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23話 第二皇子、深手を負う

 珍しく城内を早い足取りで進む。走ってもおかしくない程、殿下から焦りが見えた。


「殿下!」

「分かってる!」


 第二皇子殿下が深傷を負ったのだから、殿下の焦燥は当然だ。

 代替わりによる併合国の独立運動の対応に行った際のことだという。前皇帝が精力的に動いていた時代に併合された国は奮起することが多く戦いになることもしばしばあった。どれも第二皇子とユラレ伯爵令嬢が対話によって解決していた矢先のことだ。


「兄上!」

「静かに」


 殿下が第二皇子の部屋の扉を勢いよく開ける。ノックをしないのはこの緊急事態だから誰も咎めないだろう。


「え?」


 余程の惨事を想像していたら既に治療は終わっていた。ベッド側に立つ少女がなんてことないように言う。


「あ、終わりました。血が結構出てたので暫く安静にしててください。食事はスープといった軽いものから始めてもらって、運動は起き上がって軽く歩いて様子見てからがいいと思います」


 殿下が第二皇子の側に走り寄り身体の傷を見る。跡すら残っていなかった。

 魔女と呼ばれ蔑まれているけど、この治癒の力は伝承で見る聖女そのもののようだ。なぜ誰も魔女という蔑称に異議を唱えないのか。


「兄上……よかった」


 これがステラモリス公国の治癒魔法。

 あったことを否定できるとは聞いていたものの、簡単な治癒とは訳が違う。血が流れたから安静にとは言うものの第二皇子の顔色は明らかによくなっていた。遠征続きの疲れもなく、血が足りなくて青いわけでもない。


「では私は他の騎士様の治癒に」


 術者本人への負担もなく、極当たり前のように次に向かう少女はとても年が近いようには見えなかった。第一皇太子妃から虐待といえる暴行を受けていながら帝国に寄与するなんて考えられない。


「待て」


 寝ているはずの第二皇子が呼び止める。ゆっくりとした動作で起き上がり、力強い眼光で少女を捉え、次に自身の婚約者を見た。そしてすぐに治癒を施した少女に視線を戻す。


「この好機を逃すわけにはいかない」

「兄上」


 殿下が背中に手を添え支える。

 そして目だけで会話をしたユラレ伯爵令嬢が静かに扉の前に立った。この少女を外に出したくないと判断できる。


「治癒が終わったばかりなので、あまり動かない方がいいですよ」

「問題ない」

「そしたらせめて水分を……あ、薬草茶にしますか?」

「ああ、頼む」


 彼女が自らいれようとするのを申し出て私がお茶をいれさせてもらえるよう誘導した。入れ方は普段と変わらないので彼女も許してくれる。


「これを機に君に真っ当な部屋を」

「え、あ、そこですか……」


 思いもよらない言葉だったようだ。キョトンとした姿は幼さを残している。


「瀕死の所を救ってもらったんだ。今までがおかしかった。これを機に当然あるべき待遇を保障したい」

「そうだね。この功績ならレックス兄上も文句は言えないよ」


 言わせないしと殿下が笑う。

 私は殿下二人とステラモリスの少女にお茶を出した後、扉の前に立つユラレ伯爵令嬢にもお茶を出した。眦に僅かな変化があったけど穏やかに受け取ってくれる。

 本当は退室すべきだし、いるとしても一番後ろに控えるべきだけど、扉の前にユラレ伯爵令嬢が立ったままだったので、僭越ながらユラレ伯爵の隣に立って殿下達の様子を見た。急な提案に戸惑いつつも受け入れる少女には服も新調する話が上がっている。よかった。厨の端っこで寝るなんてどう考えたっておかしいもの。


「……」


 ふと隣のユラレ伯爵に視線が及ぶ。穏やかな表情で見つめる先は当然第二皇子だ。けど、その手元が僅かに震えていた。英雄とまで呼ばれる騎士団のトップに震えがあるなんてと思わず驚いて態度に出てしまったらしい。

 ユラレ伯爵令嬢と目が合った。眉を下げて困ったように囁く。


「ばれてしまいましたね」

「あ、大変失礼致しました」

「いいえ、お気になさらず。でもこれは私達だけの秘密にして下さい」

「秘密?」

「ええ」


 柔らかに笑う彼女はさすが英雄というところだろうか。女性の私もどきりとするような美しい華やかさを持っている。


「承知致しました」

「恥ずかしいので情けない所はあまり見せたくないんです」

「え?」

「心配させたくもないですし」


 見せたくない相手は十中八九第二皇子だろう。ユラレ伯爵令嬢も婚約者の前では恥ずかしいと思うんだ。不躾ながら可愛いと思ってしまった。


「僭越ながら申し上げてもよろしいでしょうか?」

「ええ」

「私がお相手だったら、今のユラレ伯爵令嬢の御姿は可愛いなと思います」

「……ふふ、そう言われると嬉しいですね」


 この方が帝都の民から厚い支持を得ているのがよく分かった。大人びていて凛々しい騎士の姿であるのに笑うと可憐だ。

 普段副団長として勇猛果敢に先陣を切り騎士達を牽引しつつも、日々騎士達を気遣う優しさは城内でも評判だった。この方はこの方自身の持つもので好かれている。第二皇子が毎日花を贈りたいと思うわけだ。


「ソミア」


 殿下に呼ばれ、意識をそちらに戻す。

 話が纏まったようだ。


「部屋は」

「既に使用可能です」

本編読んでる方は、ああヴォックスの次は…(察し)ってなってると思いますが、まあ耐えて(笑)。大丈夫、クラスいればなんでも治るから!(言い方)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ついにクラス来たーー!! ああ、あのシーンですね! 裏が見えたみたいでオイシイです。 [一言] これからも追わせ手いただきます!
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