「心優しき王ーー死す」
ここから下、本編となります。
俺が目を覚ましたとき、王室の外は火の海に包まれていた。
燃え盛る炎の中で、我軍の純白の騎士と対照的な漆黒の騎士が刃を交え、魔法を交え、激しく交戦しーー
ここアルカディア王国の象徴である王室を攻防していた。
「……何事だ、これは」
「王様っ! 出てきてはなりません!!」
側近の家臣、国王補佐官のステインが敵の攻撃をその大きな大剣で防ぎながら後方へ大きく退く。
私の元へ駆けつけると前に立ち、周囲を警戒しながらこう告げる。
「謀反です……弟君! コジュル様が謀反を起こしたのです!!」
ステインは歯を食いしばる。
コジュルーー俺の弟であり、前国王ゼノン・ガルドフの次男。
コジュルの兄であり、現国王である俺、ディオル・ガルドフは父ゼノン・ガルドフの死後長男ということもあり王権を譲り受け、ここアルカディア王国の象徴となった。
そのことをよく思わない者達が多くいたのは、わかりきっていた。
古の時代から、国の全権を譲り受けるそれ即ち反乱が起こることの前触れとされてきたからだ。
アルカディア王国が誕生し一万と三千年、国王が変わるたびに謀反は起きた。
しかし、しかしーー
「……何故だ」
「そりゃ理由は一つでしょう! 優しすぎる温厚な王は、この国に不必要……そして地位欲しさ……しかないでしょう」
そう、俺は優しすぎた。
それは自覚しているし、今もなお国王としてこのままではいけないとわかっている。
代々、アルカディア王国を治めてきた国王(御先祖)達は戦争を厭わず、背く者の首はすぐに切り、独裁的政治の行いを続けてきた。
比べて、その内政を変えようと国を変えようと改革を行った父ゼノン・ガルドフは心優しき王であった。
民の不平不満に耳を傾け、重臣達を一新し、他国との友好関係を築き、生前一度として戦争を起こさなかった。
その意志を受け継ぎ、全権を譲り受けた俺は更なる改革に乗り出したが、若さゆえか覇気のなさか、着いてくるものは少なく、何故か対照的な暴君の弟のほうにみな着いてしまった。
それでも、ここ三年間国は回り続け、不穏な動きも一切感じ取ることなく平和を送っていた。
歴史書を読んでも、王の弟が謀反を起こした事例は今一度としてなく、そして武力行使での謀反もまた例に含まれず。
暗殺はあれど、堂々と正面切っての対立戦争は歴史に新たな記憶を残す事態である。
「ステイン……ステイン!!!!」
「はい! 王様!!」
「王命を授ける! ……逃げて、お前達でまた一度全権を取り戻せ……」
「ーー!?」
こうなったのは、私の甘さが故に招いたと全てを悟るのに時間などいらなかった。
ならばすることは一つしかないと、閃くのもまた時間などいらなかった。
「これは王命だ……ーー皆の者よく聞け!! 我アルカディア王国の王であるディオル・ガルドフは逃げも隠れもしない!! 堂々と私とやり合おう……全権がほしければこの私をひれ伏せてから物申すがよいっ!!」
「王様それはなりませぬ! それならばこのステインも共に王様とーー」
「我がアルカディア王国の心優しきそして勇敢な騎士、官房、英雄達よ!! 私の命を胸に刻め、私の命を持っていけ、私の目指すアルカディアの未来をーー託し必ずや奪還せよ!! 全員の職を今より解雇……自由とし、最後の王命を授けこれより私は修羅となる」
我軍、敵軍、すべての動きが止まり、炎や風、舞う灰でさえ止まりそうなほどに静寂が王宮一体を包んだ。
私を背に、果敢に護衛を続けたステインが先ず、こちらに向き直って片膝をつく。
涙が地面にポロンと、落ちては滲む。
我軍の騎士が次々に私の方へと向き、片膝をついていく。
王室の外からも、甲冑や鞘の音が響き残る全ての者が私に最後の忠誠を誓うと見せた。
「全員私の魔法で遠くへ送る。これ以上、お前達が血で血を洗う戦はやめよ。そして、ここまで守り抜いてくれたこと、心より感謝する」
