表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

第三話 異世界の一日目

3か月ぶりにクソダサラノベの続き書いたよ。

相変わらず一人称や話し方も無茶苦茶のくせにボリュームはまさかの原稿用紙50枚分。

もう少し分けても良かった気がするな。

「うわーっ!!」

テラの詠唱が終わり、閃光が消えた瞬間、地面の感覚が消えた。

突然のことに驚いて、叫びながら、とっさに目を開け下を見ると、水面に太陽が反射して輝いているのが見えた。

恐怖を感じ、瞬時に手足を必死に動かすも、次の瞬間、体中に衝撃を感じ、俺の体は水面に叩きつけられた。

手が水底に当たり、水深が浅いということを理解し、底に手をついて水面から顔を出す。

水が入った目を擦りながら、立ち上がり、周囲を確認するとー。

俺は、周囲の人々からの冷たい視線を一身に集めていた。

周りを見渡すと、同じく何が起きたのかわからないという表情の千歳と、立派な噴水が目に入る。

整理すると、俺たちはもう転生していて、スポーンさせられた場所が噴水の真上だったようだ。

あのクソ女神、ほんとは狙った場所に寸分の狂いもなく転移させることができるんじゃないのかと心の中で思いつつ、千歳の腕を掴み、急いで噴水を出る。

周りの人々の視線を集めながら、うつむきながら無言で広場を立ち去り、近くにあった建物の裏に隠れた。

「あのクソ女神・・・絶対狙ってあそこにスポーンさせただろ」

「っていうかずぶ濡れだけど大丈夫?」

悪態をついたところで、千歳に心配された。

「大丈夫だよ。こっちの世界もどうやら今は夏みたいだし」

適当なことを言ってごまかし、千歳の方を見る。

「千歳は全身突っ込まなかったのか、いいな」

「まあね、靴はずぶ濡れだけど」

千歳が子供のように笑う。俺はひたすら恥ずかしさを心の中にとどめつつ、近くの切り株に座り、周りを見た。

「この中世ヨーロッパ風の建物群を見るに、どうやら本当に俺たちは異世界に来てしまったようだな。・・・くそ、あの女神にもっといろいろ聞いておくべきだった」

「三笠は一瞬だから見てないと思うけど、さっき噴水に落ちた時、色んな人がこっちを見てた。肌が緑色で少し太った人とか、高身長の真っ黒な鎧を付けた人とか、ヒスイ色の髪をした女の子とか」

「それは異世界あるあるだから気にすんな。色んな種族が共存するのが当たり前の社会なんだろう」

「そうなんだ・・・てか三笠こんな世界来たことないでしょ!?」

「まあ、俺たち日本の若者の間で大人気のゲームの中の世界とそっくりだから、何とかなるさ」

一から説明したら面倒なので、説明を簡略化する。

「ゲームの中の世界とそっくりか・・・。じゃあこれから私たちはどうするの?」

「多分、ギルドセンター的なものがあるんだろう」

「ギルド・・・?何それ?」

「ギルドも知らねえのか・・・流石に知らなすぎだろ・・・いやこれが普通の感覚なのか・・・?」

自分と千歳の知識量のギャップに驚きつつ、普通の感覚がわからなくなってきた。

「まあこれから分からん単語もいっぱいあると思うが、俺の語彙力ないオタクみたいな説明より、実際に自分で見たりする方が理解が早いと思うから、まずは実践してみよう。てなわけでもう少し休んだらギルドセンター探すぞ」

「じゃあラノベっていうのもこの世界で調べたら分かるかな?」

「いや、ラノベっつーのは多分こっちの世界じゃ誰も知らない」

「えっ?じゃあラノベって一体何なの?ねえねえ」

「全くめんどくさいな!そろそろ服も乾いたし行くぞ!」

「えっ、ちょ、ちょっと待ってよ三笠ー!」

超が付くほどのド天然であることが発覚しつつある千歳をよそに、まだあまり乾いてない学生服を肌から引っぺがし、通りに出ていく。

噴水広場に出られる通りということもあり、石畳で丁寧に舗装された中世ヨーロッパ風の通りには大勢の人々の往来が見られる。その中には先ほど千歳が言ったようにいろいろな外見の人がおり、顔立ち、肌の色、髪色などもよりどりみどりだ。

「竜人族やエルフ族っぽい人とかも見えるから、結構人間以外もいるんだな、町の人が黒い髪を見て何も言わないってことは、黒髪も結構いるのかもな」

自分の半歩後ろを歩いている千歳にそういうも、反応はない。

後ろを振り返ると、道に立ち止まり建物を見上げる千歳の姿が見えた。

「千歳の奴、完全に中世ヨーロッパ風の建物に魅入られてやがる」

あきれたように独り言を言うも、実は自分も結構この整備された町並みには感動すら覚えているレベルなのだから仕方がない。

「一度こういう町並みをゆっくり観光して回りたかったんだ、ほら、試合で海外行くこともありはするんだけど、試合したらすぐ帰らなきゃだし」

ようやく楓のもとに追いついた千歳がそういうが、今だってそんなに暇じゃない。

今の正確な時間は分からないが、太陽の傾きや、テラが言っていた「現世と異世界は同じ時間が流れている」ということから、だいたい16時くらいじゃないかと適当に考える。さらに自分たちは今日、この世界に来たばかりであるうえ、所持金もない。夜になったらどうなるか分からないが、日没までゆっくりこの世界を観光している暇はない。

「おい、さっさと行くぞ。さっさと有るか無しか知れぬギルドセンターの情報を得て、日没までに寝床を確保しないとマズい」

「わかったわかった、なるべく早くするよ」

そんなことを言ってる間に噴水広場に着く。周りを見渡しても地図らしきものは見えない。

「こうなったら聞き込みだ。あの女神が言うには読み書きスピークは全て大丈夫らしいし、恥じらうことはない。できる限り優しそうな人を見つけよう、あとなるべく人間がいい」

「あ、あそこにいる人優しそう、すいませーん!」

「ちょっと待てー!?」

千歳が話しかけたのは、体全体をを黒い鎧一式で覆った、身長が2mはあろうかという、やばそうなオーラが十分伝わってくる男だった。てか頭も黒い兜をかぶってるせいで素顔も全然見えないのだが。

