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30話 サク、帝国を去る

 アチェンディーテ公爵が帝国を脱した。第一皇太子と皇太子妃が公爵に国家反逆罪を着せようとしたからだ。当然、冤罪なのだけど。


「殿下、アチェンディーテ公爵は無事イルミナルクス王国へ戻れたようです」

「手元に置いて守るが裏目に出たね……」


 いつもの殿下の執務室、執務机ではなく側にあるソファにもたれかかって疲れ気味に殿下が苦々しく囁く。けれど無傷でイルミナルクス王国へ入れたと報を受けて私たちは安堵した。


「クラスにはまた迷惑をかけたから……本当不甲斐ないよ」

「殿下……」


 代わりにステラモリス公爵の追放刑が確定する。アチェンディーテ公爵を助ける為に体裁として自ら名乗り出たと聞いた。彼女が帝国を去った日は秘匿中の秘匿だったのだけど、日時をメルに教えてもらって伺うもうまいくいかず、離れたところから去る姿を見るだけだった。殿下を助けてもらったことに改めて御礼を伝えたかったけど仕方ない。

 けれど彼女の美しい髪にアチェンディーテ公爵が選んだ髪飾りがあったのを見て公爵は渡せたんだと分かった。それだけでも分かって嬉しい。


「御二人とも御無事で良かったです」

「そうだね……ソミアはサクのこと気に入ってたしね」


 確かによくアチェンディーテ公爵とは私が聞き役で時間をすごすことがあったけど、それも後見人である殿下の元へ公爵が来ていたから私はついでだ。ステラモリス公爵と時間をすごすようになってからは頻度は減り、たまに恋愛相談を受けるようになった。

 確かに可愛い子ではあったけど、そこまでお気に入りなのだろうか。


「そこまで甘やかしてはいなかったかと」

「そうじゃなくてさー、ソミアってサクといると少し表情優しくなるから」


 庭いじりの時ほどじゃないけどと加えられる。


「私がアチェンディーテ公爵と話をしていたのは公爵から求められたのもありますが、お相手をする一番の理由は殿下です」

「僕?」


 アチェンディーテ公爵の安否や行動、当然言動だって殿下の評判として影響が出る。その為にも言い方は悪いけど監視の意味もあった。

 勿論人としてアチェンディーテ公爵は素敵な方で、子供としては可愛いらしく、ステラモリス公爵への恋は個人的に応援している。そうなると人として純粋に好きなのかもしれない。

 と、話が逸れた。一番伝えなきゃいけないことを伝えよう。


「……私は殿下のことを心配しているのですが」

「え?」


 この様子では分かっていない。まあそれもそうだろう。あまり自分自身には頓着がないことはよく分かっている。その頓着のなさで倒れないようしっかり私が見張らないとならない。ステラモリス公爵の前でもきちんと宣言したから尚更だ。


「後見人は殿下でしょう」

「ああ、サクのこと?」


 それがどうかした? と言って小首を傾げる。


「……後見人の責任を問われたら殿下は継承権も失いかねないでしょう」

「まあそうだね」


 アチェンディーテ公爵の罪を問われれば、未成年である以上後見人である殿下にも責任が問われる。国家反逆罪が認められるわけもないだろうけど、万が一議会で通った場合、殿下はアチェンディーテ公爵同様罪に問われるだろう。継承権を剥奪され皇族を抜けるが妥当というところ。殿下もそれを分かっているようだった。

 なのに嬉しそうに笑っている。分かっているなら少しは深刻な顔をしてほしい。


「ふふ、僕のこと心配してくれてるの?」

「当然でしょう」


 私は殿下の側付きです、と言うと顔を緩めて殿下がさらに笑う。


「ソミアって僕のこと結構好きだよね?」

「からかうのは止めてください」

「サクから教えてもらったんだけど、それデレって言うんでしょ? 可愛いよねえ」

「一週間ほど口をきかなくてもよろしいでしょうか?」

「えー」


 それは嫌だと唇を尖らせる。アチェンディーテ公爵の方が余程大人だなとこういう反応の時に思う。

 あとアチェンディーテ公爵、変な言葉を殿下に教えないでほしい。普段意図して控えている節はあるけど、ちょっとしたことで出てしまっていたから、そこを殿下に突かれたのだろうけど。想像に難いわ。


「まあソミアの心配ももっともだよね~。というわけで、こんなこともあろうかと」


 書類の束を出し掲げる。あっさりとした口調だった。


「そちらは?」

「サクがやられたままなわけないでしょ?」

「まさか……」

「そのまさか。穏便にいきたかったけど、ここまできたら難しいよ。レックス兄上には退いてもらう」


 殿下もアチェンディーテ公爵もこうなることを予測した上で自身の罪を払拭し、第一皇太子を逆に罪に問う手立てを考えていた。おそらく殿下が動いたら第一皇太子は皇太子の座からおりることになる。


「本当は穏やかに事を進めたかったんだけど無理そうだね。父上も致し方ないってさ」

「……」

「クラスの事が絡んでるからサクはかなり早く動くよ。そんな時間もかからないだろうね」


 それでね、と殿下は続ける。その先の言葉は分かっていた。


「僕は皇位を継ごうと思ってる」

「……はい」

変態ストーカー本編一章ラストですね~。髪飾り渡してお別れしたシーンが懐かしいです(笑)。

前の話のあとがきでも書いたようにソミアはサクのこと結構好き。まあ私もサクとクラスの恋は応援してましたよ!作者として!

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