16話 双子の護衛騎士
「あら」
「ん? どうしたの、ソミア」
私の視線を追って見つけた先に表情を曇らせる。いくら人がいないからと言って、殿下の立場でそんな風に顔に出していたらいけない。
「フィクタ? どうしたのさ」
「……いいえ、マジア侯爵令嬢ではなく、その護衛騎士が」
「騎士?」
彼女はいつも一人騎士を連れている。帝国の騎士団所属ではなく、彼女が自ら連れてきた騎士だ。だからか周囲とは少し違う雰囲気を持っている。
「まさかソミア……僕というものがありながら」
「違います」
冗談だよと肩をあげる。そもそもそうなったら僕何しでかすか分からないけどねと軽く笑っているけど、正直冗談ではなさそうなので勘弁してほしい。こういう時の笑顔は結構怖いわ。
「マジア侯爵令嬢の護衛騎士、今日は久しぶりに弟の方だと」
「え?」
「最近兄の方が主でしたので」
「ちょっと待った!」
何を焦ったのか走ってすぐ側の同僚宰相の部屋に飛び込んで書類を渡し、すぐに出てきてこちらに走ってくる。
「行くよ」
フラワーガーデンに行くらしい。早歩きの殿下についていけず、もたもたしていると殿下が「ごめん」と苦笑して私の手をとった。
「殿下!」
「このあたりからは人いなくなるし大丈夫」
殿下の息がかかった場所だから。でもそういう問題じゃない。
手を繋いだままフラワーガーデンに入り、ソファに座るものだからつられて私も座る。お茶を淹れたいところなのだけど。
「さっきの、なに」
「というのは?」
身体を捻り向かい合う。殿下が真剣な瞳をしていたから真面目な話だ。
「フィクタの騎士に兄とか弟とかいるの?」
「ああ……はい、います」
「どういうこと?」
「あの騎士は双子です」
「え?」
私に双子の兄がいるからか、違いが分かってしまう。たぶん他の人には知られていない。事実マジア侯爵令嬢が騎士を呼ぶ時は兄でも弟でも同じ一つの名前でしか呼ばないし、二人つけるならその登録が必要だけどそれをしていなかったはず。
「顔に大きな違いがないので分からないと思います。ああ、右耳たぶ裏に小さな黒子があるかないかの違いが唯一分かりやすい違いかと」
「兄と弟っていうのは?」
「それは勘です」
私自身が双子だから、なんとなくそう感じただけ。もしかしたら逆かもしれないけど、兄や弟という呼称をつけないと説明しづらい。
「……片方が護衛している時もう片方を見たことある?」
「いいえ……ですが城内では見かけていません。マジア侯爵令嬢の私室にいる可能性もありますが」
「……」
殿下が口許に手をあてて考えている。小さな変化だったけど伝えておくべきだった。下働きの現状を優先しすぎていた傾向はある。双子の護衛騎士という違和感について敏感になっていれば、殿下のお役に立てかもしれない。
それこそ最初に違和感を抱いたバルコニーでの御披露目の時に伝えていればよかった。
「御報告遅れ、申し訳ありません」
「いや、いいんだ。ソミアには別のこと頼んでるし、元々ソミア自身が双子だからあまり気にならなかったんでしょ?」
「……はい」
殿下はこういう時でも激昂はしない。マジア侯爵令嬢に関わることはアチェンディーテ公爵の死に繋がっている可能性がある。殿下が目の色を変える唯一の事だ。だから本当はすぐに伝えるべきだったと思う。
「…………よし」
「?」
考え終えた殿下が顔を上げる。
「街に出よう」
「はい?」
「メルが一度、フィクタの騎士が帝都に出たって言ってたんだよね」
おそらく片方が街を行き来して、片方が側付きとしている。
登録は騎士一人。呼び方も一つ。
これだけの情報だと、何かを意図して行動していると思われても仕方がない。
「……しかし殿下、帝都に出るなら護衛騎士を連れ、馬車も用意し」
「二人だけで行くんだよ」
「殿下、いけません」
「えー……お忍びで帝都で逢引きって魅力的じゃない?」
「逢引きではありません」
ふざけている場合じゃない。単身帝都に出る危険性を考えてほしい。私は一介の侍女でしかない。実は腕っぷし最強です、なんてことはないんだから。
「僕、魔法使えるから大丈夫」
「万全な状態で帝都に出るべきです」
「この庭一帯と同じように罠系魔法何重にもかけるし、ソミアを危険な目に遭わせない」
「私の事はどうでもいいのです。殿下の御身が第一です」
「それだけ僕を意識してくれてるのは嬉しいけど、それは頂けないな。ソミアはまず自分を大事にしなきゃ駄目だよ」
論点がずれ始めた。兎に角いけません、と再度強く言うと殿下が唇を尖らせる。子供のように拗ねてきた。事の重大さを考えて欲しい。
「じゃ皇子としてソミアに命令する」
「殿下!」
「僕と二人で帝都に出る。今すぐ」
「殿下!」
「というわけで、着替えようね。こんな時の為にソミアの服用意しているんだあ」
殿下の私室に戻ってすぐにワンピースが出てきて少し引いた。もう揺るがない殿下の主張に溜め息を吐く。こっそりメモ書きを残して殿下と帝都に出る覚悟を決めた。
一人で行かせるより私がいた方がいいのかはさておきとして。
次回はデート回ですぞ!(兼尾行回かな)理由はどうあれ二人でお出掛けです。今まで狭い範囲でしか二人でいなかったので新鮮ですね~!私の書く小説にデートは必須ですよ。