「すいません、ギルドセンターって知ってますか?」

「あ、ギルドセンターならあちらの北通りを歩いて行って、グレイス通りを右に曲がってすぐ左にある建物がそうですよ。4階建ての目立つ建物なので、すぐわかると思います」

「なるほど、丁寧にありがとうございました!」

意外と丁寧な人だった。しかも超わかりやすかったし。

唖然としているところに、笑顔を浮かべた千歳が戻ってきて、そう言った。

「三笠、今の聞いてた?ほらさっさと行くよ」

「千歳、割と勇気あるな・・・、なんか俺が一気に不甲斐なくなってきたぞ」

千歳の超能天気な性格で、すぐにギルドセンターの情報を掴み、高身長の男の人が教えてくれた北通りを進んでいく。

「どうやらこの都市は平安京みたいに縦の通りと横の通りで構成されてるのかな」

「分かりやすくて良いね」

そんなことを言いながら、曲がる角のあるグレイス通りを目指す。角ごとに通りの名前を書いた看板があったので、グレイス通りにもものの5分程度で難なくたどり着くことができた。

「えっと、たしかここを右に曲がって左だから・・・あれか!確かにすごい立派な建物だな、行こうぜ」

「ギルドセンターとか入るの初めだから緊張するなあ」

「俺も入るのなんて初めてだぞ」

「えっ?初めてなのにわかるの?大丈夫?」

「千歳、まさかギルドセンターが現世にもあると思ってんのか?」

千歳の度を越えた天然さに驚きつつ、ギルドセンターのドアノブに手をかける。

ギルドセンターのドアを開けると、中はたいまつとランタンで薄暗く照らされた石と木を基調とする趣のある、そして喧騒に包まれた空間が広がっている。正面にはカウンター、左右には通路より一段高い空間があり、たくさんの人たちが食事をしたり、話し合ったり、ゲームをしたりしている。

「よう嬢ちゃんたち、ここは初めてかい?ここのことでなんかわかんない事とかあったら俺に何でも聞いてくれよ、情報なら安く売るぜ」

「あんたたち気をつけな、バンディットは極度の荒くれだから関わって良いことないぜ」

「んだよイザベラ、余計なことに口を突っ込みやがって、全く・・・」

目の前に酒臭い剛毛の男が現れるも、青髪のチュニックを着た女にからかわれ、気を悪くしたのか、男は去っていった。目の前で起きた一連の流れに、やはりここは異世界なんだなと感じ、感動を覚える。

「ってかその奇抜な服装、君たちもしかして転生者じゃね?」

「!?」

女にそう言われ、心臓がドキッとした。

「あの、私たちー」

「転生者だったらどうするんだ」

「そんな顔しないでよ、別に取って食いやしないよ」

千歳の言葉を区切り、念押しするように聞くも、女は豪快な笑顔で首と手を横に振り、話を続けた。

「この世界には普通の黒髪もいるんだけど、あんたたちみたいな奇抜な服装をしてる連中は、貴族のボンボンか転生者って相場だ、そしてこんなところに貴族は用なんてないしな、そうだろ?」

「確かに俺たちはこことは違う世界から来たばかりの者だ。この世界で俺たちみたいな転生者はどういう扱いを受けてるんだ?」

「別に、この町には転生者なんてたくさん現れるし、この国はいろんな種族が暮らしてるからな、誰も気にしやしないよ」

イザベラがそう言い終わると、人ごみの奥から自分たちより1、2歳ほど若そうな、マントに身を包んだ金髪の少女が現れた。

「イザベラー、ちょっと話が・・・ってあの人たち誰?」

「ああビアンカ、こいつらは転生してきたばかりの人たちだ。せっかくなんでいろいろ教えてるんだ」

「へえ、この世界に来たばっかなのね、よろしく」

ビアンカと呼ばれた金髪の少女が、笑顔で挨拶してきたので、こちらも挨拶を返す。

「よろしく」 

「よろしくお願いします」

「それじゃ、あたしはちょっと抜けるけど、あとはギルドの店員の方が良く知ってると思うから、じゃあまた」

イザベラに別れを告げ、イザベラはビアンカと共に人ごみの奥へ向かっていった。

「別にこの国は転生者も普通にいるんだな、てっきりバレたら裁判にでもかけられるかと思った」

「まあ、テラさんも色んな人を転生させてきただろうからね」

「まあ普通に考えりゃ当たり前か、話せる人もできて少し気が楽になった気がするな」

「まあね、じゃあ用事を済ませようか」

「おっと、そうだったな、カウンターに行くぞ」


建物の右端から左端にわたって設置されているカウンターでは、たくさんの人間や人外がせわしなく動き回っていて、ドリンクを出したり料理を作ったり、冒険者たちと相談したり、忙しいのが目に取れる。

「あれ、あんたたち見ない顔だね。登録かい?登録は無料だよ。こっちおいで」

こちらに気づいた一人のふくよかなおばちゃん店員に声をかけられ、カウンターへ近づいた。

「あんたたちここに来るのは初めてでしょ?しかもその服装は多分転生者だね」

「転生者ってこの世界じゃどんな感じで扱われてるんですか?」

「別にこの国じゃどうってこたないよ。ただ音楽や芸術の才能がある人が多いわよ」

「それってどういう事っすか」

「何人かここで転生者を相手にしたことがあるんだけど、本当に転生者は色んな知識や音楽を知ってるのよ。きっとあなたも素晴らしい世界にいたんでしょうね、私もいつか行ってみたいわ~」

「待って、それって具体的にどんな音楽なんすか」

「ここで歌うの?ちょっと恥ずかしいけど、少しだけよ」

そういうと、おばちゃんはビブラートのきいた高い声で、俺にとってはよく聞き覚えのある歌を披露した。

「どうだった?これでも昔は王都で劇団員を目指していたのよ」

「いやいや、今でも結構うまいですよ!」

千歳が驚きながら褒めるが、俺はまた別のことで驚いていた。

そして、俺の考えはある一つの答えにたどり着いた。

多分、過去に転生してきた者の中に、現世の歌を広めた奴がいるのだろう。

「ちょっとすいません、色んな音楽をこの世界にもたらした転生者って今どんな生活をしてるか分かりますか?」

「う~ん・・・わかんないけど、この国の国王陛下は新しい文化の発展にも力を入れてるからね。多分今頃は金持ちになって王都で国王陛下から与えられた豪邸にでも住んでるんじゃない?」

