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33話 初めて

 当然連れられたのは秘密の庭だ。

 殿下は着くや否やソファにどっかり座って、次に私の手を引いた。


「殿、下」

「ソミア」

「いえ、その」

「む……」


 珍しく納得がいかないと言わんばかりのしかめっ面をして私を見上げしばし無言の後、動かない私の腰を掴んで軽く持ち上げ回転させる。気づけば殿下の膝に座っていた。

 なんてことを!


「も、申し訳ありません! すぐにどきま」

「いいから」

「殿下!」

「いいから」


 このままでと抱き締められる。

 深く息を吐く殿下の腕の力が強まり私に顔を埋めた。とても恥ずかしいことをしてくる。

 こんな強引なこと、今までなかった。不慮の事故で密着してしまうことはあったけど、今までなら早い段階で離してくれている。

 表情も行動もいつもと違って戸惑った。身体が強張って動けない中、殿下が苦々しく囁く。


「助けるの遅くてごめん」

「殿下は何も悪くありません」


 そもそも殿下は私の想像できない細かな魔法を庭に施している。今回は明らかに想定外だと思うのだけど。

 相変わらず口調は苦いまま殿下は続けた。


「ソミアを守れないなんて僕は僕を許せない」

「殿下……」

「まさかこれを使ってくるとは思わなかった」


 先程男から回収した原石を掌で転がす。見たことないものだ。殿下は家庭教師から宝石類についても学んでいたけど、その時にこの石の話はなかったと思う。書籍でも見た試しがない。


「殿下、こちらは?」

「魔石だよ」


 これを持てば魔法が使えない人間も使えるようになるという。うまく使いこなせばこの小さな石で帝都一つ潰せる。

 だからあの伯爵位の男は殿下の魔法の網を突破して侵入してきた。それほど強力なものということ。


「帝国領土外のさらに北の原生自然地帯の奥でとれるという話を聞いたことがあったけど現物見たのは僕も初めて」


 伝説の代物だと思ってたし、と加えた。


「魔石……」

「フィクタだよ」

「え?」


 この周辺では北、未開の地である原生林のさらに奥にあるという噂があるが見た者も所持してる者もいない。

 そしてこの大陸外では東の地の巨大な山でとれるという。その東の地の魔石を第一皇太子妃は所持していたと。


「顔が同じ護衛がいるでしょ」

「ええ」


 最近は双子の兄弟以外も違和感を抱く同じ顔が代わる代わる第一皇太子妃の護衛を務めている。

 その護衛を尾行してはるか東の地の商人とやり取りしてることを突き止めたらしい。東の一部種族はまじないの類でこの石を使うから、取引自体は少なからずあるようだった。


「ソミアが双子だって教えてくれなきゃ、ここまで突き止められなかったかも」

「そうでしょうか」

「同じ人間がずっと護衛してると思ってたからね」


 感謝されても私は役に立てていない。今回のことでよく分かった。殿下の側にいることに甘えて私は護衛術の一つも学んでいない。


「ソミア?」

「このような状態で申し上げることではないと思うのですが」

「ん? いいよ、言って」

「侍女を辞したいとお」

「だめ」


 食い気味にお断りされた。格好が格好だから土下座でもしてから言うべきだったわね。


「お暇を」

「絶対だめ」

「殿下、私は殿下のお役に立てません」

「すごく役に立ってる。というか、役に立つ立たないの問題じゃないんだよ」

「でも……」

「絶対だめだからね」


 ここは私が責任をとり城を出るのが最善だと思ったけどだめらしい。

 次は絶対守るし、こんなことにはならないようにするからと私を抱く腕に力が入る。怖がらせてごめんと言う声は少し震えていた。

 殿下が謝ることじゃないのに。


「……殿下が助けてくれた時、すごく嬉しかったんです」

「うん」

「すごく安心もしました。まるで帝都での人気小説の主人公みたいで、」

「ときめいた?」


 嬉しそうに微笑んでいる。言わなくても分かってる顔だ。

 折角本音で話したのにこの変わり身の速さに呆れてしまう。でもへらへら笑っている方が殿下らしいのも事実だ。それを見て私が安心しているのが良い証拠ね。


「ええ。だからこそ、殿下の側にはいられません」

「またそう言うの」

「だからといって他の相応しい女性が殿下の隣に立っても、きっと私は耐えられません」

「ソミア」

「だからここを出たいのです。今の内に。まだ今なら、どうにか」

「ソミア」


 眉が下がる。

 私は殿下を困らせてばかりだ。

 だからこそ逃げてしまいたかった。そうすれば今にも崩れそうな顔が元に戻るはずだもの。


「殿下」

「黙って」


 腰を抱く手とは逆の手が私の唇に伸びる。殿下の人差し指が私の唇に触れた。

 やめて、揺らいでしまう。


「ソミアは僕に守られてて」

「殿下」

「今日みたいな失敗はしない。ソミアが僕の隣に立てると思えるまで誠実な男を貫くから」


 まだ側にいて、と懇願される。ただでさえ、あの男に絡まれた影響で感情がぶれていた。これ以上近くにいたら、だめ。


「……卑怯です」


 私が殿下に甘くなっている足元を見られてる気がした。そして私の気持ちも分かっていて見ている。


「ねえ、ソミア」

「はい」

「誠実な男を見せたいんだけど、今日だけ許してほしくて」

「自分で言って早速ですか」

「ごめん」


 でも丁度私の気持ちも殿下と同じだった。触れて欲しくて、恥ずかしい格好で抱きしめられているのに、その力強さとあたたかさが愛しくて離れられない。

 だめだ。箍が外れる。


「ソミア」

「……」

「やっぱりだめ、だよねえ」

「許し、ます」

「え?」

「いいですよ」


 何をしたいかなんて分かっていた。

 殿下の人差し指が私の頬を撫でる。そのまま少し顔を上げれば殿下が静かに近づいてきた。


「ソミア」

「はい」


 二人だけの場所で初めて触れた。

動揺して混乱してる今がチャンスだ!いえー!ということで(笑)、ぐいぐいつけこんでみました(ひどい言い様)。

私の作品を全て熟読している方は大陸の北にある原生林とか東の国で魔石がとれるという一文でどこかの平民落ちしたヒロインと幼少期から好きなのに拗らせてしまったツンデレ公爵を思い出してくれると信じています(難易度が高い)。

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