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15話 狩猟大会の裏側で

 執務机に噛り付いて仕事をこなす殿下に新しくお茶を淹れる。


「殿下は出席されないのですか?」

「それどころじゃないからね」


 殿下の父親、皇弟主催で狩猟大会が開催された。皇族では第二皇子と婚約者のユラレ伯爵令嬢のみ参加で、第一皇子や殿下は参加しない。

 殿下は懇意にしていたアチェンディーテ公爵の死について調べている。犯人は分かっているのに物証がでない。そして公爵が担っていた仕事がほとんど全て殿下にのし掛かった。多少の振り分けをしても公爵が仕事を持ちすぎていたせいで全体数が大きい。聡明とはいえ殿下はまだ十代、無理をしているのは嫌でも分かった。


「狩猟大会は兄上に任せているし、父上の主催だ。それにレックス兄上もフィクタも出てこないよ」


 レックス兄上は狩りが不得意だからねと付け足される。

 帝国では娯楽の要素が強い狩猟を行っていなかった。貴族の趣味としても発展しなかったから皇族が不得手なのは仕方ない。


「殿下も出ないのですか……」


 あいた時間はアチェンディーテ公爵のことばかりだ。フラワーガーデンも行かなくなる日が出てきた。下働きの改善も公爵の死があった手前、中々手が出せない。なにより第一皇子と婚約者が根回ししたのもあり、物流や搬入経路を完全に塞がれてしまう。新たなやり方を考えなければならず難しかった。


「うん?」

「?」


 殿下が顔を上げて首を傾げた。少しクマができている。バルコニーで話した時のアチェンディーテ公爵とかぶった。どう足掻いても嫌な予感しかしない。


「僕が狩ったら、その毛皮つけてくれるの?」

「え?」


 殿下が獲物を狩ったら、テンであれば首巻きになるように毛皮が加工される。

 その品を殿下から私に贈られて私がもらうかどうか。ドレス同様もらったら大問題になるのは明らかだ。


「分不相応です」

「って言ってもらってくれないだろうなと思ってやめたんだよ」

「御自身で着るものにすればよろしいのでは?」

「折角なら好きな子に贈りたいじゃん」


 兄上はそうするみたいだし、と少し唇を尖らせた。拗ねているようだ。第二皇子はユラレ伯爵令嬢と互いの毛皮で贈り物をしあうという。真面目な二人だけど可愛いことをしているのね。

 にしても殿下はそもそも狩りの経験がなかった気がする。十歳の頃から知っているけど、狩りに参加なんて聞いたことがなかった。それ以前だと幼すぎるだろう。


「狩り、できるんですか?」

「はい?」


 おっといけない、口が滑った。殿下になんて失礼を。


「できるよ! ソミアが獲物を受け取ってくれるの待ちなわけ!」

「はあ……」

「もー! 全然意識してくれないんだから」


 と不満げに眉を下げる殿下に安心してしまった。アチェンディーテ公爵のことがあってから人が変わったようだったけど、まだ人だ。殿下のままでいてくれている。


「良かったです」

「え?」

「殿下がいつも通りなので」

「…………え、わ」

「?」


 殿下が目を開いて驚いた。少しだけ頬が赤い。

 その後頭を抱えた。忙しない動きね。


「もー……」

「いかがされました?」


 がばりと頭が上がってばっちり目が合う。


「ソミアが庭いじり以外で笑ったから」

「えっ」

「え?」


 自覚ないの? と前のめりになる殿下。

 まずい、これはとんだ失態だわ。庭いじりはもう仕方ないとしても普段はきちんとしないといけない。


「ほだされてきた?」


 私の僅かな動揺を感じ取り、私をからかうような笑みを張り付けて言ってくる。こういうとこは意地悪なので好きになれない。誠実な男性って人をからかうとは思えないのだけど。

 御祖母様の教え通りの顔を意識してしっかり作れたと自負できた所ではっきり、だけど平坦に応えた。


「いいえ」

「ちぇー」


 ほだされているかなんて今更だ。わざと言っているのだろうか。

 レクツィオがこの場にいたら、いやらしい笑みを浮かべてるでしょうね。


「……」


 淹れたお茶を飲んで、今日も美味しいよと笑ってくれる。それだけでいいのに。


「あ、そうそう。今日からソミア、僕の隣の部屋使ってね」

「はい?」


 私室の一部を作り替えて棚の向こうに小部屋を作ったらしい。

 外廊下からもきちんと扉をつけて入れるようにしていて、殿下の部屋と繋がっている。


「内扉は鍵がかかりますか?」

「うん」


 私側から鍵がかけられるらしい。殿下側からはなしと。それならギリギリ我慢できる? いやでも下働きが殿下の隣部屋っていうのはおかしい。ましてや内扉で行き来自由だなんて問題だ。

 側にいろとは言ってたけど、これはさすがにやりすぎでは?


「……殿下、やりすぎでは?」

「言ったでしょ。失いたくないって」

「しかし」

「内扉は鍵かけて棚で隠しておくから。ソミアが使いたくなったら扉開けて棚を動かせばいいし」


 棚は動かしやすくしているらしい。そこに配慮いるの? 開けたくなる日がくるとも思えないし。

 結婚したら夫婦の部屋と称して行き来するなんてことは一般貴族の家の造りではあるかもしれないけど、私達はそもそもそういう関係ですらない。

 でもおそらくこれも殿下の用意した逃げ道だ。私の意思で鍵がかけられる。だから強引に隣部屋を用意することは目を瞑ってということだろう。

 ここ最近の殿下は私の声が届かなくなってきた。今のようにいつもの殿下でいてもらう為に私も変わらないといけない。私だって殿下を失いたくないもの。


「……分かりました」


 やった! と喜びに破顔する。


「ソミアが安全な場所にいるって分かるだけで安心して眠れるんだよね」


 だから側にいてほしいと。アチェンディーテ公爵の死があってから殿下は度々口にする。側にいて欲しい、失いたくないと。その想いが臣下に対してのものだけならよかったのに。


「あ、僕のベッドで一緒に寝てもいいよ?」

「謹んで辞退させて頂きます」


 ちぇーと残念がる殿下が私の知る顔であったのが救いだった。

祝日の為、1日2回更新します!

隣の部屋はさすがにおかしいよと思いつつ。通常の下働き部屋だと確実に息の根止められそうだし、そうなると物語終わるのでね…にしてもシレは狩りできるのだろうか(疑問)。

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