「それだ!」

「三笠、急にどうしたの!?」

「千歳、今の話を要約すると、俺たちより前に現世から転生してきた奴が、現世の歌を広めて、自分は何も生みだしたりしてないくせに王様に気に入られて、豪邸に住んでるってことだ!」

「えっ!?それってどういうこと・・・!?」

「つまりだな!まだこの世界に広まってない現世の歌をこの世界に伝えてもしそれが売れたら、俺たちも一攫千金が狙えるぞ!」

気分が高ぶり、千歳に対して自分の考えを主張していると、話を聞いていたおばちゃんが付け加える。

「あー、あんたたちには悪いけど、今まで数えきれないほど多くの音楽が転生者によって伝えられてるからね、もしかしたらもう出尽くしてるかもしれないよ、それに割とあなたたちの世界の歌の中には私たちには良さがあまり分からない歌もあってね、ドクロだかなんだか知らないけど、歌詞の意味が良く分からない歌はあまり人気ないわね」

「それを言うなら多分ボカロだが・・・それでも希望はある!店員さん、最後の転生者がここに来たのっていつかわかりますか?」

「確か一週間くらい前かしらね・・・、あ、あそこにいる黒髪の人がそうよ!彼にもこの話をしたら、大喜びで飛び出してったわよ。せっかくだから話を聞いてくればいいじゃない!」

おばちゃんが指さした方向にいた黒髪の男を見るも、その男は服がボロボロで、さらに死んだ魚のような目をしていて、おまけに全身から負のオーラが漂っていた。多分彼が知ってる音楽は、既に異世界では浸透しているのだろう。俺の中の希望がうっすらと消えていくのを感じる。

「ま、まあいいや・・・。いったんこの話は置いといて、とりあえず今日は最初に言っていた、登録ってやつでお願いします」

「登録かい?じゃあまずはこのマシンに手を置いてもらって、そのままの状態で少し待っててね。」

おばちゃんが取り出したPS4くらいの大きさのマシンの手形が書かれているところに手を置くと、おばちゃんは何回かボタンを押した。

そして機械音がして、一瞬手を置いている面が発光したと思ったら、マシンの横の面の隙間から、「診断結果」と書かれた紙が出てきた。

「この紙に診断結果が書かれているわ」

「・・・ロマンもへったくれもないやり方だな。もっと能力を視る能力を持った人とかいるのかと思ったぜ」

「20年くらい前は、ここにも能力を視る人がいたんだけど、転生者が持ち込んだ技術によって、機械化が進んで、このマシンができてからは、こっちの方が高性能で安上がりってんで、その人はクビになったわ。技術の進歩は良いことだけど、私たちもいつかクビになったりする世の中が来るんじゃないかと思うと怖いわよね、まあそんな世の中が来る頃には私は既に死んでるんだろうけどね」

・・・転生者恐るべし。この異世界のイメージがどんどん変わっていくぞ。

「まあ、診断結果は普通のようね。弓の特殊能力が付いているから、人より少し弓を扱う能力に長けているわね。この紙をもとに、冒険者の登録と冒険者証の発行をするから、あなたもこのマシンに手を置いて。」

渡された紙をよく見るが、見れば見るほどパラメータも普通だ。参考として平均値も載っているが、ほとんどのパラメータが平均と大きく変わっていない。

少し傷心気味の俺をよそに、千歳がマシンに手を置き、おばちゃんが操作をすると、しばらくして診断結果が出た。

「えーっとあなたは・・・えっ!?なにこれ!?敏捷性、正確性、持久力が平均より大きく上回っているわ!こんなの見たことないわよ!あなた凄いわ!戦闘系の特殊能力がないけど、ほぼすべてのパラメータが平均より上だし、普通に転生者の中じゃじゃ強い方よ!」

千歳の結果を聞いて、俺は唖然とした。まあ現世では卓球選手だからこうなるということはわかっていたのだが、改めて言葉に出されるとなんか悔しい。

「まあ、あとは二人の名前とこの数値を元に、冒険者登録と冒険者証の発行をするから。少し待っててね。二人とも、名前は?」

「三笠楓です」

「千歳摩耶です」

「オッケー!じゃあ登録と冒険者証を発行するわ。あそこの大時計の長針が30分を指すぐらいに出来るから、それくらいに来てね!」

おばちゃんが刺した方向にある大時計を見ると、今が17時10分くらいだ。つまり20分ほど待つわけか。

「じゃあ、作ってくるわね」

おばちゃんはそう言い終わると、紙を持ってカウンターの後ろにある暖簾をくぐり、奥の部屋へと入っていった。


「よし、じゃあ俺たちも発行まで少し待つとするか」

「三笠、さっきの現世から来た人に話を聞くのはどう?」

「いや、あいつはやめとこう、見るからに卑屈そうだったし」

「誰が卑屈だって?」

「「うわっ!!!!」」

歩いていたところ、いきなり後ろから低い声が聞こえ、素っ頓狂な声を上げた。

「おいおい、人の顔見て叫ぶなんて趣味悪いぞ」

振り返って見ると、そこにいたのはさっき見た現世から来た人ではなく、イザベラにバンディットとか呼ばれていた酒臭い男だった。

「ごめんなさい。あなたのことを言ってたわけではないんです」

「いや、間違いなく俺の悪口を言ってたな、そうだろ」

「っていうか自分で卑屈って思ってんのかよ・・・」

自分にしか聞こえないような小声で言ったつもりだが、男はそれを聞き逃さなかったらしく、

「おいお前、俺をあまりなめんなよ、俺は地獄耳なんだよ、お前たちが何を言ってるかくらい、俺には手を取るようにわかる」

男が自分のすぐ前に立ち、ひときわ低い声でそう言った。

とんでもない地獄耳のくせに大事な部分を聞き逃すのかと、今度は心の中で愚痴を垂れて、めんどくさい男に絡まれたと実感する。

異世界初日からめんどくさい輩に絡まれるとは面倒なことになってしまった。今日はこれからとりあえず飯と宿の確保をしないといけないのに。ああこの状況、イザベラもいないし、どう対応しよう。

