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水鏡のミオ  作者: 雪柱
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プロローグ

長文を書く力をつけるための練習文です

拙作ですが、ご容赦下さい

 気づけば透き通る泉の中に立っていた。

 

 寒くはないが入り続ける意味もないので縁を掴んで這い上がる。

 不思議と服も体も濡れておらず、少女は自らの手を()めつ(すが)めつする。   

 這い上がった真横には石碑があり読んでみるとこの泉は禊の泉であると書かれていた。

 改めて泉に向き直り水面を覗き込んでみる。


 「悪霊ですね!?」


 振り向く間もなくバシャッと水のようなものが頭から降りかかってきた。


 少女の世界の始まりはそんな風だった。


※※※


 ぬぼーっと少女は立ち尽くしていた。

 

 後ろからはキャンキャンと喚くような大きな声がしているのだが、特に気にはならなかった。

 それよりも目の前にある泉に映る姿に視線が釘付けになっていた。

 

 まっすぐな黒髪を肩まで伸ばした幼子の姿だ。

 黒目がちな大きな瞳がやや眠そうにこちらを見つめ返している。少女が左を見るとその子も左を見た。正確には鏡写しであるから右を見ているのだが、細かいことはいいだろう。

 それはただの水鏡に自らの映る姿である筈であったがやけに気にかかった。


 「悪霊!退散!」


 バシャッとまた音がして水が飛んでくる。

 それ自体は少女は気にならなかったが、水滴が泉に当たりそこに映る姿を消してしまったことでついに後ろを振り返った。


 「なんです!やる気です!?」


 そこには警戒したように大きな水瓶と柄杓を構える女性がいた。

 

 格好は黒を基調とし青色で淵などが飾られた清楚で美しい装束であったが、やけに乱れておりまるで一人で格闘した後のようで、本人もまた赤毛に濃い青の瞳の美しい女性であるのに髪は乱れに乱れ、表情は引きつっているため残念な仕様となっていた。

 

 少女が何も答えずにその姿を眺めていると、女性の顔はますます引きつった。

 水瓶と柄杓を構えて今にももう一度かけてやろうというポーズだ。

 場に緊張感でも走りそうなものだが少女がなにも気にしていないで立っているだけなので変な空気が流れていた。

 そんな時女性の後ろの入口から足音がして誰かが駆け込んできた。


 「何事です!」

 

 それはまだ歳若い青年だった。

 紺色の几帳面に揃えられた長い髪が風に靡いている。

 女性の声を聴き急いできたのだろう青年は、女性の視線の先のミオを見た。

繊細そうでいて几帳面そうな少しきつめの顔には、初め少しの困惑と小さな怒りのようなものがあったが少女を見つめた瞬間その表情は驚愕に彩られた。

 だが少女にはそんな現実よりも青年の瞳が気にかかった。

 

 なんと美しい湖だろう。


 薄水色の透き通ったまるで湖面のような瞳であった。

 泉に見とれていた時のようにその瞳に釘付けになった。

 驚愕から落ち着いたのか青年がまた困惑の色を瞳に載せるが、そんな事は気にならぬほどその青年の瞳の色が気になっていた。


 「シュトーレン様に何かする気ですね!?悪霊め!」


 そう言って騒いでいた女性が構えていた柄杓でまた少女に水をかけようとした時、女性の後ろに立っていた筈の青年が女性の前に立ちはだかり、結果青年の濃い紺の衣装はびしょ濡れとなった。


 「シュ、シュトーレン様!?なんで」

 