「「ーーブオッ!!」」
王宮の至るところから、忠誠を誓う言葉ーーブオが木霊する。
「アルカディア王国に……栄光あれ!!」
「「ーーブオオオオッ!!」」
涙を交える者、喉がはちきれんばかりに叫ぶ者、アルカディア王国に全てを尽くし私に全てを尽くしてきた者達の最後の忠誠を聞きながらーー
私はざっと三千しか残っていないであろう全軍を一斉に友好国スガム合衆国の山奥へとテレポートさせ、この身一つで王座を前にーー残った。
「さあ、ここからが本当の戦争だ野蛮人共。奪いたくは……奪ってみろ。一筋縄ではくれてやらんがな」
これが、アルカディア王国一万三千年の歴史の中で、初の兄弟間での謀反そして、
ーー初の王直々に魔術を解放をした瞬間である。
ーーーーーーーーーー
気がつけば、朝日が昇りきって野鳥達が空を自由に飛んでいた。
「兄さん、一人でよく頑張ったね〜褒め称えるよ、あんたは武において天才だ、フハハハハッ!!」
目線を落とすと、目の前では俺が昨晩まで座っていた王座に弟コジュル・ガルドフが足を組み笑いながら手を叩いている。
夜中随分と長く争いを繰り広げた結果として、王室は至るところが壊滅し、何とか三本の大柱が支えとなっているほどに破壊が進んでしまっている。
天井は俺が拘束され、座っているところだけぶち抜けている。
まるで天が歓迎しているようだ。
王宮も、至るところで破壊が起きているだろう。
「我軍は三十万いた。兄さんが前線に立つ前で既に十万ほどの戦力を削られたけど……まさか兄さん一人で残り十万をきってしまうとはいやはやこれはなんだ? 代々ガルドフ一家は大して魔術に長けていないのに、まるで鬼神のようだったお見事、天晴だ」
「……それがどうした」
「ふぅん、腑に落ちないだけさ。なに、どうせ兄さんはこれから打ち首、国民への晒し首となるだけ。なんら問題はないってことだけど……」
少し眉を寄せて、何やら考えてコジュルは再度口を開く。
「それにしても不思議でならない。神の御加護でも受けているかのような今まで一度も感じたことのない魔力の強さ。世界規模で見ても五本の指に入るほどに強大な力だった」
「何が言いたい」
「反対に悪魔の子だってことだよ。王は魔力を持たず、王は悪魔の施しを受けず、神の導きを信じるべからず」
「馬鹿言うな、悪魔の子なのはお前だ……コジュル。馬鹿な口は身を滅ぼすぞ、王でありたいなら考えて発言はしなきゃな、馬鹿野郎が」
拘束され、全身から血を流しながらも命乞いせず、平然と言い返す俺の態度に気が食わないのかコジュルの顔は一気に険しくなる。
「度胸だけは立派だな、お前」
「胸糞悪いのだけはいっちょ前だな」
「命乞いするなら、今だけだぞ。聞いてやるけどどうする」
「命乞い? 甘ったれるな、俺はこの国の王だ。どこに命乞いする王がいるんだ? 王の自覚を持ってそこに座れよ、甘ちゃんが」
「最後まで虫唾が走らなテメェわよ!! 今すぐこいつの首を跳ねろ!! 死罪だ、あの世に送ってしまえ今すぐにだ!!」
短気なのかただの馬鹿なのか。
弟は死刑執行人に怒鳴り声を上げて指示する。
死刑執行人が俺の周りをぐるぐると回り始め、大剣を何度も何度も振り回しながら少しずつ距離を縮めてくる。
もうすぐ俺は天へと旅立つ。
御先祖達に、合わせる顔がないがそれでもやることはやったと胸張って行くことを決めて目を閉じーー
「やれ」
弟の冷酷な一言を最後に、俺の意識はこの世から途絶えた。
ご愛読いただき誠にありがとう御座います。
最後までよんでいただけましたこと、とても嬉しく思います!
初のハイファンタジー作品、なろう作品とドキドキで胸いっぱいになりながら投稿させていただきました。
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