「あのー、地獄耳ってなんですか?」

思考を巡らせている中、千歳が突然そんなことを言ってしまい、男の目の前で吹き出しそうになるのをとっさに堪えた。まあ目の前の男も若干吹き出しているのだが。

「おい千歳、それは流石にバカだろ・・・」

千歳に聞こえるように俺はそう言った。多分男にも聞こえてるだろうが仕方ない。

「ちっ、調子が狂うわ・・・次は覚えとけよ・・・」

男は服で口を拭い、そう吐き捨てると、去っていった。

「なんか知らんが助かった。マジで面倒なことになりそうだったからホントありがとう」

「えっ?いきなりどうしたの三笠!?私はただ地獄耳がどんな人なのかを聞こうと・・・」

「地獄耳ってのは異常なほどに耳がいい奴のことだ。それくらい知っててくれよ、先が思いやられる」

「ちょっとー!私異世界初めてなんだけど!それは流石になくない?」

「はいはい、わかったよ、すいませんね、ほら、じゃあ少しテーブルにでも座って待ちますか」

そう軽くあしらい、歩調を速めて近くの開いているテーブルに向かう。


・・・ん?待てよ?あいつ、異世界初めてなんだけどとか言ってたな、・・・まさか地獄耳を異世界のモンスターかなんかだと思ってるんじゃないだろうな・・・?

テーブルに向かう途中、そんなことを思い、空いている椅子に座った。

千歳も追いかけてきて、テーブルを挟んだ向かいの椅子に座る。

「もう!せっかく異世界に来たばっかりなのに!」

「わかったから、少し静かにしろよ。これが終わったらどうするか考えてるんだよ。」

まだ登録と冒険者証の発行しかしていないから、早めに寝るところを探さないといけない。

もし何も知らない異世界で1日目から野宿とかになれば大変だろう。

「仕方ない、イザベラに聞きに行くか。この町の宿とか、この世界の仕組みを色々とな。」

「イザベラさんならあそこの机で誰かと話してるよ」

「よし、少し行ってみよう」

席を立ち、イザベラがいる机に向かう。

「今月の商工会の売上高はトド派が420万ポート、ジバ派が・・・」

イザベラがいる机に近づくと、イザベラは何か重要な話し合いをしているように見えた。

今は忙しそうだし後にしよう・・・と千歳に言おうとしたが、

「イザベラさーん!ちょっと聞きたいことがあるんですがー!」

一足遅く、千歳が大声でイザベラを呼んだ。

「うわっ、びっくりした!何ださっきの君か・・・いつからそこにいたんだ全く・・・」

「すいません。少し聞きたいことがあるので、後で少しいいですか?」

「まあいいが・・・商工会の話し合いをしてるんで少し長くなるぞ?」

「あ、全然そっちの話し合いが終わってからで大丈夫です。それでは」

「あれ?さっきの新入り転生者じゃないの。どうしてもイザベラに聞きたいこと以外なら、私が教えてあげてもいいわよ?」

千歳がイザベラに一言いい終えて、テーブルから離れようとすると、どこから現れたのか、後ろにビアンカが立っていた。

「おお、ビアンカか、助かる。どうしても私に聞かないといけないような質問じゃないなら、ビアンカに聞いてくれ。ビアンカはこう見えて結構物知りなんだ」

「こう見えてって何よ!あんたよりは知ってるわよ!」

「えーえー商工会の皆様、話が途切れてしまいすみません、先ほど話しました今月の売上高ですが・・・」

「もう!都合が悪くなると無視するんだから!まあいいわ、何か聞きたいことなら私が答えてあげるわ」

そう言うと、ビアンカは、イザベラの座るテーブルから、少し離れたところにある椅子に座った。

後の二人もビアンカの後に続き、テーブルを挟み、並んで座る。

「えっと、三笠、何を聞きたいんだっけ?」

「そうだな、まずはこの町の宿屋についてかな」

「宿屋ね。この町はあなたたちみたいな新入り転生者や、町を出入りする行商人も多いから、宿はたくさんあるわ。超簡素だけど、無料で休める冒険者のための簡易休憩所や、長めのいい宿、夕食と露天風呂付の宿まで、色んな宿があるわ。まあ、金がないうちは簡易休憩所一択だけど」

「中々色んな宿があるな。特に俺たち金がなかったから、今日を凌げる簡易休憩所があるというのはありがたい。それはどこにあるんだ?」

「ここから北通りを南下して、噴水広場まで行ったら、西通りを歩いて町はずれにあるフォード通りまで行って・・・と言っても結構分かりづらいし、地図を描いてあげるわ」

ビアンカは、そういうと、肩に下げてある小さなポーチから、小さな紙きれと趣のある羽根ペンを取り出した。

「まず、この都市は噴水広場を中心に東西南北に大通りが通ってて、噴水広場から同心円状に小さな通りが何本も広がってるの。それで今私たちがいるのが北通りからグレイス通りを西に少し行ったあたりだからここね。そして西通りがこれだから、フォード通りが大体この辺ね。無料宿泊所はここを南に少し行けばあるわ。通りとかもいちいち何本あるか覚えてないから、地図が結構雑だけど、噴水広場の地図を見れば多分わかるわ」

「わかった、ありがとう!この地図貰っていいかい?」

「えっ?まあ少し雑だけどいいわよ」

簡易宿泊所の存在を知り、大分心に余裕ができた。次は金だ。宿が無料でも、食事にありつくには、金が必要だしな。

「で、次にこの世界の金について聞きたいんだが、俺たちみたいな冒険者は、金をどうやって稼ぐんだ?」

「お金ね。この国のお金は、ポートとべリスという2種類の単位があるわ。1ポートが100べリスね。分かりやすい例で例えると、さっきの夕食露天風呂付きの宿は一泊300ポートになるわね」

「大体1ベリス1円くらい?」

「それくらいだろう」

「転生者にそう説明するとみんなそう言うって噂は本当だったのね・・・」

「え?違うの?」

「実際に使ってみた人たちはみんな「もっとエン安だった」って言うらしいわね。1べリスは大体3エンくらいって言うらしいけど」

「待てよ、ならもし1べリス3円として計算すると、夕食露天風呂の宿は1ポート300円だから・・・9万円!?高っ!!!」

「ねえ三笠、円安ってどういうこと?」

「中学公民で習わなかったのかよ・・・まあいつか教えてやるから。で、金を稼ぐ方法については?」

「ここの1番カウンターのギルド店員に話しかけて、今日のミッションについて聞くのよ。ミッションについて軽く説明すると、商人とか職人が金や道具、武器を報酬にあげる代わりに、ミッションを受けた冒険者は、モンスターが落とす素材を取ってきたり、離れた町に行って素材を買ってきたりなど、色々なミッションがあるわ。ミッションには危険なものもあるから、それに応じてミッションを受けられる最低レベルが違うのよ。報酬もそれに応じて豪華になるけど、この時間になるともう報酬が苦労の割に合わないようなミッションしか残んないわね」

