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21話 イルミナルクス王国へのお使い

 皇帝の代替わりとステラモリス公国の併合はあまり日を開けなかった。殿下の祖父にあたる先代皇帝は代替わりとほぼ同じくして亡くなり、最後の勅命だったステラモリス公国武力併合は第一皇太子となった殿下の一番上の兄主体に行われ、一切の抵抗なくステラモリスは受け入れる。


「くそっ」

「殿下、言葉遣いがよろしくないかと」

「分かってるよ」


 ステラモリス公国で何があったかは殿下から教えてもらえてない。けど、公国の主と妻が亡くなり、唯一治癒魔法を使える公女が人質同然で帝国のこの城に入ってきた。


「なんとか部屋は確保できそうだけど……」

「現在は厨で寝泊まりしてるようです。私を含めた侍女から物を受け取らなくなりました」

「あーもー」


 結婚し正式に皇太子妃となった元マジア侯爵令嬢はステラモリス公国のこの女性を魔女と呼び、あることないことを吹聴し孤立させている。

 挙げ句、議会や要職に取り入れた第一皇太子派の人間が物理的に公女との接触や援助の道を断ってきた。

 割り当てた部屋も使わせず食事も与えない。このままだと彼女は孤独の内に亡くなってしまう。


「殿下、私は引き続きステラモリス公爵閣下に援助を行います」

「うん、お願い」


 直接渡そうとすると断られるから偶然彼女が手にできるよう上手に計るしかなかった。そうすれば彼女は比較的受け入れてくれる。殿下が部屋を用意するまで続けるしかない。


「兄上も望んでる。出来る限りの早くに実現するよ」

「はい」


 ステラモリス公国で面識を得た第二皇子殿下と婚約者のユラレ伯爵令嬢が彼女の現状改善を願っている。そもそも賓客扱いになるはずなのにそうならないのはおかしいし、このお二人が公女に接触できないのがおかしいわけで。

 思ってたよりも大きな力を第一皇太子は手に入れたようだ。


「では、私は」

「ああ、もうそんな時間か」


 立ち上がり気を付けてねと眉を下げる。私に命じた人が私の心配をするなんておかしな話ね。


「アチェンディーテ公爵の元へイルミナルクスへ行って参ります」

「お願い」


 紋章のない馬車に乗り、密かに帝国を後にする。行き先は新興王国イルミナルクスだ。

 イグニス・ウェールス・アチェンディーテ公爵閣下は遺言を残しており、それは運良く皇弟の元に届いていた。その中身は爵位を例外的に未成年の息子に継がせることと、殿下を後見人にすることが書かれていた。

 爵位はイルミナルクスで手続きができるが、後見人は二カ国間で手続きが必要ということで私が動いている。書面の受け渡しだけなのだけど。


「おや、ソミアさん」

「よろしくお願い申し上げます」


 イルミナルクスの警備にあたる騎士たちは私の顔を覚えるのが早かった。仕事が速い。政治や技術に加え人材も優秀なのは真実のようだ。

 そしてあっさりイルミナルクスへ入国し目的の人物と面会する。


「……おう」

「アチェンディーテ公爵閣下、本日も貴重なお時間頂き」

「御託はいいから書類」

「こちらになります」


 幼いのに大人顔負けの話術と頭脳の持ち主だ。やや態度が攻撃的だけど強がりの一つだと分かっている。私が彼と同じ人前で多少強がる性質だからか、すぐに気づいた。何度も会う内に少し力も抜けてきたし雑談も少しずつしてくれる。


「まだサイン必要なのあんのかよ……帝国の事務はなにやってんだ」


 書類見ただけで改善点述べられるのはさすが神童と呼ぶべきかしら。


「……閣下、やはり帝国にいらっしゃるのですか?」

「ああ行くけど」

「……」


 後見人である殿下とも数える程ではあるけど会っている。そして殿下の父親である現皇帝がアチェンディーテ公爵を呼び出した。中身はイグニス様と同じ、宰相として帝国に助力を求める内容だ。けど私には受け入れがたいことだった。いくら神童と呼ばれる天才でも子供が危険な場所にいくべきではない。


「お前結構お人好しだよな。俺は別に構わねえよ」

「いくら表向き国家連合の設立の為に発案者が必要だという理由があったとしても公爵閣下はまだ未成年です」

「建前はその程度で問題ねえだろ」

「しかし……」


 本音は違う。殿下が公爵の後見人になることだ。


「後見人の件は嫌でも公的に発表される。シレの弱味になる俺が手の届く範囲にいた方がいいってことだろ」

「しかし」

「お前の主がせめて皇太子になるまでは、あの親父の掌に座ってろってことだよ」


 皇帝は継ぐべき次代の長を殿下にと考えている。それは勿論第一皇太子も皇太子妃も知らない。けど知られた又は感づかれた時に当然あの二人は殿下を排除しようとする。アチェンディーテ公爵は人質に最適となってしまうわけだ。手段を選ばない皇太子妃から守る為にアチェンディーテ公爵を手の届くところへという裏の考えがあった。

 勿論、国家連合の話の詰めもあるだろうけど。


「しかし自ら敵陣に入るのはおかしいかと存じます」

「まあなあ。そこはバランス見たんだろ」

「アチェンディーテ公爵閣下は怖くないのですか?」

「面倒だとは思う」


 自分の生死がかかっていることを面倒の一言で片づけてしまった。

 そしてアチェンディーテ公爵は言おうか言うまいか悩んだ様子で視線を彷徨わせ、珍しくはっきりしない言い方をする。


「けど……まあなんつーか、みえたんだよ」

「何がでしょう?」

「あーその……俺の、運命、が、いる、みたいな」

「運命とは?」

「ばっ……あー……その、結婚相手、というか」


 頬を染めて恥ずかしがってるようだから、この場合、まさかとは思うけど恋愛的な意味で? 未確定の結婚相手がいるから、命の危険のある帝国へ行くって?

 聡明な公爵が言う言葉とは思えず、少し動揺に目を瞬かせてしまった。

ツンデレショタっ子きたぜええ!久しぶりに書いてると楽しくして仕方ないツンデレ好きいい(´ρ`)そして本編最高のネタバレである"みえてる"発言。それでもやっぱりサクは出したかったんだよ。ツンデレショタ出したかったんだよ(分かったから)。

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