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31話 側にいてほしいのはソミアだけ

「僕は皇位を継ごうと思ってる」

「……はい」


 皇太子になる。

 まだ先になるけど、皇帝に座するということだ。


「本当は帝国を解体したいんだけどね」


 それはまだ無理だからと瞳を伏せる。

 国家連合の話があった時に察してはいた。国が横並びになって利潤を得る形、一つ一つの国が生きる形。

 帝国が全てを傘下に入れ全ての利潤を帝国に帰属する今の状態とは真逆だった。

 現皇帝に代わってから争いを鎮め和解し周辺国の独立を認めることも多く、帝国の支配体制から離れてきている。ここまで進めば帝国はなくなるのではと私のように考えに至る者は出てきているはずだ。


「ねえ、ソミア」

「はい」


 何を言われるかは殿下の瞳を見て分かった。


「皇太子になっても皇帝になっても、側にいてほしいのはソミアだけだよ」

「……」

「ソミアにいてほしい」


 それが侍女としてではないことは理解している。けど応えられない。殿下には……後の皇帝には相応の令嬢が隣に立つべきだ。


「ということで用意したよ」

「え?」


 再び分厚い書類の束を出してきた。


「まだ廃止は難しいから付則つけた」

「そちらは?」

「貴族制度と身分に関わる法律」


 嫌な予感がする。

 殿下の自慢げな表情が全てを語っていた。


「……付則の内容はどのような?」

「爵位のある者ない者、高爵位低爵位に関わらず政・社交・商い・婚姻含め全てを自由とし多くの交流を推奨するって感じの内容だね」


 噛み砕いて簡単に話してくれたようだ。でもその内容が仰々しく付則という形で追加されていた。

 これは念のため聞き直しておこう。否定してほしい事実がある。


「ええと、つまりどういうことでしょうか?」

「僕とソミアが結婚しやすい」


 肯定された。この人ついにここまでやってしまったというの。


「殿下!」

「ソミアが気にしてた身分問題はこれで解決だよ~」

「こ、公私混同です!」

「国家連合設立に先駆けた改革だよ」


 あらゆる国々が交流し行き来する未来がすぐそこなら、各国の民の身分関係なく対応できるよう措置をとらないといけない。その一つだと言う。


「まあ帝国解体してから結婚でも良かったんだけどさ」


 帝国……皇族が解体されても殿下を皇帝にと崇め続ける人間は一定数残るだろう。皇族を辞し爵位を得たとしても高爵位で子爵家の私とは釣り合わない。


「解体したところで、」

「って言うと思ったから法律に手だしたんだよ」

「っ……」


 言葉を詰まらせた私に対し、殿下がゆっくりした口調で、サクが、と言葉を続ける。


「サクはクラスの為に手段選ばないし、使えるものは権力も使うって感じだったから僕も見習おうと思って」

「職権濫用です」


 むしろアチェンディーテ公爵を止める役目が殿下だ。今まで随分勝手を許してきた。そういえば「サクには困らされる」と言いながらも後処理してあげてたし、否定はせずに公爵のやることを咎めたり止めたりしていなかった気がする。


「ソミアをとる」

「殿下……」

「継いだら公務に政に忙しくなるだろうけど、きちんとソミアとの時間をとるし無理もさせない。今まで通り側にいてくれるだけでいい」


 ただし侍女としてではなく伴侶として求められているのが分かった。


「……お応えできません」

「ならソミアが安心できるように整えるよ」

「殿下、そういうことではなくて」

「なんで? 身分問題は解決した。王妃教育ならソミアはとっくに及第点だよ?」

「え?」


 一度も受けたことがないのに?


「姿勢、立ち振舞い、言葉遣いも問題ないし、僕の仕事も中身理解してるし間違いも指摘できる。帝国ではダンスは特段できなくてもいいし、必要あれば学べばいい。まあ僕がリードするなら何をしなくても踊れるけど」


 すごい自信だ。

 ちゃっかり色々査定されていたのはあまり良い気分ではないけど、御祖母様から学んできたことは無駄ではなかったらしい。


「……ですが」

「んーじゃあこれからソミア連れ出そうかな」

「はい?」

「レックス兄上の件を終わらせて、僕が皇太子になったら連合国家全てを回るんだ」


 外交に入るのね。

 第一皇太子が失脚すれば武力を掲げていた以前の色から、今の皇帝の宥和政策ゆうわせいさくを前面に押し出すには効果的だ。

 体外的にも皇太子が誰か周知でき、国家連合間の強固な繋がりもアピールできて丁度いい。


「連合国家を全て巡ると時間がかかりますね」

「うん。それにソミアを連れていく」

「構いませんが」


 分かってないね、殿下が浅く溜め息をついた。


「侍女としてじゃないよ」

「え?」

「きちんと令嬢の格好して連れ立ってもらう」

「何故、そんな必要は」

「あるよ。まあ側近としてだし、貿易や経済の話はソミアをも好きでしょ?」

「ええ、まあ……」


 記録をとってくれると助かるとまで言われる。仕事として来いということなら仕方ない。なにより御祖母様から学んだせいか、生の現場で商売の話が聞けるのは興味深かった。殿下ったら私の興味をよく分かっている。長年一緒にいただけはあった。


「なら決まりだね。そしたらレックス兄上のことは直ぐに終わらせるよ」


 新しいことが起きることにより、私は少しうかれて油断していた。後に後悔することになる。

変態ストーカー本編のサクの手段を選ばない姿を見習う必要はどこにもないですよね(笑)。しかもシレが教わる側でもない(笑)。でもそうでもしないと動きませんからね、この二人。

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