「クソ、日雇いバイトみたいなもんか、冒険者として生きるのも楽じゃねえな」

「まあ地道に頑張ることね。それか求人をやっている商店とか鍛冶屋とかもたまにあるけど、そこも大体過酷なのよね」

クソ、完全に資本主義の闇じゃないか。冒険者なんて楽じゃねえな。

「ところで、俺たちって二人だけど、君は何人組で旅をしてんだ?」

「ああ、パーティね。私のパーティは4人組で、リーダーは女剣士のイザベラで、そして魔法使いの私、ヒーラーのレイ、アルケミストのマルクがいるわ」

「2人で冒険するパーティーってあるの?」

「パーティ内の財政上の理由と安全上の理由を考慮して、パーティの人数は4~5人が普通ね。3人パーティーはたまに見るけど、2人パーティーは流石に見かけないわ」

「俺も2人じゃ不安だからパーティーを増やしたいんだが、パーティーメンバーはどうやって増やすんだ?」

「ちょうど今の時期は学徒院の卒業生が結構仲間の募集かけてると思うわね。学徒院ってのは、職人級の技術や、一般人よりも上級の戦闘訓練をやっている、学校の最上級みたいな施設よ。まあそんな彼らも卒業したばかりだと色々分からないこともあるから、彼らは卒業後はどこかの鍛冶屋や、メンバーを募集しているパーティに入り、そこで仲間と経験を積んでいくのよ。卒業生の各種ステータス、職業などが記された名簿は3番カウンターで見れるから、人数が少ないと感じるなら引き抜きに行ったらどう?両者の合意があればパーティ加入が認められるんだけど、名簿に名前を出すのは1日300べリスかかるから、良いと思った人が明日も名簿に名前が載ってるとは限らないぞ。あと知ってることといえば、3番カウンターは6時から18時までしかやってないくらいだな」

「ありがとう!よし千歳、パーティーメンバーもこれで増やせるぞ!」

「つまり、宿は無料の簡易宿泊所があって、1番カウンターでお金を稼ぐためのミッションを受けれて、3番カウンターで仲間を探すことができるのね」

「そういうことよ。まあ細かい説明は私がするより、実際にやってみた方が早いわね」

「なるほど、では次は少し違うことを聞いてもいいか?」

「違う事って・・・何?」

「・・・今の世界情勢だよ。この国の現状とか、この国や自分たちの敵に、どんな勢力がいるのかを教えてほしい」

「なるほど・・・確かにあなたたちは転生者だし、この世界についてはまだ何も知らないようね。・・・

分かった。私の考えも少し混ざってるけど、話をしていくわ」

ビアンカは、声のトーンを少し落し、話しだした。

「まず、この国は、世界で一番強い国なんだけど、海を越えた向こう側の大陸で、急速に領地を拡大した魔族の勢力があるの。この国はまだみんな自由な方なんだけど、向こうの大陸の勢力は、指導者が一方的に人々を締め付けて、逆らおうとしたものから投獄して、指導者とその一味が権力と富を独占しているらしいわ。それが誰であってもよ」

「・・・転生先がこの国で本当に良かったよ」

「そうね。だけど向こうの大陸はもともと、人口が多い一つの種族が繁栄したエリアだったから、今は世界各地にスパイや工作員を送ってるらしいわ。この国なんて大昔に世界各地から来た色々な種族が関わりあって暮らしているから、スパイがその中に紛れ込みでもしたら、見つけるのは一気に難しくなるわ。」

「怖えな。で、その魔族の勢力とこの国はどういう関係なんだ」

「今は軍事的な膠着が続いてるわ。魔族の勢力は各方面に勢力を拡大しようともくろんでるけど、何とか魔族の勢力の周りに位置する友好的な国家にこの国の軍隊や基地を置いて、勢力拡大を抑え込んでいる形よ。」

「もし開戦したら?」

「向こう側もこの国の次に強いから、開戦したら間違いなく世界は荒廃するでしょうね。」

「友好的な国家が沢山いるのに?」

「向こう側も色んな国に金や資源や人材を送って、自分たちへの協力を要請してるらしいけど、わずかにこちらの方が力では勝ってる感じね」

「とんでもねえ勢力だな。よし、とりあえず今の世界情勢はこんな感じか?」

「そうよ。まあお互い膠着状態だし、向こうの方が少しばかり弱いんだから、開戦はしないと思うけどね」

「なるほど、よくわかった、ありがとう」

「こちらこそ。ミッションを受けるときとか、実際に戦うときになったらまた私がお手本を見せてあげてもいいけど」

「おい千歳、そろそろ時計の針が」

「冒険者証ができたみたいだから取りに行ってくるわ。ビアンカさん、ありがとう」

「ええ。私は大体ここにいるから、また困ったことがあったら来なさい。援助はしないけど、知ってることは教えてあげる。それにしても三笠楓に千歳摩耶ね、中々いい名前をしているじゃない」

「摩耶が名前なんで、摩耶で呼んでもらっていいですよ」

「俺は楓でいいや。本当にありがとう。助かりました」

「よし、摩耶に楓ね。色々と頑張りなさいよ」

ビアンカが席を立ち手を振ってきたので、こちらも手を振って別れ、カウンターに向かった。

「はい、冒険者証が完成したわよ!冒険者証には、現時点での冒険者のレベル、職業、ステータスなどが詳しく記載されているわ。ミッションを受けたりしてレベルが上がったり、職業を変えたりすると、自動的にこの冒険者証も更新されるわ。特殊な魔法石が使われてるから、失くしたら誰かに悪用される可能性もあるし、再発行も難しいから、絶対に無くさないようにね」

