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26話 殿下のことが好きですが

「これは、ステラモリス公爵閣下」

「お話はソミアさんから聞きました。治します」

「……こちらへ」


 殿下は浅い息をしつつも顔色悪くベッドに横たわっている。寝ているのに苦しそうだ。


「……」


 ステラモリス公爵は上掛けを捲り、許可を得た上で殿下の上の服を開いた。


「ステラモリス公爵閣下?」

「ここ……腹水が溜まってます。ソミアさんの言う通り肝臓ですね」


 ステラモリス公爵が示した下腹部をよく見れば確かに膨らんでいるように見えた。今まで気づかなかったのは服のせいだろうか。

 いや完全な殿下付きになってからは私が殿下の着替えもお手伝いしていた。もう一人着替えや身の回り担当の侍従がいたけど互いに殿下の状態を確認し合って、ここまでとは認識していない。


「っ……」


 ああ、でもいつからか私が起きる前から殿下が起きて仕事をしていたから服の下を久しく見ていない。

 まさか、早く起きていたのはこれを隠すため? 腹水も肌の黄疸もなるたけ見られないように?


「ソミアさん、大丈夫です」

「……え?」

「完全に駄目になっていないので治りは早いですよ」


 淡く光る魔法の中、ステラモリス公爵が笑いかける。私のことまで気にかけてくれた?

 殿下の腹が元に戻り、顔色が戻っていく姿に安堵する。


「ああ……」

「念のため薬と薬草茶を出しときますね。暫く様子を見てください」

「ありがとうございます!」


 思っていた以上に私の声は震えていた。情けない。誰にでも分かるような形で出てしまうなんて御祖母様の教え通りじゃない。


「当面は体調診ながら薬を処方することになると思います」

「定期的に公爵閣下の元へ伺えばよろしいですか?」

「でもいいですし、私が来てもいいですし。皇族で宰相してるとお仕事の量を急に減らすなんてできないでしょう?」

「……恐らく」

「だったら治療は並行した方がいいですね」


 微笑む公爵はなんてことない様子で去ろうとする。当たり前のことをしているといった素振りで驕らずにいた。この方こそが、この治癒を持つ方だから、聖女という肩書きは彼女のものなのだと悟る。



* * *



「……あれ?」

「殿下!」


 あれからつきっきりで看病した。殿下は今までの睡眠不足を補うように寝続け、丸一日寝た翌日の昼に目を覚ます。

 殿下付きの護衛や執事達に伝える為にストリクテが部屋から出ていく。上半身起き上がる殿下を支え、枕の位置を変更した。


「僕、倒れたよね?」


 自覚があったらしい。

 ひどいものだ。殿下のことだから自分の身体のことに理解があったのだろう。それを言わずなにもせず今日までこのままだった。

 私はなにも力になれなかった。

 殿下が天蓋を見つめて浅く息を吐く。察しがついたらしい。


「あー……クラスだね?」

「はい……」

「今度こそ替えの服を渡せる」


 笑ったとはいえ力がなかった。ステラモリス公爵は殿下の体力まで戻しているはず。ということは精神的な面ではまだ本調子ではないということなのだろうか。

 それでも殿下が目を覚ましただけでこんなにも嬉しい。じわじわ内側に広がるもどかしさに抗えなかった。


「殿下……」

「え、ソミア?!」


 今度こそ我慢できなかった。

 涙が止まらない。

 殿下が慌てた様子で側のタオルを渡してくる。


「これは、殿下用に御用意したものです」

「そういうのいいから! 涙拭いて」


 固辞する私に「もー」といつもの調子で言うと殿下の大きな手が伸びてきた。そのまま私の頬を撫でる。


「タオル使わないならこうするよ」

「……ぐっ」

「唸らないでよ」


 眉を八の字に下げる。

 ああ、殿下だ。顔色も良くクマもない。軽い調子で笑う。

 殿下が、いる。


「治って良かった、です」

「……心配かけてごめんね」

「本、当」


 ぐっと力をいれて、涙でぐしゃぐしゃのまま殿下の瞳を捉える。


「二度と倒れないでください」

「うん」

「身体悪いの隠さないでください」

「うん」

「……少しは、頼ってください」

「…………ふふ」

「なに笑ってるんですか」

「えー?」


 殿下がタオルで私の頬を拭く。固辞したのに強引にだ。

 笑いながら機嫌よさそうだし、こちらの身にもなってほしい。


「ソミア心配してくれたのかなあって?」

「当然です」


 本当は心配したなんて言葉で済む話じゃなかったんだから。

 身体を悪くしてる頃から気が気じゃなかった。このまま倒れたらと日々思いながらも気休めしかできず力になれない自分に苛立つばかり。

 そんな私の今までの心配や不安も加味して嗜めるように言っても殿下は余計喜ぶだけで効果がない。


「ふふ」

「殿下」

「分かってるよ、もうこんな無茶しないって」

「なら構いませんが」


 本当だろうか。疑わしくてついじとっとした視線を送ると殿下がますます喜んだ。喜ぶ場面じゃない。


「だってさー、ソミアがこんなに心配してくれてるんだよ? 僕のこと好きなのかなって思うじゃん」

「ええ、そうです」

「ん?」


 この時の私は割と感情が盛り上がってて、いつもの抑止力は働いてなかったと思う。心配してるのにへらへら笑う殿下が許せなかったのもあったけど。


「殿下のことが好きですが、それがなにか」

サブタイトルが出オチネタバレすぎて(笑)。さておき告白はキレ気味にするものじゃないですね(笑)。

そんなソミアも好きい(´ρ`)

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