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18話 尾行なデート 後編

「え? え?!」

「こ、これは」


 自分でやったことなのに動揺した。けど、それも足音がこちらに近づいてくることで別の焦りに変わる。まさか気づかれた?


「…………殿下、申し訳ありません」

「え?」


 殿下の首に腕を回して引き寄せる。上半身少し屈む形になって殿下の髪が顔にかかり自身を隠した。身体が傾いたことで殿下の手は私の胸を横切り建物に添えられる。後は角度を調整し自分の腕も使って殿下の影に隠れた。日も当たらないからこれなら見えない。


「ソミア」

「静かに」


 足音が近づき止まる。視線を感じて殿下の首に回した腕に力をいれた。近づく殿下からは上品な香水の香り。妙な緊張感、止まった足音が再び動き、遠ざかったのが分かると、どっと疲れが押し寄せた。


「行ったね」

「……よかった」


 腕を離す。路地裏で男女が密着してる現場なんてただの逢瀬に見えるはずだ。うまく誤魔化せてよかった。


「ありがと、ソミア」


 機転がきくねと頭上から笑う音がした。顔を上げると思っていた以上に殿下の顔が間近にある。


「っ!」


 離れようにも狭すぎる路地では敵わない。


「おや、今気づいた?」

「も、申し訳ありません! 今すぐ出ます」

「えーいいよ。今すっごく役得だし」


 と言ってその腕を私の腰に回してさらに引き寄せた。抵抗とばかりに手を殿下の胸に当てて離れようとしてもびくともしない。


「なに? さっきはあんなに積極的だったのに」


 喉をくつくつ鳴らして嬉しそうにしていた。からかっているわね。


「殿下、無礼を失礼致しました。離してください」

「えーやだー」

「殿下!」


 ふふふ、ソミア顔真っ赤でしょと笑われる。暗くて見えないはずなのに、当たっていた。顔中というより全身熱い。恥ずかしくてたまらない。


「あーソミアを抱き締められるなんて最高だよ」

「もう充分でしょう! 離して!」

「このまま口付けしたい」

「だめです!」

「いいじゃん」


 押してもびくともしない。背の丈も同じで華奢な殿下はもういなかった。私よりも背が高く、見た目細身なのに逞しい大人の男性になってしまった。そんな当たり前の事実が私を惑わす。混乱してはだめ。動揺を隠していつも通りにしないと。


「じゃあせめて名前呼んで」

「え?」

「名前呼んでくれたら離す」

「…………」


 仕方なかった。早く脱したいし。


「……シレ」

「うん」


 もう一回と言うので応える。


「シレ」

「うん」

「離して」

「……やっぱ口付けしようか」

「どうして?!」


 と再び別の足音が二つ聞こえた。

 まさか戻ってきたのだろうか。でも再び逢瀬に見える様な密着は今できない。

 するとすぐ聞き知った声がした。


「シレ?」

「兄上!」


 よかった間に合った。

 私のメモ書きは二つ。執事には執務室の机の上に、あとは出入りのとこの騎士に第二皇子宛にもう一つ渡していた。殿下の迎え用で。本来第二皇子に頼むのは越権行為にも考えられるけど、今回は止むを得ないと思う。

 仕方ないとばかりに殿下に離してもらい通りに出た。


「帝都に出ると聞いたから迎えに来たが」

「ありがとうございます」


 不審な態度をとらないあたり私がしたことを分かっていたのだろうか。


「シレも視察を?」

「まあそんなとこです」


 笑いながら通路を進むと大通りにはユラレ伯爵令嬢もいた。


「ヴォックス、そちらにいましたか」

「ああ、裏通りの路地に」


 まさか騎士団のトップワン・ツーのお出迎えになるなんて思ってもみなかった。いえ、殿下が皇子である以上秘匿しないといけないことだし御二人なら適任ではある。


「敵がいるなら倒しますが」

「いいえ、ユラレ伯爵。大丈夫です」

「そうですか……」


 なんで少し残念そうなんだろう。ユラレ伯爵令嬢の意図がよく分からない。敵と戦っていたらもっと大事になっている。


「ですが兄上、やはり治安の問題は重要ですね」

「そうだな。騎士団の再編成や見回りの強化もしているが、通りの構造上、目が届かない部分が多い」


 真面目な話が始まった。そして用意された馬車に乗る。

 第二皇子とユラレ伯爵令嬢は馬に乗った。馬車は目立たないよう皇族の紋章がないもので、暗い分第二皇子だと気づかれないはずだ。


「あと少しだったな~」


 馬車の中、殿下が不満そうに言う。


「あ、でも僕が誠実な男だって示すにはしない方がよかった?」


 でも口付けしたいのはソミアだけだよと笑う。


「帝都に出る時は護衛をつけてください」

「分かったよ」


 言うか言わないか最後まで悩んだ。言うべきではないのだけど、さっきの密着で心乱されたからか、口が開いてしまう。


「……今日は楽しかったです」

「え?」

「不謹慎なのは理解していますが、殿下と二人で街に出て……とても楽しかったと、思います」

「……」

「ありがとうございます」


 座ったままだったけど礼をとった。殿下は目を開いて驚き少し身体を震わせた。


「そ、そ、」

「殿下?」

「ソミアああ!」


 腕を広げて飛び込んできたので端に避けた。顔をぶつけてあいたたと言いながら自席に戻る。たぶんわざとだ。


「今のは抱き締めていいとこだと思わない?」

「いいえ」


 もーと言いつつも殿下が嬉しそうに笑う。同じ気持ちであると嬉しいと思った。

ちゅーできちゃえばよかったのにね!(笑) 寸止めといえば寸止めかな? まあ誠実な男ならきちんと了解を得てやろうぜということでね!ね!寸止めヒャッハー!

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