「「ありがとうございます!」」

受け取った冒険者証はスマホくらいの大きさがあり、その中にびっしりと先ほどの紙に書かれていたようなレベルやステータスが書かれてある。

冒険者証を学生服のポケットに入れてカウンターを離れようとしたら、おばちゃんに呼び止められた。

「あ、あと今日は泊まるところあるの?」

「あ、先ほど人から聞きました。無料宿泊所があるって話ですよね」

「そうだけど、あそこはスリも多いらしいし、寝てるうちに荷物一式盗まれるなんてこともあるからオススメしないよ」

泊まるところが見つかったと思ったのに、いきなり出鼻を挫かれてしまった。

「それに、それなりに強い冒険者ならまだしも、あんたたちみたいな新米冒険者が行ったらすぐに中で喧嘩に巻き込まれるわ」

どんどん真実を告げられ、そこに行かなくてよかったと思いつつ、安全な宿に泊まりたいという気持ちが大きくなってくる。まあ考えてみたら、こんな現代とは社会の仕組みが全く違う異世界に無料の宿泊所なんてあったら、毎日金のない落伍者やごろつき連中のたまり場と化すだろう。

「安全な宿ってあるんですか?」

先に口を開いたのは千歳だった。

「それなら北通りを南下して少し行ったところのロック通りを東方向に進んで少し行ったらこの町で一番安い宿があるわ。あなたたちと同じ転生者が一人で切り盛りしてる宿よ。主人は結構歳だけど、凄く優しくて、おまけにあなたたちのいた世界の話が大好きでねえ。良く客の転生者にあなたたちがいた世界の事を聞いてるらしいわよ。私が紹介したらもしかしたら一泊目はタダになるかもしれないね」

「本当ですか!?じゃあお言葉に甘えてそこに泊まりたいのですが」

「わかったわかった。18時になったら交代だからそれまで待っててね」

「「はい!」」


「よし!これで今日の寝床は多分大丈夫だ!千歳、とりあえず今日は何とかなるぞ!」

「良かった、本当に助かったよ、ありがとう三笠!」

とりあえず宿の確保と冒険者証の発行を終えて、今日やることをなんとか済ませた二人は、近くの椅子に腰かけ、少し話すことにした。

「で、あの女神が寄越した特殊能力ってやつ、結局何なんだろうな」

「冒険者証の裏に色々書いてあったみたいだけど」

「マジ?ちょっと確認するわ」

冒険者証をポケットから取り出し、よく確認した。

さっきは受け取ってすぐポケットに入れたため、あまり見てなかったが、一通り確認すると、表面には名前とレベル、職業名「無職」の表記、体力、気力、攻撃力、防御力、その他運の良さ、すばやさなど様々なステータスが数字化されて表示されておれ、そして下半分は何も書かれていないスペースがあった。

そして裏面を見ると、一番上に「特殊能力」と書かれており、その下の大部分は縦の線と横の線で大きく4つに区切られ、様々な項目があった。

大きく4つに区切られた左上には「弓スキル」と書かれており、その下にある5つの項目は、一番上の「LV1 弓購入、装備可能 命中力+8」と書かれた項目を除き、他は「LV20で解放 ???」「LV30で解放 ???」「LV40で解放 ???」「LV50で解放 ???」とそれぞれ書かれてある。右上、左下、右下は全部「???」となっているが、ここもスキル関連のものが来るのだろうと思う。


「俺はこんな感じだ、千歳はどうだ?」

「私もこんな感じ。」

そういって千歳が見せてきたカードには、三笠と同じ場所に「現世スキル」「LV1 現世可視 1時間」と書かれている。

「で、現世スキルって結局何なんだ?」

「テラさんには元居た世界を見通せるスキルって言われたけど」

「確かそんなこと言ってたな・・・俺は絶対必要ないスキルだと思うけどな・・・」

「あと戦闘職に就けないとも言ってた」

「あー・・・そんな感じの事を言ってたな確か。で、戦うときはどうするんだ?」

「そこは三笠に守ってもらえば・・・」

予想もしていなかったことを言われ、再び心に焦りが生じ始めた。

てっきり千歳も戦ってくれるものだと思っていたが、千歳が戦えないとなると本当に困る。

「は!?マジかお前!俺今のところ弓しか特殊スキル持ってないんだけど!?」

「だから遠隔攻撃で何とかしてもらって・・・」

「は!?そんなん絶対無理だって!俺弓道なんてまともにやったことねぇぞ!?」

「なら仲間を増やす?3番カウンターで仲間を募集してると言ってたけど・・・」

「絶対このままじゃマズいし・・・気乗りしないけど後で行ってみるか・・・」

「確かやってるのは18時までとか言ってなかったっけ?」

「マジ?確かそんなことを言ってたような気もするが・・・」

大時計を見ると、既に時計の針は17時50分を回り、あと10分もしないうちにカウンターの営業終了時間を迎えようとしている。

「マズいな、行くぞ千歳」

とっさに立ち上がり、3番カウンターへ駆け出した。

「えっ!?今から仲間見にいくの?」

「とりあえず見にいくだけだけど、良い人がいたらさっさと仲間にするよ」

ごちゃごちゃした人ごみを抜け、3番カウンターにたどり着くと、まだギルド店員らしき若い女性がカウンターに残っていた。

「すいません!まだ名簿って見れますか?」

「ああ、まだ大丈夫さ。ほら、これが今日の募集。丸がついてない人はまだ加入先が確定してない人だから、その中から選んでな」

名簿を見ると、まだ十人ほど名前が残っていた。名前の横には、職業やパーティの最低条件なども色々と載っている。

この際、回復役でも戦闘職でもいいからなんだって欲しい。

でも、先ほどビアンカがパーティ加入には双方の合意が必要だと言っていた。だから、丸が付いていない人たちの中でも断トツにパーティの最低条件を高く設定しているカリンカとか言う人とかはまず合意してもらえないだろう。っていうか最低条件が他は殆どレベル25とか30とかなのに、何故この人はレベル60にしてるんだ。レベルが高すぎて結局誰も仲間にしようとしていないじゃないか。

