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27話 サク、入城

「殿下のことが好きですが、それがなにか」

「え、待って、僕が言ってるの、恋愛とか結婚の意味で好きってことだよ?!」

「ええ、殿下と同じ好きです。嘘なんてつきません」


 予想していなかったのだろう。私の言葉に瞠目しタオルを私に押し付け、片手を自分の口許に当てて嘘だろと囁いている。

 納得がいかない。脈ありかな? と言っていたのは殿下だったはずだ。私が殿下に少なからず想いを寄せていることを知られていたと思っていたのにそうではなかったらしい。


「え?! ええ?!」

「あれだけ尽くされて期待しないわけないでしょう」

「いや、まあその、アプローチは欠かさなかったけどさー。効果あったんだ……」


 目を白黒させて、その後思案するように視線を落とす。耳が赤いから私の言葉は信じてくれたのだろう。聡いその頭を使えばすぐに分かるでしょうに。

 私がいつだって御祖母様の教え通りの顔や態度ができないのは決まって殿下絡みの時だけだ。殿下の前では取り繕うことができない。

 この人、分かってないの?


「お茶を淹れましょう」


 ステラモリス公爵から頂いた薬草茶をいれる。そういえば、やっと個室をあてがわれたけど薬草を薬にする器具は揃っているのだろうか。動機が不純だけど、これから殿下の薬をもらうので質の良いものが揃っていてほしい。


「……ソミアが僕を好き……」


 私がお茶を用意する間もずっとぶつぶつ言っている。

 この人、分かってなかったんだ。実はいつも通りの顔ができて効いていたというの? 私自身は崩れて仕様がないと思っていたけど、存外殿下には知られていなかったのかもしれない。今までの努力が身になった気がして少し嬉しかった。


「殿下」

「う、ん」


 息を詰める殿下に努めていつも通りの顔で向き合った。


「殿下のことはお慕いしておりますが、婚姻は望んでおりません」

「……はい?」


 殿下の目が面白いぐらい丸く開いた。今まで一番驚いているかもしれない。


「殿下は結婚の意味でと仰いましたが、殿下との結婚は望んでおりませんし、愛妾も二人目の妻もお断りします」

「はい?」

「なのでこの場この限りで結構です」

「な……え?」


 つまり、好きだけどお付き合いするのも結ばれるつもりもない、ということ。告白しあって終わりにしましょうという意味だ。

 殿下はそれをきちんと理解してくれた。ただし表情はかなり険しくなっていたけど。


「なにそれ」

「言葉のままですが」

「好きだけど付き合えない?」

「はい」

「ふーん……」


 不機嫌になった。言葉をもう少し遠回しに柔らかくしないとだめだっただろうか。

 ここは多少乱暴な言葉でもはっきり伝えるべきよね?


「ソミア」

「はい」


 お茶を飲みながらにっこり笑う。笑顔の下は不機嫌なままだ。こういう見分けがつけられるようになったのは成長の証かしら。


「僕が誠実な男だっての、もう一度やるから」

「え…ですが殿下」

「お付き合いしたい、結婚したいって思えるぐらい甘やかす」

「ええ……」


 なおも不機嫌なまま「お茶美味しいよ」と満面の笑みで言う殿下に少し引いた。

 どうやら殿下のなにかに障ったらしい。


「期待してて。間違うことなく迷うことなく僕はソミアが好きだから」


 その日は一日殿下の機嫌は直らなかった。



* * *



 程なくしてアチェンディーテ公爵が入城する。殿下が正式に後見人となり、殿下の父親である現皇帝が国家連合設立を提唱し設立する為の要として呼び立てた。

 立ち位置はイグニス様と同じ宰相という形でだ。殿下の父である皇帝がその聡明さを気に入り呼びつけたとなっている。それは事実でもあるけど、裏ではイグニスの二の舞にならないよう手元に置いて守る意味もあった。


「サク」

「なんだよ」

「連合加入国の最新資料」

「おう」


 並んでいると本当に家族みたいだ。内容は重めの話でアチェンディーテ公爵のような子供が扱う話ではないけど、そこは見ない振り聞かない振りをする。見た目が一番癒されるからそこを採用した。


「俺、戻るわ」

「ねえ、あの部屋で本当にいいの?」

「おう」


 ぶっきらぼうに返事して帰っていったけど、あれはステラモリス公爵の元に帰れるというので嬉しい様子だ。

 アチェンディーテ公爵は一目見てステラモリス公爵を気に入ったと殿下から聞いていた。可愛いなとつい口元が緩む。隠していたけど僅かな変化を見逃さず、殿下が私に声をかけた。


「ソミア、どうかした?」

「可愛いらしいなと」

「サクが?」

「はい」


 ふーんと少し不満そうに返事される。


「殿下とお二人で並ばれてると親子みたいで素敵です」

「冗談やめてよ。兄弟にして」


 年の差としては兄弟が妥当だ。つい親子なんて言ってしまった。けど後見人だからか二人の間にある雰囲気はどちらかというと親子よりに感じる。


「最初は帝国にお越しになるのはいかがなものかと考えてましたけど、いらっしゃると殿下が楽しそうなので良かったと思います」

「えー? 僕、サクに結構振り回されてるんだけど?」

「振り回されるのがお好きなのでは?」

「えー……」


 否定しないあたりアチェンディーテ公爵の面倒を見るのはやぶさかではないのだろう。

キレ気味の告白で天にも昇る気持ちを味わったら突き落とされる男(笑)。そしてサクの入城により振り回される男(笑)。不憫だけど、間違いなく振り回されるの好きなタイプですよね~。

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