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20話 二人だけの社交界

 帰ってすぐ第二皇子との話を殿下にしたら、「いいよ、兄上がやる気になったんだし」と快諾した。会えないところはカタログを見てもらったり、私を介したやり取りになった。


「ソミア。兄上がいくらやる気になっても、兄上が言ってた通り当日最初から皇族として参加することはないと思う」


 僕がいくら言ってもねと殿下が眉を下げる。


「そうですね」


 前半は騎士として出るという主張は強かった。騎士としての仕事をこなしつつ皇族としての務めを果たすつもりなのだろう。


「しかもユラレ伯爵令嬢を誘ってないんだ」

「え?」


 ドレスも用意しているのに? 確かにサイズは直接ではなく、あくまで今までの騎士服のサイズと第二皇子の見立てではあった。けど、誘ってもいないなんてあるの?


「仕事はあんなに一緒にやってるのに、社交界は誘えないとか意味分かんないよねえ」


 笑っているけど目が笑っていない。殿下が些かお怒り気味だ。


「説得は続けるけど、社交界しょっぱな騎士してたら強引に着替えさせようと思ってる」

「それはどのように?」

「ふふ、ソミアに手伝ってもらうけどいい?」

「はい」


 社交界大広間に近い客室二つを確保して殿下の名前で貸しきる。そこを第二皇子とユラレ伯爵令嬢の着替え部屋にし二人を放り込む。メルとポームムにも手伝ってもらい、細かい服の調整は当日私がやってしまえばいいと。


「分かりました。準備します」

「うん、ありがと」


* * *


 当日、予想通り騎士としてやってきた二人を強引に大広間から追い出して着替え部屋へそれぞれ誘導した。

 周囲の騎士が殿下と同じ考えだったのか逃げられない雰囲気だったので、二人はなんなく部屋に入ってくれる。強く拒否されたら私は殿下のように強引にはなれないから助かった。


「お願いがあるのですが」


 第二皇子の婚約者で身分も伯爵令嬢、騎士団副団長。命令してくれるだけでいいのに、とても丁寧に願われた。優しく、平等に物事を見ていると分かる。


「承知致しました」


 頼まれたのは他でもない。最初に第二皇子がユラレ伯爵令嬢に贈った枯れない薔薇だった。戦争が起きてもあの薔薇を持っているということは、やはりユラレ伯爵令嬢は第二皇子のことが好きなのだろうか。敵国で国を奪った相手と一緒にいられるのだから気持ちが多少なりともないと難しい気もする。


「ユラレ伯爵令嬢」


 箱を開けると深く鮮烈な赤が褪せることなく存在していた。殿下の魔法を疑っていたわけではないけど、魔法を理解していない私には半信半疑。魔法の奇跡を目の前にして贈り物が成功していたことに喜びを感じた。


「良かった、枯れていない」

「はい?」


 いけない、声に出ていた。何事もなかったかのような努めて平静を装い最後の仕上げにかかった。

 服のつめは問題ない。激しく戦ったりしたら困るけどダンスぐらいは耐えられる仕様、そして殿下が一つを髪飾りにと言っていた薔薇を一輪髪に施す。落ち着いた暗い色合いの髪に赤い薔薇がよく映えた。かといってユラレ伯爵令嬢が持つ雰囲気の華やかさは薔薇に負けることはない。


「ソミア」


 殿下が第二皇子を伴って部屋に入ってきた。

 緊張しつつも向き合い笑う第二皇子がそっとユラレ伯爵令嬢の赤い薔薇飾りに触れる。

 嬉しそうに一際目を細めると、それを見たユラレ伯爵令嬢が頬を少し赤くして恥ずかしがった。想い合っているのが分かる微笑ましい姿に安心と何故か羨ましさが募った。


「良かった。ソミアありがと」

「殿下」

「これはもう父上じゃなくて兄上とユラレ伯爵令嬢が主役かもね~」


 確かに。

 今日の主役は皇弟だけど、二人が主役でも問題ないことだろう。それぐらい華やかな二人だった。


「じゃあソミア。庭で待ってて」

「はい」


 殿下に言われた通り、フラワーガーデンの手入れをして待つことになった。時間があるので執務室と私室の掃除もし、フラワーガーデンでお茶の準備をして待つ。

 程なくして殿下が片手にバスケットを持って帰ってきた。


「ふわあ、疲れたよ~」

「お疲れ様です」


 お茶を出すとやったーと喜んで口をつける。


「ソミアのお茶は本当落ち着くよ」

「ありがとうございます」

「じゃ、座って」

「はい?」

「ご飯、食べよ?」


 バスケットをあけると中には社交界で用意した食事が二人分ずつあった。殿下が用意していた資料にあったメニューだから間違いない。


「本当はソミアを僕のパートナーとして誘いたかったんだけど」


 まだその段階じゃないからと殿下。

 パートナーというと恋人や婚約者、妻としてということだろう。

 それはない。辛うじてあるなら愛人だろうけど、他に正式な相手がいるのに二番手みたいなところにおさまりたくもない。

 ああ、あまり考えてはいけないわね。その感情が何だか私はとうに気づいているもの。蓋をしよう。


「ねえねえ僕、今回結構頑張ったと思わない?」

「ええ、そうですね」

「だからご褒美」

「褒美?」

「ソミアと今から二人だけの社交界をここで一緒に。ね?」


 つまり二人でご飯食べようよということらしい。

 確かに多忙の上に多忙が重なった。やつれていたのがさらに顔色を悪くした気もする。少しは食べてもらわないと思い、殿下の提案に乗ることにした。

 

「うん、なかなか」

「はい、美味しいです」


 月明かりが照らすフラワーガーデンでご飯を食べてお茶を飲むだけ。静かで落ち着く時間だった。


「ねえソミア、僕と踊ってよ」

「謹んで遠慮させて頂きます」

「ちぇー」


 まだまだかあと笑う。

 踊りたいかと問われれば首を縦に振るだろう。けど、ここで近い距離で殿下に触れたら顔に出そうだからだめ。

 ああもう本当殿下は私の表情を崩すのが得意だ。

よかった枯れてないの台詞のとこはソミア視点でやりたくてですね(笑)。はたから見ると良きカップルに見えるヴォックス・ユツィの姿もまたおいしいでしょということで(笑)。枯れない薔薇いいね。

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