第6話
「話しの流れを考えるのであれば誰かが[ウサギ]は「スナイパー」にとって脅威だ、と指摘するまでは少なくとも計算に入っていると考えられます。ですから、わたくしを「指名」しないという約束に嘘はありませんわ」
「それはリボン、お前の予想でしかない。確かめる術はないんだぞ。どうしてわざわざ危ない橋を渡る」
「分からないのですわね」
「スケボー、落ち着いて考えれば分かるから」
深く深呼吸する音が聞こえる
「時間もない。教えてくれ」
「あんな曖昧な命令になにか制約がないはずがありませんわ。[ウサギ]は予めゲームマスターに自由発言を使用すること、なにを言い、なにを約束するかをある程度伝えてあったはずですわ」
「嘘を吐いたと判断されれば駒が動くだろうが、動いていない。だから本当に「指名」しないということか」
「それも違うよ」
「なにが違う」
「嘘と本当はコインの裏表とは違うから…。嘘は吐いていないけれど、本当のことでない。そんなことは沢山あるんだよ。…残念だけど」
「[ペンギン]の言う通りですわ。[ウサギ]はわたくしを「指名」しないと約束はしましたが、「スナイパー」を「指名」しないとは約束していませんのよ」
「リボンと同じマスになったときに能力が使用されれば「交換」されたことになる。だから元の「交換」の持ち主を「スナイパー」と「指名」するということか」
「これは「スナイパー」の能力が動くことを防いだだけじゃないんだよ。リボンは今周囲に他の参加者がいなくてゴールも近いから、今自分を「指名」しないと約束出来ればゴール出来る可能性の方が高いんだ」
言われなくちゃ気付かなかったくせに、最初から分かっていた様な様子で参加してくるこの男を、私はやっぱり好きにはなれそうにない
「これで今持ち主がはっきりとしていない能力は「交換」と「NOT.GOAL」と「敗者復活」。「交換」が封じられている今、「NOT.GOAL」さえ分かれば残りの全員が「負け」とならずこの「双六鬼ごっこ」を終えることが出来るんだよ」
甘い
ウサギが「指名」しないのはリボンだけなんだから「能力なし」だって「指名」される可能性はある
この場合ウサギがどんなつもりであるかが、最も重要になる
「なるほどな。4つのゲームで平均殺人数が1.1人とはこういうことか」
感心している場合じゃない
「ウサギ、ひとつ――」
ゾワッとした感覚が背中を走り、思わず言葉を止める
「負けたら死…」
『5分が経過しました。第7回王様ゲームの王様を決定し、賽を振って下さい』
一体ウサギはなにを言おうとしていたのだろう
それに気になることがある
このゲームのルールや能力の説明、オプション、更には主催者側の発言には一度も「死」という単語は出て来なかったはず
それなのにウサギは迷わずその言葉を口にした
確かにさっきのゲームでは多数決に「負け」たら死だった
でも今回は?
「負け」の先のことはなにも言われていないし書いていない
全員にそう認識されているから説明しない
そんなおざなりな理由以外で考えられるのは…
「そう誤解してほしい…」
『警告します。[ペンギン]賽を振って下さい。これ以上の遅延行為は「負け」とします』
「あ、しまった。またやってしまった。すみません」
[海豚]2マス
[ペンギン]1マス
[犬]1マス
[針鼠]2マス
[ホルン]2マス
[スケボー]1マス
[リボン]3マス
[ウサギ]2マス
[蝶]2マス
[海月]3マス
「矛盾」である海豚と能力が分かっていない海月が同じマス…
でもウサギが言った通り出来ることなんてないはず
気にし過ぎるのが悪い癖だと言われたんだから、駄目だよ
…でも、なにか嫌な予感が拭えない
それは何故なのだろう
『王様は命令をして下さい』
「この7周目で能力を使いたくない者、又は相手に使ってほしいと思う者は1マス戻る」
駒が動いたのは海豚と海月
「意味が分からない命令ね」
「同感だ。ウサギのように考えがあっての命令だとも思えない」
「大丈夫」
「…なにが、ですか」
嫌な予感がすぐ背後まで迫っている
焦燥感を覚える
「私には伝わった」
「是非私にも分かるように教えて下さい」
「一緒に死のう」
その一言を最後に2人は待機中になってしまう
「ウサギ、能力を使わないで下さい」
「出来ません」
「どうしてですか。そんなに自分の身の潔白を証明することが大切なんですか」
「違います。…テスト勉強に集中できず部屋の片付けをしてしまうように、そのとき必要でないと分かっていても、どうしても必要なことはあります」
「それがゲームに負けることだって言うんですか」
「殺されたいと思う人に殺されることが出来るのは――とても幸福なことです」