だから、とりあえず、最低条件を「戦える方 レベルは不問」に設定しているこの二人と話してみるか。

「すいません、この剣士の人って・・・」

「ああ、この人か。ちょっと呼んでみようか?」

「あ、ならちょっとお願いします」

「すいませーん!クリントさ~ん!」

言うが早いが、若い女性ギルド店員が人ごみに向かって叫ぶと、一人のクリントと呼ばれた白髪ショートカットの女剣士が出てきた。

「はあ~、今日はもう終わりかい?」

「いや、こちらの人たちがメンバーへ来ないかと・・・」

「へ~。君たち、その恰好、もしかして現世人かい?」

いきなりこっちに問いかけられてきたので、こっちも慌てて返事をした。

「あ、はい!自分たち今日が転生初日で・・・」

そういうや否や、突如女剣士の表情が一変した。

「え?マジ?転生初日?それでこの私を?あんたたちありえないでしょ!?いくら何でもそりゃ無理な相談だね、さっさと諦めな」

女剣士はそれだけ言うと、振り返って人ごみの中に戻っていった。

・・・正直言ってクソムカついた。

「・・・マジかあいつ。あんなんだから仲間が出来ねぇんじゃねえの?」

「こら、あまりそんなことを言わないの!」

女剣士が消えたのを見て、悪態をつくと、千歳にどつかれた。

「・・・くそ、仕方ねぇな。残りもんだし、あまり望みをかけない方が良いか。・・・じゃあすいませんが、こっちレンジャーの人呼べますか?」

「・・・望みをかけないって何だったの?」

「ああ、もちろんさ。ビルクさ~ん!」

店員がまたもやカウンターに向かってそう呼ぶと、渋い恰好をした西部のガンマンみたいな恰好の男性が出てきた。・・・何と言うか少しダサい。

「・・・今日も終わりかい?」

「いや、ここの人たちがメンバーに来ないかって」

「ほう。こんなところに貴族がいるとは思えないが・・・君たちは現世人か?」

「はい。今日が転生初日でs」

「ハァァ!?君たち今日が転生初日なのかい!?そいつぁ悪いがお断りさせてもらうよ、帰った帰った」

そういって男も振り返り、人ごみの中へ戻っていった。

・・・さっきと反応が同じだ。正直言ってこいつもムカつくな。

「・・・もしかしたら君たち、転生初日だし、戦いの経験とかが全くないから無理なのかもね。ここで仲間の募集かけてる人も求めるパーティに対してある程度の条件を持ってるだろうし、あまり君たちのようなパーティに加わっても良いという人は少ないと思うよ」

「だって三笠、やっぱ今日はやめとこうよ」

「・・・やっぱそんなもんですかね、じゃあ今日はとりあえずこの辺にしときます」

「・・・そうしときな。大変だと思うけど、たまにはここにも来てくれよ。いい仲間が見つかるかもしれないしな」

・・・まあ自分たちは今日この世界に生まれたも同じようなもんか。実際一度も戦闘していないわけだし、そりゃ誰もこんなパーティに入りたくないだろうな。ほぼ無力な仲間を二人抱えるより、一人で戦った方が取り分的にもいいだろう。・・・自分でも多分そっち取るわ。


ゴ~~~ン・・・ゴ~~~ン・・・


少し考えていると、18時を告げる大時計の音が響いてきた。騒がしい中でもしっかりと聞き取れるほどしっかりとした音だ。

「じゃあ、ここは19時からバーになるから、今日は店を閉めるよ。・・・色々大変だとはおもうが、またな」

「ありがとうございました。またいつか来ます」

「まあまあ、三笠、何とかなるって。ほら、今日は宿があるし、明日また来てみようよ」

「そうだな、じゃあ行くか!」

すこしショックな自分を奮い立たせ、笑いを作り、3番カウンターを後にしようとしたその時。

後ろから、少女のわめく声が聞こえてきた。

「待って!待ってくれ先生!あと一日・・・!あと一日だけっ・・・!頼むからあの屋敷だけは・・・っ!」

「もう終わりです、いい加減諦めなさいカリンカ!」

なんかさっき見たことあるような名前だと思い、3番カウンターの方を振り返ると、カリンカと言われた赤髪の女の子が、先生らしき人にがっしりと手を握られてカウンターに立っていた。

「・・・あれ誰?」

「・・・多分さっき名簿にいた一人だ」

千歳の質問に答え、向こうの三人の会話に聞き耳を立てる。

「あれ?今年は一人余ったんですか?」

「そうなんです。いつもはみんなそれぞれの道へと旅立つんですがねぇ」

「待ってください・・・っ!あと一日!家だけには戻りたくないんです!」

先ほどのギルド店員と会話しているが、内容から察するに多分先ほどビアンカが言っていた学徒院の卒業生あたりだろう。・・・まさかあれがあの最低条件をLV60にしてたビアンカか・・・?

