第7話
『王様は命令をして下さい』
「この7周目で能力を使いたくない者、又は相手に使ってほしいと思う者は1マス戻る」
駒が動いたのは海豚と海月
嫌な予感がすぐ背後まで迫っている
焦燥感を覚える
「ウサギ、能力を使わないで下さい」
「出来ません」
「どうしてですか。そんなに自分の身の潔白を証明することが大切なんですか」
「違います。…テスト勉強に集中できず部屋の片付けをしてしまうように、そのとき必要でないと分かっていても、どうしても必要なことはあります」
「それがゲームに負けることだって言うんですか」
「殺されたいと思う人に殺されることが出来るのは――とても幸福なことです」
やっぱり、絶対的になにかがおかしい
変だ
負けたら死
主催者側は今回そんなことは言っていない
どこにもそんなことは書いていない
…今発言しても無意味か
私以外の全員が待機中になっている
私も待機のボタンを押した
『3つの能力が使用されました。ゲームに「負け」となった参加者は2名です。第8回王様ゲームの王様を決定し、賽を振って下さい』
[ペンギン]3マス
[犬]2マス
[針鼠]2マス
[ホルン]3マス
[スケボー]3マス
[リボン]4マス
[ウサギ]0マス
[蝶]2マス
[海豚]3マス
[海月]2マス
『[リボン]と[海月]がゴールしました。以降2名は王様ゲームのみの参加となります。王様は命令をして下さい』
この状況で私がするべきは…
―――――
自分を後退させられるような命令をする
「NOT.GOAL」だと打ち明けることを考えた命令をする ←選択
―――――
意を決し、私は大きく息を吸った
他者と同じことをしては意味がない
私にあるのは仲間
なら、それを利用出来るような命令にしないといけない
「私を信じてくれる人は、3マス進んで下さい」
動いたのはスケボーと…ウサギ
「私は最後までこの双六に残ります。最後の2人になってはいけない人は、早くゴールして下さい」
「私が「指名」するとは考えなかったんですか。私はあとひとり「指名」出来れば「勝ち」ですよ」
「もちろん考えました。でも信じてくれるんでしょ?スケボーは動くって信じてた。ウサギ、ありがとう」
「…完全に信じることなんて無理です。でも「この王様ゲーム」であなたが伝えたいこと、それには信じる価値があると…なんとなく、そう思いました」
「ありがとうございます。早速ですが、このゲームの変だと思うところを指摘したいんです」
「それは興味深いですね」
そう思っているようにはとても思えない
「私はさっきのゲームのことしか知らないけど、みんなの反応から負け=死っていう方程式が成り立っているように感じた」
「実際そうだと思いますわ。わたくしが参加したゲームでは全てそうでしたもの」
「それはルールで説明されたり、今回のルールように文章に記載されていたんですか?」
「そうですわ、ゲームマスターが」
「明確にはっきり、ですか」
「お分かりですね?の様な表現のときもありましたが――確かに変ですわね」
「ゲームの性質上の問題かもしれませんが、このゲームに「死」という文字、言葉はどこにも潜んでいるように思えません」
「引っかかりを覚えていた部分ではありましたが、ここは場数の少ない[ペンギン]の方が上手のようですね」
洗脳のようなものをされていない、という意味だろう
「文字通り受け取るなら、今回のゲームでは死者は出ず、次のゲームではこのゲームの「勝ち」や「負け」が確定した順番が重要になるのかもしれません。例えば次のゲームもこの10人で行う…とか」
「同意します。ですが、危険なく終われる方法があることは分かっていますか」
「はい、ウサギが私を「NOT.GOAL」と指名すれば「能力なし」の参加者が困ることはありません。これは仮説ですし、次のゲームについてもまだ分かりませんから、ウサギに任せます」
「[ペンギン]には所持金がないそうですね。あまり不利になるようなことはしたくありませんから、「指名」はしません。「能力なし」の方は自力で頑張って下さい」
『オプションが使用されました。これより2分間の自由発言タイムを設けます』
「話しは終わっていたのにごめんね。今回僕の駒が動かなかったことについて言い訳を聞いてほしくてね」
「どうぞ」
「ありがとう」
さっきのゲームで見せた、微笑みに安心という感情を混ぜた表情をしているのだろうと容易に想像出来る
この人物は表情のレパートリーが乏しいのだ
それが感情の乏しさを表していると思う
実際は表情筋が上手く使えないだけかもしれないけど、なんとなく違う気がする
兎に角、私はこの男が好きではない