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13話 デビュタントお断り

「ありがとう、いつも助かる」

「勿体無い御言葉です」


 殿下の庭には毎日第二皇子がやってくる。婚約者であるユラレ伯爵令嬢に花を贈る為だという。真面目で誠実、しかもマメだ。毎回意味を考えて一輪だったり、小さな花束にして持っていく。


「しかし、俺がこの庭に入ってよかったのだろうか?」

「第三皇子殿下がお決めになることです」


 当の本人は傍らには沢山書類もあるけど、小さなフラワーガーデンのソファで優雅にティータイムを過ごしている。書類に目を通しているからか、私達の会話は聞こえてないようだった。

 私と目が合うと、にこりと笑う。しかし、と言葉を続ける第二皇子に顔を戻した。


「ここは君とシレだけの場所では?」


 殿下が私に贈ろうとしたことを知っているらしい。それで遠慮しているのね。


「第三皇子殿下のご意向が最優先かと存じます」

「しかし恋人が逢瀬で使う場所に俺が入るわけにもいかない」

「んん?」


 私の顔がかたまった。今なんと?


「恋人?」

「ああ、君とシレはそういう関係なのだろう?」

「……違います」


 誰だそんな嘘を言ったのは。

 まあ十中八九殿下なのだろうけど恋人ではない。形としては殿下が私に告白したで終わりだ。ああでも皇子としての面子があった? でも知っている人間には恐らく限りがある。殿下がべらべら広めるはずもない。となると兄である第二皇子だけに話したと捉えていいだろう。そこで見栄をはる必要はないように思える。


「違うのか」 


 とても信頼してるように見えたのだが、と第二皇子。

 信頼と恋愛は違う。信頼だけで恋愛には発展しない。


「俺は君とシレは似合いだと思っているんだが」

「光栄ですが、私と殿下はそのような関係では御座いません」

「そうか……」


 何故第三者の第二皇子が落ち込むのだろう。兄として心配なのだろうか。なら侍女に現抜かしている姿こそ落ち込むべきところでは?

 と思いつつも余計な事だと飲み込んだ。花を選んだ第二皇子は殿下の元へ戻り対面のソファに座った。


「ここで仕事をしているのか」

「あ、すみません兄上」


 仕事をする手を止めて兄に向かい合う。続けてていいと第二皇子がいうも殿下は彼に向き合ったまま休憩すると言った。すぐさまお茶を淹れ直す。


「いい花はありました?」

「ああ。いつも助かる」


 この二人の関係は非常に良好だ。第一皇子と二人はいまいち仲が良くない。簡単に言えば現皇帝派が第一皇子、皇弟派が第二皇子と第三皇子だからだ。


「ステラモリスの件を知っているか?」

「ええ、特別な治癒魔法を使う一族が治めている公国ですね。御祖父様が欲しがってる」

「そうだ」


 難しい話が始まった。今、現皇帝は以前ほど表に出てこない。戦いも第二皇子が陣頭指揮をとり、対話を主とした併合へ動いている。


「ステラモリスの話をし始めたあたりから御祖父様の体調が悪くなりましたね」


 殿下が恐ろしいことを言った。なにかしら理由があって現皇帝の容態が変わったかのような言い方だ。その理由がステラモリス公国?


「やはりか」


 第二皇子が頷く。待って、これ完全に私いたらだめな会話じゃない。

 今すぐこの場を立ち去りたかった。聞かなかったことにしたい。


「兄上は気にしないでください。僕の方で調べを進めます」

「しかし」

「兄上には騎士達の統率と戦いの前線を任せています。内々の事は僕の役どころですよ」


 笑う。少し無理をしているように見えた。


「……無理をしていないか?」


 さすが兄弟。些細なことでも察するのだろうか。というか今の私の感覚は正しかった。忘れないようにしよう。


「父上が継いだら併合国が奮起します。対応できるのは兄上しかいません」


 再び恐ろしいことを言ってきた。二人は代替わりの話をしている。現皇帝に対して不敬とされることだ。


「……分かった。こちらは騎士達の指導や奮起に対する想定への対策を強化する。中の事はシレに任せよう」

「最善を尽くします」


 恐ろしい話はここで終わった。

 第二皇子が真剣で重い話から、なんてことなしに軽く話を振る。


「シレはデビュタントどうするんだ?」


 第二皇子のデビュタントはレースノワレ王国併合とその後の親善試合等で有耶無耶になったから気になるのだろうか。


「えー、僕やりたくないんですよねえ」


 またひどい発言だ。皇子がデビュタントの年はしっかりやるべきだと思う。


「俺はきちんとできてないからシレの時は今から準備してやった方がいい」

「なら今からでも兄上の代のデビュタントしちゃいましょうよ」

「父上が控えるよう言っただろう。父上の誕生日祝いと一緒に催すことで話がついた」

「えー……」


 嫌そうな顔をしていた殿下が、あっと声を出した。閃いたみたいな顔をしている。


「ソミアもデビュタント出るでしょ?」

「いいえ」


 不満の声があがった。第二皇子も意外だという顔をする。


「何故か聞いても?」

「……個人的な理由ですので」


 頭を下げて断った。本来きちんと応えるのが侍女としてのあり方だろうけど話しづらかった。子爵程度の身分で出るのは分不相応だし、なにより実家を立て直す為の仕送りをしている身だ。デビュタントにお金を使う気はさらさらなかった。


「僕がドレス一式用意するから一緒に行こうよ」

「結構です」


 それなりの身分で将来を約束している令嬢ならまだしも、下働きが殿下からドレスを賜るなんて、それこそ大問題になる。


「ちぇー。ソミアが一緒ならデビュタントこなせそうなんだけどなー」

「会場近くまででしたらお側に控えさせて頂きます」

「目離した隙にソミアが変な男に声かけられるよ」

「そう言われましても……」


 それならと第二皇子が声をあげた。


「ユツィに護衛してもらうか?」

「え?」


 私がですかと問うと、そうだと頷かれる。なんで付き添いの私が護衛されなきゃいけないの。


「ユツィなら警備がてら護衛をこなせる」

「そういう問題ではないかと」

「駄目ですよ! 二人は王族として会場に入らないと!」


 殿下の言う通りだ。王族とその婚約者は正装で臨むべきだ。


「あ、ならここで待っててもらおうかな?」


 いつも暖かい時期にやるし、と殿下。


「庭の手入れをすればいいということですか?」

「うーん……まあそれでいいかな?」


 妥協すると言うけど、ここの手入れは仕事の一つだ。何も問題ない。

ヴォックス「違うのか(´・ω・`)ショボン」、ソミア「(;´・ω・)」、少し離れた所で様子を見るシレ「( *´艸`)今日もソミア可愛い」な感じですかねえ(笑)。ヴォックスユツィがシリアスもだもだしてる時、シレの脳内は平和。

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