 慌てたように水瓶を下ろした女性はどうしていいのかわからない様にあわあわと慌て始めた。

 最初から慌てていたような気もするが。

 シュトーレンと呼ばれた青年はびしょ濡れの姿でため息をつくと女性を諭し始めた。


 「アリエット。まず何事も落ち着いて一呼吸置きなさいといつも司教様にも言われているでしょうに」

 「落ち着けって、落ち着けませんよ!悪霊ですよ!」

 「どこが悪霊ですか、シュカーデルマリ教の方々の耳に入ったら命が危ないですよ」

 「ええ!?命が!?」


 シュトーレンが怖い顔をして言うとアリエットは目を飛び出しそうなまでに開いて驚き、

 どうしてそんな怖いことを言うのかとでもいいそうに水瓶と柄杓を地面に置いて腕を擦った。


 「どうみてもシュカーデルマリ様の愛児ではないですか」

 「ええ!?シュカーデルマリ様の!?どこがですか!?」

 「だからあなたは落ち着いてよく見なさいと言うのに」

 「だって透けてますよー!あの子!聖水も全部すり抜けました!」

 「あなたはなんてことをしてるんですか!」


 何やら二人でわけのわからないことを言い合っている間にも少女はシュトーデンの後頭部を見続けていた。

 シュトーレンはアリエットとの言い合いに気がいって気づいていないが、

 それはもうずっと眺め続けていた。

 この光景を見る人が見たならば恋に落ちた瞬間とでも言ったのではないだろうか。

 それも仕方のない凝視っぷりであった。


 言い合いをしている二人の後ろからまた人影が覗いて少女はそちらに目を向けた。

 黒服に水色の淵の装束の老女たちだ。

 二人は双子のようで瓜二つの顔をしていた。

全く同じ驚いたような表情で少女の事を眺めていたが、やがて気を取り直したように近づいてきた。


 「あらあら愛児(いとしご)さん」

 「小鳥のような愛児(いとしご)さん」

 「どこから迷い込んでいらしたのかしら」

 「どこから招かれていらしたのかしら」

 「何にせよようこそ我らの教会へ」

 「ようこそオルマットテア王国エルハート教会へ」


 流れるように二人で言って少女の頭を撫でようとでもしたのだろうか、

触れようとするがその二つの手はスルッと少女の頭の部分をすり抜けていった。

 二人はあらあら、これじゃお世話ができないわ。と声を揃えて言ってニコニコした。


 「世話は大丈夫」


 と少女が返すと双子はあらあらと両手を両頬に添えてニコニコし、

言い合っていた二人は喋れたのかとでも言うように少女の方を凝視した。

 少女はひとつため息をつく。


 ふと横の泉を眺めると黒い髪の幼子が心配そうな顔でこちらをみていたので、

大丈夫、と口の中でつぶやいた。


双子はそれぞれ不思議そうに左右に首を傾げてから改めて語りかける。


 白髪の三つ編みを左側に垂らした老女が言う


 「私はヘルベラル」


 白髪の三つ編みを右側に垂らした老女が言う


 「私はアルガナル」


 そして二人揃って少女に尋ねた


 「「お嬢さんのお名前も教えて頂ける?」」


 少女は泉から双子へ向き直り小さく頷いて答える。


 「私はミオ。」


 ジッと双子を見つめ返す左目は黒く右目は黄金に輝いていた。

 その目を見てアリエットがあっ!と驚いた声を上げる。

 シュトーレンはそんなアリエットにやれやれと肩を竦めてからミオの方を見て慇懃に一礼した。


 「私はシュトーレン。このエルハート教会にて司祭をしています。」


 そんなシュトーレンにアリエットはヒソヒソと囁いた。


 「あんな小さい子にそんな事わかりますかね?」

 「もっともな意見ではありますが、あなたはまず、そんな幼い子に水をかけようとしたことを反省なさい。」


 言われてアリエットは確かに幼女に水をかけたのは可哀想なことだと、しゅんと肩を落とした。

 やっとミオが悪霊ではない何かであることを納得したようだ。だからと言って自らが何であるかはミオにはよくわからなかったが。


 「神子様、私はシスターのアリエットと申します。無礼をお許しください」


 小さなミオに対して上目遣いで両手の人差し指の先をもじもじさせてアリエットは謝罪し、ミオはどうやら自分が神子というものであるらしいと理解した。

 うん、と小さく頷いて元々然程怒ってもいなかったアリエットを許すとちらりと泉を見た。

 泉のミオはちらりとこちらに振り返りながら優しく笑っていた。覗き見るのをやめてアリエットを見つめながらミオは一つ断言する。


 「ひとつ言っておくと私は10歳だから、幼女ではない」


 先ほどまでミオを伺うように見ていたアリエットはぶっと噴き出した。

 明るい表情になるとハッとするほど美しい女性となるアリエットは楽し気に返す。


 「幼女ですよね」

 「幼女ではない。二桁だから少女。」

 

