢として扱うという意味なのだろう。もう決めてしまっているから困ったものだ。

顔文字を使うのは小説においてNGだと思うんですけど使うよねっていう(笑)。

外遊編からクライマックスに入っています。思い出作りと割り切ろうとするソミアのもだもだぶりをご覧下さい(笑)。

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