そう思いながら見ていると、先ほどのギルド店員がこちらに気づいたようで、

「あ、あそこの人たちが、先ほど仲間を探しに来たんですけど・・・」

「マジか!?おーい!そこの御二方!ちょっとこっち来てください!」

少女に呼び止められたが、ここで帰るのもなんかいけない気がする。

「おい、千歳。ちょっと行ってみよう」

「えっ?う、うん」

3番カウンターの方へ戻り、ギルド店員に聞いた。

「この人は?」

「この人はカリンカさんだね。学徒院の卒業生さ。職業は魔法使いで、最低条件はレベル60以上」

ギルド店員がそう答えると、先生が驚いた顔をして、カリンカを問いただした。

「えっ!?カリンカ、あなたそんなレベル高く設定してたの!?」

「マジで少し高望みしただけなんです先生!みんなはレベル30くらいだけど、あたしは2倍くらい行けるかなと思って!」

「あんたもいくら優等生とは言えど、まだ学生なんだから、そんなにレベルを高く設定するのが間違ってるのよ!」

「すいません!だから一日延長でお願いします!何でもしますから!」

「いや、もう無理よ!おとなしく家に帰りなさい!」

「くっ・・・!」

聞く耳を持ってくれない先生に対し、カリンカは必死の説得を試みるも、意味がないと分かったのか、カリンカは突然こっちを向いて訴えかけてきた。

「お願いします!何でもしますんで、パーティに加入させてください!」

「えっ・・・でも俺たち転生初日だけど、大丈夫?」

「大丈夫です!戦闘なら回復以外は全然カバーできますんで仲間に入れてください!」

カリンカが最後の望みを自分たちにかけ、必死に懇願してくると、先生は困ったように言った。

「いや、あなたたちも大丈夫なんですか・・・?」

「大丈夫って・・・?」

「カリンカは、優等生ではあるのですが、学徒院一の異端児と言われるほど性格に難ありで・・・」

性格に難ありか。確かにレベル60なんて最低条件を指定する以上、相当な高飛車か相当なバカのどちらかだろう。

それに、さっき断られた二人とくらべると、こっちの方が大分ましだ。

「ああ、その辺はなんとかなりますよ」

「ほら!先生聞きましたか!?お願いしますよ!」

「う~ん・・・本当に転生初日のあなたたちにこんな子を任せていいんでしょうかね?」

「ま、まあ彼女もここまで凄く頼み込んでくるってことは、色々な理由もあるんでしょう、それに何でもするって言ってますからね?」

「はい、マジでお願いします!何でもしますんで!」

・・・少しからかおうとしたのだが、あまりにも目がガチだ。

「でも三笠、30行以内に3回だよ?何でもするのハードルが低くない?」

「・・・そういうことはあまり言うもんじゃないぞ・・・お前も結構怖いな・・・」

千歳が自分にしか聞こえないようにそう言ってきて、千歳の鋭さに若干驚いた。

「・・・じゃあ、本当にいいんですね?」

カリンカの先生が言ってきた。カリンカを見ると、もう目が必死に涙をこらえ、何かを求める者の目になっている。ここで断るのはあまりにも酷だろう。

「もちろん良いっすよ。千歳もだろう?」

「うん。やっぱここで断るのは可哀想だもんね」

「・・・わかりました。カリンカ。くれぐれも迷惑ばかりかけないように」

そういうと、先生らしき人は大きなため息をつき、カリンカの手を放した。最もそのカリンカは目から涙があふれだしていたが。

「ありがとう!本当に助かった!マジで恩人です!!!」

「・・・じゃあ、お互いに合意ってことで、手続きをするから、ここにお三方のサインを」

そう言ってギルド店員は紙とペンを取り出すと、カウンターに置いた。

「はい、ペン!本当に助かった、ありがとう!」

カリンカが真っ先にサインし、ペンを渡してきた。

自分がサインを終え、千歳も後に続きサインをした。

「よし、オッケー。じゃ手続きはもうこっちで済ませとくから。じゃ私はもう急いで片づけないといけないんで」

そう言うと、ギルド店員は紙をもって暖簾の奥へと消えた。

「じゃあ、色々とありましたが、今年も何とか全員を送り出せてよかったです。本当にありがとうございました」

残された先生らしき人が、自分たちにそう告げてきた。

「いやいやこちらこそ。こっちも仲間が足りず困っていたところですし」

「本当にこちらとしても戦える人が来ただけで十分です!こちらこそありがとうございました!」

「じゃあカリンカ。・・・もう私は何も小言は言いません。・・・何がともあれ、あなたたちの武運長久を祈ります。カリンカ、卒業おめでとう。立派になったわね」

「・・・先生にも色々と迷惑かけたけど、本当に今までありがとうございました。たまには学校にも顔を出そうと思いますよ」

「・・・学園中の窓ガラスを割ったり、理科室で大爆発を起こしたりは、もうしないでちょうだいね?」

「分かってますよ。では御二方、そろそろ行きましょうよ。向こうで誰か待ってるみたいっすよ」

カリンカに言われ、初めて1番カウンターのおばちゃんを待たせていることを思い出した。

壁の大時計を見ると、もう時計の針は18時20分を指している。

「まずい、1番テーブルのおばちゃんを待たせてるんだった!そろそろ行こう千歳」

「そうだった!大変!向こうで待ってるわ!じゃあ先生、さようなら!」

先生が手を振るのを見届け、酒の匂いが徐々に立ち込めてきたセンター内を駆け抜け、1番カウンターのおばちゃんが座っている席へと向かった。

「あなたたち、早速仲間を見つけたわね!ずっと見てたわよ!しかも学徒院卒業生とは、中々やるじゃない!」

「全部見てたんすか、まあいいや。こいつは新しい仲間のカリンカです。」

「ご紹介にあずかりました、カリンカです。よろしく」

「はっはっは!元気で良いねぇ!せっかくの仲間なんだから、大事にしなよ!」

「じゃあ、そろそろ行きましょうか」

「おっと、確かにもうこんな時間ね。そろそろあなた達もお腹が減ってきたことだろうし、宿へ案内してあげるわ!」

言われてみれば自分は家で朝飯を食べてから今まで何も食べていない。学校が12時30分と言う微妙な時間に終わったから、自分は昼飯も食ってなかったんだ。そして殺されたり、転生したりして、本当に色々なことがあったけど、みんなのおかげで不思議と上手くやれたなあ。

「三笠。・・・行こう」

千歳に横から声を掛けられ我に返ると、視線の先には色々な人に挨拶しながら出口へと向かうおばちゃんと、その横を楽しそうに歩くビアンカの後ろ姿が見えた。

「・・・そうだな。行こうぜ、千歳」

自分はそう言うと、すっくと立ち上がり、先を歩く2人へ追いつこうと駆け出した。

「あ、待ってよ!三笠~!」


まだ自分たちは、この世界がどんなものか知らない。

だからこそ自分たちは、この新たな世界で、希望を捨てずに強く生きていくべきだと思う。

そうすれば、進む道の先には、きっと明るい未来が待っていることだろう。

「転生しても案外世界は上手くいくんだな」

そう独り言をつぶやきながら、自分はドアへと向かう二人を追っていった。


「はあ・・・はあ・・・、千歳、お前足早いな・・・」

「そう?三笠が遅いんじゃないの?」

「でもお前、一応プロの卓球選手だろ」

「タッキュー?何すかそれ?何かの薬草っすか?」

「卓球な。俺たちが元居た世界のスポーツだよ。教える機会があったら教えてやる」

「そうだ。それで思い出したけど、結局ラノベってどういうものなの?」

「げーっ!まだお前そんなこと覚えてたのかよ!さっさと忘れてくれよ!」

「そのラノベって何なんすか!?なんか探求心をくすぐられる響きっすね!」

「めんどいのが二人に増えちまったよ!」

「あんたたち、話してるのもいいけどちゃんとついてきてよ。迷うんじゃないよ」

出口の扉の前に来たところで、前を歩いていたおばちゃんがこちらを振り返ってそう言った。

「分かってますとも!」

「うん、いい返事だね。じゃあ出るよ!」

おばちゃんはそういうと、出口のドアノブを回し、勢いよく扉を開けたー!

次は宿に行っておじさんとあって眠りにつくまでの話を書くゾw

投稿予定は未定だけどモチベがあれば二週間以内に続編は出せるかもね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