 水をかけられても怒らなかった()()が年齢などで背伸びしていることが可愛いと思ってアリエットは快活に笑った。

 ミオはムッとしたようだったがやがて諦めた様な表情をした。そしてすぐ無表情に戻った。

 

 「神子って何?」


 その質問には頭が痛そうにアリエットを眺めていたシュトーレンが答えた。


 「神様の愛児(いとしご)のことです。神様が特別に目をかけている存在のことを神子と呼びます。ミオ様の場合はシュカーデルマリ様という主神の内の1柱が特別にあなたに目をかけておられます。」


 ふんふん頷いているミオを、アリエットが本当にわかってるのかな?という目で見つめた。

 ミオはそれに気づいており今の時点で色んな事が頭に浮かんできていたが説明が難しく、または説明しても仕方ないことだと黙っていた。

 

 「なぜシュカーデルマリ様の神子ということがわかったの?」


 ミオの半分は答えがわかっていた質問に対しシュトーレンが明朗に答える。


 「ミオ様の右目が金色だからです。黄金はシュカーデルマリ様の神子以外には持ち合わせない色なので、私たちにはあなたがそうであるとわかりました。」

 「…右目が金色」

 

 ミオは泉を覗き込んだ。ミオには両目が黒目で困った顔をしている少女の顔が目に入っていた。

 だが特に言っても仕方ない事だとわかったので黙っている事にした。 


 「シュカーデルマリ様の神子は前世で不遇であった女性が選ばれるらしいです。その不遇だと思いあたる事はミオ様が語りたくなるまで黙って頂いていて結構です。」


 うん、とミオが頷くとシュトーレンはにこっと微笑んだ。そうするとお固く見えていた顔立ちがグッと優しく親し気になった。双子もニコニコ笑っていて周囲はほのぼのとした空気に包まれた。 


 「そしてシュカーデルマリ様は神子に自分の力もしくは神子の望んだ力を一つ分け与えると言います。その力に関してもミオ様が語りたくなるまで黙って頂いていて結構です。」


 今自分の身に起きていることがそれと関係ありそうだったのでミオはなるほどと頷いた。

 しかし便利な能力である事は間違いないのに何も聞かないとは親切だなという思いも込めて。


 「そこで一つの選択があるのですが、ミオ様はどこか身を置きたい場所はありますか。もちろん今の段階で聞いても答えは出辛い事だと思われるので、その間はこの教会で身を安らげて頂ければと思います。それ相応のお世話を約束いたします。ただ、サハディール王国にあるシュカーデルマリ教は大変大きな教会でそちらで過ごした方がより良い扱いをして頂けると思われます。」


 一息にしかしゆっくりと言い切ってシュトーレンはミオの目線と合わせるように跪いた。

 濡れていなかった服の下側までアリエットが撒いた水で濡れたがそれを気にする様子はなく、ただ子供に親身な大人の姿をしていた。そのシュトーレンの瞳を見てミオは頷いた。


 「ここにいてもいい?食べ物も何もいらないから」

 「子供は沢山食べないと!」


ミオの返答にアリエットが待ったをかけた。それに対してミオは説明する。


「この体は透けている。幽霊と同じ。飲食睡眠不要。悪霊は意外と間違っていない」


シュトーレンとアリエットが驚いた顔をする中、双子が頬に手を当てて、あらまあと声を揃えた。


「「お世話したかったわ、残念ね」」

 

ミオはありがとう、とこの場の皆の顔を見渡して伝えた。


「ではミオ様は私どもの教会でお過ごしいただけるという事で、我々一同喜んでお迎え申し上げます。」

「「「喜んでお迎え申し上げます!」」」


4人とも微笑んで答えた。ミオの殆ど無表情だった顔も少し微笑んだ。


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