表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/46

22話 膝枕

 頬を染めて恥ずかしがってるようだから、この場合、まさかとは思うけど恋愛的な意味で? 未確定の結婚相手がいるから、命の危険のある帝国へ行くって?

 聡明な公爵が言う言葉とは思えず、少し動揺に目を瞬かせてしまった。


「どなたですか?」

「そこまでみえなかった」

「はあ」


 なんだよ、と私の反応の悪さに拗ねてしまった。メルなら黄色い声をあげなら盛り上がっただろう。


「でも見たというのはどういう……あ」


 確かアチェンディーテ公爵は先見の明がありすぎて予知夢に近いものをみると聞いた。殿下から聞いた話だったから嘘かと思っていたけど本当の話だったのね。


「そんな目で見んなよ。理性的じゃねえって言いたいんだろ?」

「いいえ、滅相も御座いません」


 城には確かに女性はいるけど、公爵位に合う方はいないはずだ。やはり出入りのある令嬢が有力だろう。


「俺にこういう力があること誰にも言うなよ」

「はい」


 私は後々この言葉の意味を知ることになるけど、それはさておき。

 私たちの会話はドアを叩く音によって遮られた。


「閣下」

「入れ」


 彼が今側においている人間は一人。アルトゥムという護衛騎士兼執事だ。あらかじめ開けた扉の向こうから、少し眉を下げて静かに報告をあげる。


「後見人の方が国境線でお待ちです」

「え?!」

「……あいつは馬鹿なのか?」


 仰る通りですと言いたいところだけど飲み込んだ。まあ書類を渡すだけだからいいのだけど、急いで出ることにした。


「俺も行く」

「公爵閣下、よろしいのですか?」

「おう」


 顔見とくとぶっきらぼうに言って私の少し前を歩く。少し後ろからはアルトゥムがついてきた。

 馬車に乗り門を出る時に、騎士たちが苦笑して見送ってくれたことで全て悟る。イルミナルクスでは筒抜けということだ。

 こういう行動は国の品位を落としかねないのに平気でやってしまうのだから困る。ほら、当の本人は私と公爵が着いた途端、嬉しそうに駆け寄ってきたわ。


「ソミア」

「……殿下、な」


 何故と言う前に殿下はアチェンディーテ公爵に脛を蹴られて涙目になった。


「お前、自分の立場考えろ」

「っ! ごめんって」


 困ったように笑われ、そのままあっさり別れた。公爵は存外殿下のことを気に入っているように見える。


「おい」

「ん? なに?」

「少し寝とけよ」

「あー、分かってる」

「ちっ」


 舌打ちまでされている。最後に私を見て「寝かせろ」と端的な指示をもらった。


「膝枕でもしてもらえ」


 嫌がらせですかと問いたい。いやらしい笑い方をして公爵はその場を後にした。

 いいね! と意気揚々になった殿下と一緒に馬車に乗るはめになった私のことも考えてほしい。


「殿下は何故いらしたのです」

「ソミアのことが気になって」

「結構です。御者が護衛を兼ねております」


 本当、アチェンディーテ公爵の立場を考えろをまま伝えたい。皇族がほいほい出てくるものではない。

 本音は何だと殿下を見つめて問う。すると殿下は観念したようにため息をついた。後頭部を雑に掻いて笑う。


「ソミアが通る道に野盗が出るって聞いて」


 心配で、と殿下。


「……それだけですか?」

「うん。安心して、件の野盗は捕まえたよ!」


 そういう問題ではない。けど気遣ってもらったのは確かだ。

 帝国外の野盗によって先代アチェンディーテ公爵は亡くなったとされている。つまり帝国外での危ない話は第一皇太子妃が絡んでいて野盗もその一つ。皇太子妃の息がかかっているといっていい。私の生死に直接関わっている可能性も充分ある。

 たぶん殿下の考えはそこだろうけど、私がイルミナルクスを行き来していることは誰にも知られていない。知られていたら今頃殿下が城で糾弾され、色々な権利を奪い、第一皇太子が帝国を牛耳ろうと動くはずだから。

 そのへんはひとまず置いといて、殿下が純粋に私を心配してくれたことにはお礼を言うことにした。


「お気遣い痛み入ります」

「そしたら膝枕してよ!」


 ご褒美頂戴と、のこと。


「……」

「ソミアの膝なら寝られそう」


 そう言われると弱い。ただでさえ殿下が寝ていないのは誰よりも知っている。クマはひどくなるばかりだし顔色も格別悪くなった。痩せてもきている。何度止めてもこちらの言い分を聞いてくれなかった。

 今はもしかしてすごい好機なのでは。


「……分かりました」

「やった!」


 馬車の中、向かい合わせだった所からこちら側に来て遠慮なく私の太股に頭を預けてきた。


「うわあいい眺め。柔らかいし最高」

「変なこと言うと落とします」

「えー?」


 サクには感謝しないとなあと笑っている。仰向けで寝るものだから殿下の視線を直接浴びる羽目になった。


「見ないでください」

「この態勢だと仕方ないよ」

「早く寝てください」

「うーん」


 唸った後、眠れないんだよねえと軽く言われる。


「あ、ソミア」

「寝てください」


 片手で殿下の目元を隠した。非難の声があがったけど無視だ。

 そのまま暫く無言を貫けば程なくして規則正しい息づかいが聞こえ始める。


「……」


 クマがひどい。

 もしかしたら私のことは言い訳で少し休みたくなったのではと思えた。まだこうしてなにかしらのアプローチがあればいい。けど明らかによくない方向に向かっている。


「無理はしないでください」


 聞こえなくても伝えずにはいられない。殿下が私の声を聞いてくれてる今はまだ大丈夫。でも不安は拭いきれなかった。

膝枕も定番ですよね!(笑) 私としてはツンデレショタっ子の蹴りが最高にツンデレってるので美味しいです(サクもシレが心配なんだよ!)。ツンデレも膝枕もどっちも好き。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